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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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69話 オイヴィの過去 千年の時

 室内の空気が凍りついた。


 生涯最高の剣を打てた暁には自分を殺せと、オイヴィは言った。


「ふむ。他の者たちはさておき、ヌシはさほど驚いておらぬようじゃの」

「まぁ、似たようなヤツを見たことがあってな。千年の時を生き、強さを求め過ぎるあまり、いかに死ぬかだけを考えるようになっていた魔神をな」

「そうか。くふふ……ワは魔神と同じか」


 くすくすと、オイヴィは肩を震わせて笑う。

 静かな部屋に、オイヴィの声だけが響く。


「けれどの、ワの場合はちと違うかの」


 笑みが消え、寂しげな表情が浮かぶ。

 虚無感が表情の端に見え隠れしている。


「ワはの、何かを究めたわけでもない……ただ逃れたいのじゃ、この『呪い』から……」


 千年間、老いることのないその身体。

 生と死の枠組みから外れた少女。

 それは確かに『呪い』なのかもしれない。


「これを見てくりゃれ」


 そう言って、オイヴィが懐から小さなナイフを取り出す。

 幼いオイヴィの、小さな手に丁度フィットする、小さなナイフだ。

 ただ、刃が不思議な輝きを放っている。

 極限まで鍛え上げられたような、それだけではない、魔力のようなものを纏っているような、そんな不思議な輝きを持つ刃だ。


「九百年前……ワがこんな体になってから、百年間脇目もふらずに鍛冶に打ち込み、技術を磨き、全身全霊を持って打った渾身の一振りじゃ」


 百年。

 普通の人間がそれだけの期間を鍛冶一筋に打ち込めば、一流をも超越する達人の域に達するだろう時間。

 それだけの時間を、天才と呼ばれるオイヴィが鍛冶に打ち込んだのだ。

 あの小さな刃に、どれだけの思いが込められているのだろうか。想像も出来ない。


「現状、ワの打った武器の中では間違いなく最高の出来じゃ」


 そう言って、そのナイフを手の中で回転させ、逆手に握る。

 と、おもむろにオイヴィは自分の心臓を貫いた。


「オイヴィッ!?」


 悲鳴にも似た声を上げ、テオドラが駆け寄る。

 しかし、オイヴィは涼しい顔でそれを制止する。

 片手を上げて、うっすらと笑みを浮かべて……


「大事ない……かすり傷じゃ……」


 その言葉は、酷く自虐的に聞こえた。


 オイヴィがナイフを引き抜くと、傷口から勢いよく血が吹き出し…………徐々に血の量が減っていき…………見る間に傷口がふさがった。


「ワはの……死ねぬ身体なのじゃ」


 オイヴィに変わりはない。

 先ほどのことなど、まるでなかったかのように、平然とした顔をしている。

 ただ、服の胸元にベットリと血のりが付着しているだけで……


「ガウルテリオが次元の壁に穴を開けてしばらくした後……ワは、魔界に行ったのじゃ」

「オイヴィが、魔界に……」


 先ほどの衝撃的な光景からまだ立ち直っていないのか、テオドラはオイヴィの胸元を見つめたまま、半ば無意識に言葉を漏らしている。

 先ほど流した涙の痕が、赤く頬に浮かんでいる。


「よく、戻ってこられたな」

「まだ結界が張られる前じゃったからの」


 さも当然なことのように、オイヴィは俺の問いに答える。

 魔物が自由に行き来出来たのだから、人間が行き来することも可能だったわけか。


「ワは、魔界の鉱石に興味があっての。魔界の鉱石を使えば、どんな武器が造れるのか……考えただけでわくわくしたもんじゃ」


 魔力が充満する魔界で、魔力を存分に浴びて誕生した鉱石。

 それで武器を作れば……魔力を帯びた武器になったりするのか?


「予想通り、魔界の鉱石は素晴らしいものじゃった。ワは喜んだ。『魔石』などと名まで付けて、それは酷いはしゃぎぶりじゃった。周りが見えなくなるくらいに大はしゃぎをして…………踏み外してしもうたんじゃの……まっとうな人生という名の道を」


 魔界の鉱石――『魔石』が、オイヴィにもたらしたものは……甘く、絶望的な『呪い』だった。


「『魔石』を鍛えるのは、人間には無理だったんじゃ。一槌打ちつける度に、ワの体は崩壊していった。細胞レベルで消滅していったんじゃ。けれど、『魔石』の魅力に憑りつかれていたワは槌を振り続けた。『魔石』を打ち続けた。……憑りつかれておったんじゃろうの…………気が付いた時、ワはイモムシみたいに地面に転がっておったわ」


 テオドラが息を呑む。

 ルゥシールも、無言ながらにオイヴィの話に聞き入っている。

 フランカの表情は読めないが……深く沈んだ瞳からは、憐みのようなものを感じる。


「身じろぎすら出来ぬようになり、いよいよワは死ぬのじゃと確信した……その時現れたのが、レプラコーンじゃ」


 鍛冶師が崇拝する鍛冶の妖精、レプラコーン。

 オイヴィに鍛冶の力を与える代わりに、年齢を奪っていく妖精。


「ワは死の淵でレプラコーンと契約を結び、そして崩壊しかけていた肉体はあっという間に再生された。おかしなことに、十二まで育っていたワの体は六つの頃に戻っておったがの。その時点で、人生の半分を持っていかれたわけじゃ」


 オイヴィはドワーフだ。

 ドワーフは長寿で老いにくいと言われている。が、大人になるまでは人間とほぼ変わらない速度で成長していく。

 個体差があるらしいが、十二~二十歳辺りまで育ち、そこから成長が止まるのだそうだ。鍛冶や戦闘が長く続けられるように。

 だから、オイヴィのように幼い体で成長が止まるということはないだろう。


「当時のワは、天才と言われておっての。六つの頃から鍛冶に従事し、十二の頃には独り立ちしておった。いや……もはやドワーフの中にワに並ぶものなど存在しないとまで言われておった……くふふ、今思えば、なんとも未熟なものよの。そんな言葉で有頂天になっておったのじゃから」


 十二歳で世界を飛び出し単身魔界に乗り込むとか……まさに天才と言うべき行動力だ。

 芸術家気質溢れる突拍子の無さだな。

 子供ゆえの無謀とも言えるが……


「それ以降、ワは『魔石』を打つことが出来るようになった。細胞が崩壊しようと、すぐさま再生する身体を手に入れたからじゃ」


 オイヴィの瞳が輝く。

 幼い少女が、宝物を手に入れたかのように。


「鍛冶が楽しゅうて楽しゅうて……ワは夢中で『魔石』を打ち続けた。魔界に行って一年が過ぎた頃に、ある男に出会い、一つの依頼を受けた。調子に乗っておったワは、その依頼を二つ返事で承諾し、そうして鍛え上げたんじゃ……ワの生涯で最高と自負しておる、伝説の武器を」


 魔界に行って一年。

 オイヴィが十三歳の頃だ。


 そんな若い時に、生涯で最高の武器を完成させたのか。


「凄まじい武器じゃったぞ。刃の長い美しいランスでの、見た目の秀麗さに反し威力は凶悪じゃった。耐久性に優れ、それでいて軽量で、馬に乗らずとも振り回せる歩兵用の武器として使える代物じゃった。おまけに、特殊な加工を施すことによって魔力を発生させ…………次元に穴を開けるほど強力な最強の魔神を打倒すほどの力を秘めておったわ」

「……おい、それって…………」


 知らず、喉が鳴る。

 オイヴィの話に、俺は引き込まれていた。

 俺には、聞き逃すことの出来ない話だからだ。

 俺にゆかりのあるヤツが二人も登場する、俺の知らない時代の話……


「うむ。ワに依頼をしてきたのは、マウリーリオ・ブレンドレル。ヌシの先祖じゃ」


 マウリーリオがガウルテリオを討った武器。

 それを作ったのが、オイヴィだったのか。


「マウリーリオが最初に完成させた『神器』フィーユレーブ。それ以降、ヤツは『魔石』を使っていくつもの『神器』を生み出していきおった……」


 なるほど。

 魔力を帯びた『神器』の秘密は『魔石』にあったわけか……


「『魔槍』サルグハルバも、お前の作品なのか?」

「さぁの。ちと思い出せんが……おそらくそうなんじゃろうの」


 思い出せないほど、沢山の『神器』を作ったということか。


「マウリーリオは『魔石』から魔力を抽出する方法を生み出し、また同時に鉱石に魔力を宿らせる秘術も生み出した。それによって、こちらの世界でも『疑似魔石』を生み出すことを可能にした……今、マウリーリオの遺志を継いで陰でこそこそしておる連中は、その技術を継承しておるのじゃろうの」


 例のミスリルゴーレムは、そんな技術の結晶なのだろう。


「もっとも、純粋な『魔石』には遠く及ばんがの」


 つまり、純粋な『魔石』なら、あのミスリルゴーレム以上の恐ろしい化け物を生み出せるということか。

 ぞっとしない話だな。


「しかし、ある日不意にっ……ワは恐ろしくなったんじゃ……」


 ぽつりと、オイヴィが漏らす。

 紙の上に落とした水滴のように、その不穏な雰囲気は徐々に広がっていく。


「ワの造った武器が魔神を討ったと聞いた時にの……ワは自分が何者か分からんようになってしもうたんじゃ……ワはただの……天才と呼ばれるだけの、ただの鍛冶師なのか……それとも、とんでもない化け物なのか…………」


 鍛冶師は武器を造る時に二つの覚悟をするという。

 その武器で誰かが命を落とすという現実を受け入れる覚悟と、……その武器が持ち主を守り切れずに、持ち主が命を落とすという現実を受け入れる覚悟。

 それらの責任の一端を、鍛冶師は背負うことになる。


 オイヴィの造った武器は、世界を変えた。

 世界を変えるという覚悟は、当時十と少しの少女には重過ぎたのだろう。


「ワが武器を造れば世界が変わる。扱うものの心一つで、良くも悪くもの……」


 意志をもって世界を変える。

 そのために、武器は使用される。

 そんな武器を生み出す鍛冶師もまた、そんな意志に利用されるのだ。


「ワは、魔神よりも、魔神を討ったマウリーリオよりも、何より、自分自身が怖ぁなった……そして、この化け物を滅ぼさねばと、そう思うたんじゃ」


 そしてオイヴィは、百年という歳月をかけて一振りのナイフを生み出した。

『神器』フィーユレーブを超える武器を誕生させるために。

 しかし、その小さなナイフはフィーユレーブを超えなかった。


「レプラコーンはワの所業を許しはせんかった……ワの命が尽きるまで、ワを許さぬじゃろう。そして、ワの命は、ワの最高傑作でないと絶つことは出来んのじゃそうじゃ……」


 それから九百年……オイヴィは何を思い生きてきたのだろうか。

 何度も寄せられる依頼を断り、武器を造らなくなり、ただこの町に居続けた。

 何を思ってこの鍛冶の町で人間たちを見つめていたのだろうか。


 そして、何を思ってテオドラに武器を打つと約束したのだろうか。


「しかし、生きてみるもんじゃの。千年生きて初めてじゃった。不死身のワの身体を、己の命を削ってまで心配してくれる愚かで可愛い人間に出会ったのは」


 そう言って、オイヴィはテオドラに視線を向ける。

 テオドラは、恥ずかしそうに顔を背けた。その話は聞きたくないと言わんばかりに。

 その様を見て、オイヴィの顔に悪い笑みが浮かぶ。


「庭先でずっと土下座をしておった娘がおっての」

「あ、あの、オイヴィ……! その話は……」

「む? ワは『誰のこと』とは言うておらんが?」

「…………うぅ……もう、オイヴィは……」


 くふふと笑い、オイヴィはテオドラから顔を背ける。

 もう聞く耳は持たないとでも言いたげな態度だ。


「その娘はの、ワは何があっても武器を打たぬと言うておるにもかかわらず、一年近くも毎日ここに通い、庭先で頭を下げ続けておっての。最後の一ヶ月は庭先でずっと土下座をしておったわ。朝から晩までずっとの……」


 その時のことを思い出すかのように、オイヴィは遠くへ視線を投げる。

 そして、何を思い出したのか、「くふっ!」と吹き出した。


「娘が庭先に張りついておったので、ワも一ヶ月ほど家に籠る羽目になったんじゃが……ワもついに焦れての、『もういい加減に諦めよ』と言いに娘のもとへ顔を出したんじゃ。そうしたらの、……くふふ……その娘はなんと言うたと思う?」


 堪え切れずにオイヴィは笑い出し、テオドラは羞恥に顔を真っ赤に染めている。

 俺たち他の面々はさっぱり分からず、話の続きをただ待っていた。

 目尻の涙を拭い、オイヴィが息を整えてから続きを話す。

 一ヶ月土下座を続けたテオドラの言葉を。


「『よかった』じゃと。なにがじゃと聞けば、『一ヶ月外に出てこないから、おなかをすかせていないか心配していた。倒れているかもしれないと、何度も見に行きたくなった』などと言いおっての」

「もう、その辺でやめてくれませんか、オイヴィ!?」

「まだじゃ! 取って置きのオチを言うておらんじゃろう?」

「うぅ…………っ!」


 テオドラの抗議を軽く流し、オイヴィは話したくて仕方ないという顔で続ける。


「呆れるのを通り越して、ワは笑うてもうての。そうしたら、今みたいに真っ赤な顔で怒りおるんじゃ。『笑うなんて酷いです』との。笑うじゃろう、それは。しかもじゃ! その直後にテオドラは……あ、名前を言うてもうたか。ま、もうよいよの? テオドラはの、怒った直後に突然倒れおったんじゃ。なぜじゃと思う? おなかがすき過ぎてじゃ!」


「ぷふーっ!」と盛大に吹き出し、オイヴィはまたけたけたと笑い声を上げた。

 テオドラは全身を真っ赤に染め、俯いて体を小さくしていた。


 一ヶ月間、飯を食っていなかったのはテオドラも一緒だったのだから、仕方のないことだろう。

 しかも、心配していたオイヴィは不死身ゆえに空腹でも平気なのだ。


「思わずテオドラを招き入れてしもうたぞ。いいからヌシは飯を食えとの。ここで、ワがご馳走してやったのじゃ」

「……その節は、多大なご迷惑を…………面目ない」

「いやいや。おかげで楽しい時間が過ごせたしの」


 それが、オイヴィが誘拐される直前の話らしい。

 ということは、テオドラが土下座をしている間に、ミーミルがオイヴィのもとを訪れたことになるわけだが……テオドラは気が付かなかったのか? あんなにデカい魔神がすぐそばに来ていたというのに。


「裏にも出入り口があるとは、気の毒でついに言い出せなんだがの」

「そうなのですかっ!?」


 なるほど。そう言うことか。

 テオドラはマジで驚いているようだ。

 まぁ、驚くか。


「不死身のワを心配して、カジャとアルジージャを何往復もしてくれたようじゃしの」

「だって…………心配で」

「死なぬことは以前話したじゃろう?」

「たとえ死なずとも……オイヴィは女の子ですから……その…………危険は他にも」

「なんじゃ、そんな心配までしておったのかや?」

「そ、そりゃ、しますよ! ワタシは……オイヴィには、傷付いて欲しくないのです」


 テオドラの言葉に、オイヴィは目を丸くし、その後、嬉しそうに微笑んだ。

 音もなく歩き出し、テオドラの前まで行くと、そっと手を取った。

 両手で、大切なものに触れるようにそっと、テオドラの手を包み込む。


「バカじゃのぅ……ワは不死身で、傷もすぐに元通りじゃ」

「心の傷は、すぐには消えるものじゃありませんよ」

「ふむ、そうかもの」


 オイヴィの声が、微かに揺れる。

 咄嗟に、口を押さえさらりと顔を撫でる。

 今、オイヴィのヤツ泣きそうになっていなかったか?

 まるでそれを誤魔化すように、オイヴィは悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「けどの。誰に何度手籠めにされようと、ワは永遠に処女のままじゃぞ?」

「オイヴィッ!?」

「すぐに再生するからの」


 照れるテオドラを見て、嬉しそうに笑うオイヴィ。

 実にあくどい笑みだ。


「あの……ご主人さんの前で、そういう話は……やめていただけると」

「……【搾乳】の知識はスカスカの状態。水を与えればすぐに吸収してしまう」


 そこにルゥシールとフランカが参入する。

 俺に聞こえないようにこそこそと会話をしている。まぁ、聞こえているけども。


「おい、ルゥシール」

「は、はい! ……なんでしょうか?」


 身構え、警戒するルゥシールに、俺は気になったことを尋ねる。


「処女ってなんだ?」

「…………想像を裏切りませんね、ご主人さんは」


 なぜか、盛大に脱力されてしまった。

 なんだ?

 みんな知ってることなのか?

 知ってて当然か?


 そんな俺の問いに答えてくれたのは、フランカだった。


「……処女というのは、ここにいる、ルゥシールを除く者のこと」

「ちょっとフランカさん!? わたしを除かないでくださいよっ!」

「……えっ、まだなの?」

「まだですよ! 当たり前じゃないですか!」

「…………百年以上も売れ残っているなんて……」

「い、いいじゃないですか! み、身持ちが堅いんです、わたしは!」

「……性格に難があるの?」

「ないです! モテないわけではありません!」

「……ビッチまるだしな胸をしているのに……」

「そ、そんなことないです! 胸とビッチは関係ないですよ!」

「………………ビッ乳」

「やめてくださいよ! 誰がビッ乳ですか!?」

「なぁ、ルゥシール。ビッチってなんだ?」

「今、会話に入ってこないでください! ご主人さんは知らなくていいことです!」


 なんだよ、なんだよ、仲間外れかよ。

 いいよいいよ。じゃあ、俺は、最初からずっとここにいるのに誰にも話しかけられていない存在感の薄過ぎるバプティストと話すから!


「バプティスト。さっきのフランカの言っていたことなんだが……」

「え……な、なに、かな? 王子……」

「お前も処女なのか?」

「バカ……、なのかな、王子は?」


 バプティストにバカ呼ばわりされた。

 すげぇショック。

 とりあえず、蹴っておく。


「痛いっ……! 痛いっ……! 地味に、痛っ、痛いから……!」


 照れて真っ赤なテオドラ。

 よく分からない論争を繰り広げるルゥシールとフランカ。

 バプティストを足蹴にする俺。


 そんな騒々しい面々を見て、オイヴィが大声で笑い出す。


「くふふっ! 実によい! 実に愉快じゃ! ヌシらとおると飽きることがないのぅ!」


 そして、俺をまっすぐに見つめて言う。


「よい剣が打てそうじゃ」


 笑みを浮かべ、笑顔のまま柔らかい声で続ける。


「生涯最高の武器が打てた暁には……頼むぞ」


 さっきまでの諦めたような雰囲気はなく、投げやりでも、人任せでも、すがるような感じでもなく、ただ純粋に、オイヴィは俺に頼み事をした。

 こんな清々しい顔で頼まれたら、断れるはずがない。


「あぁ。任せとけ」

「君……っ」


 テオドラが苦しげな表情で俺を見つめてくる。

 けど、それ以上は言わなくていい。

 つか、言うな。


 オイヴィが決めたことを、お前が否定してやんなよ。


 大丈夫。

 俺だってただ闇雲に命を奪う真似はしないさ。


 だから大丈夫だ。


 それに、オイヴィの顔を見てみろよ。

 あれが人生を悲観して死に急いでいるヤツの顔かよ。

 オイヴィは俺に「最高の『剣』を打つ」と言った。

 そして、「生涯最高の『剣』を打てた暁には」と言っていたのを、「生涯最高の『武器』を打てた暁には」と言い換えた。

 つまり、オイヴィは今回の仕事で人生を終えるつもりはないということだ。

 言い換えればこれは、オイヴィが前向きに鍛冶を再開するつもりになったと言える。


 もう一度真剣に鍛冶と向き合って、自身の生涯をかけて最高の武器を打つ。鍛冶師本来の生き様を取り戻したのだ。

 その結果が出た時、俺がまだこの世に存在していたのなら、その幕引きに立ち会ってやるくらいの責任は取ってやるさ。


 随分と先の話になりそうだけどな。


「そうと決まれば、さっそく炉に火を入れるぞ! バプティスト、ワを手伝ってくりゃれ」

「え……あの…………はい」

「……ちょっと待って」


 動き出そうとするオイヴィとバプティストを、フランカが呼び止める。


「……バプティストに用がある。代わりにルゥシールを貸すから、交換して」

「えっ!? なんで勝手に決めてるんですか!?」

「ふむ……ま、よかろう」

「えっ、えっ!? わたしの意志は無視ですか!?」

「……こちらは、とても重要な要件」

「うむ。ワも忙しくなるんじゃ。ほれ、早よう準備しやんせ!」

「え、え、え、えっ!?」


 困り果てたルゥシールが俺に視線を向けてくる。

 が、これはもう逃げられないだろう。

 観念して手伝ってこいと言う思いを込めて、大きく首肯してみせる。


「うぅ……分かりましたよ! 何でも言ってください! お手伝いします!」


 そうして、オイヴィとルゥシール、フランカとバプティストはそれぞれ部屋を出て行った。

 部屋に残ったのは、俺とテオドラだけだった。


「さて、俺らはどうするかな」

「少しいいだろうか?」


 テオドラが姿勢をただし、真剣な表情で俺に向かい合う。


「手合わせを願いたい。剣の練習に付き合ってはくれまいか?」

「あんまり真剣なヤツでなければな。たぶん、剣ではお前に勝てん」

「ありがとう。では、ワタシたちも表に行こう」


 俺はテオドラを連れだって表に出る。


 軽く剣の稽古をつけてもらおうかと、そんな軽い気持ちでいたのだが……テオドラの剣はとても重かった。

 とても重い、想いが込められていたのだ。


 ほどなく、俺はそれを知ることとなる。









ご来訪ありがとうございます。


オッス、オラ悟空!


嘘です、とまとです!



今回のタイトルは、


『69話 ビッ乳』


にしようかと思ったのですが……ネタバレ? かと思いまして。

あと、割と(この作品にしては)真面目なお話なので、

真面目な感じのタイトルに変更しました。



……おぉう、激しくデジャヴ。



というわけで、前回今回と、たっぷりオイヴィが書けたので満足です。


オイヴィは魔界に潜入後、幸運にも生き残り、約一年間魔石に関する研究をして、不死身の身体を手に入れます。

その後、マウリーリオの依頼をこなしつつさらに研究を続ける中、ミーミルに出会い『最高傑作』を完成させるための知識を蓄えていきます。


人間が到達出来ない技術を持つドワーフ。その中の天才が永遠の命と膨大な知識を得て、誰も追いつけない域に到達しました。

その知識と技術はまさに魔神級です。


だからこそ、色々悩みがあったんでしょうね。


見た目は六歳。頭脳は魔神級。

その名は名探偵コナ………………いや、なんでもないです。



辛いことの後に明るく振る舞うのがオイヴィのやり方で、

そういうのがちょっと切ないなと……


私などは、つい慰めてあげたくなるのです。

何も言わずギュッと抱きしめ、不安な夜は隣で添い寝をして、髪の毛洗う時に怖い話を思い出すといけないからお風呂にも一緒に入って、夜中のトイレにも一緒について行って…………もちろん、『清い心で』ですよ?


あぁ、ロリババァと添い寝したい!

六歳ならセーフって法律出来ないかなぁ!?


次の選挙、もしかしたら出馬しているかもしれません。

その際は、どうか清き一票をよろしくお願い…………いや、やっぱりいいです。


そんなことよりも!


どうかまた、こちらへ足を運んで頂いて、

ご笑覧いただけますよう、お願い申し上げます。

今後とも、よろしくお願いいたします。



とまと


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