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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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58話 突破口

「ご主人さん!」


 部屋に踏み入ると、いの一番にルゥシールが飛びかかってきた。


「来てくれると……きっと来てくれるに違いないと信じていました!」


 俺の首にぶら下がり、鼻をずびずびと鳴らす。

 俺がフランカの腰を抱きかかえているため、三人で寄り添うような格好になる。


「気持ち悪かったですよぉ……」

「すまん。部屋に戻るなり状況説明をしに来るつもりが……遅くなった」

「……私の読みが甘かったせい。ごめんなさい」

「いいんです! こうして、助けに来てくれたんですからぁ!」


 やはりというか、なんというか。

 ルゥシールとテオドラは自身のハレンチな格好ゆえに、いつもの動きが出来ず、また、にやけ顔を貼りつけた無数のジジイどもに対する嫌悪感と恐怖心に全身を支配され身動きが取れなくなっていたらしい。


 この部屋に詰めかけていたジジイどもは、我先に襲い掛かろうとしたあまり入口でつっかえ、勝手に自滅していたらしいのがせめてもの救いだ。

 その後間もなく俺たちが到着し、ルゥシールもテオドラも、ジジイの汚い指には一瞬たりとも触れさせずに済んだ。

 現在は、すべてのジジイが逃げ出し、この宿屋は空になっている。

 いたとしても、気絶してひっくり返っているヤツだけだ。


 感動するルゥシールを落ち着かせ、抱えていたフランカを解放する。


「……あ…………」


 フランカが一瞬よろける。

 咄嗟にルゥシールが支えに入るが、フランカがそれを手で制した。


「…………平気……ちょっと、魔力が少なくなっただけ」


 俺が随分と景気よく魔法をぶっ放したせいで、フランカの魔力はほぼ底を尽きかけている。

 というか、俺の魔法は非常に燃費が悪いのだと、この前気が付いた。

 フランカが自分で使う魔法と、俺が魔力を借りて使う魔法では、魔力の消費量が倍以上違ったのだ。

 きっと、自分の魔力ではないという思いから、節約しようという精神が欠落していたのだろう。今後の課題だ。

 借り物なんだから、なおさら気を付けないとな。

 兄貴の方なら死んでも構わんが、フランカはもう少し大切に扱ってやらないとな。


 と、そんなことを思っていると、背後からテオドラに声をかけられた。


「助けてくれてありがとう……ああぁっと! すまないがそのままで! こちらを向かないでくれまいか!?」


 振り返ろうとした俺を、テオドラは全力で制止させる。


「さ、さっきまで好奇の視線にさらされていたせいでね……少し、恥ずかしさが増してしまって…………ちょっと限界なのだ……はは、何を言っているのだろうな。ワタシのような者が、少女みたいなことを……似合いもしないくせに」


 あははと乾いた笑いをもらし、テオドラが自分を貶める発言をする。

 むむ。それはいかん。

 テオドラは美人だし、スタイルもいい。

 胸はルゥシールには及ばないものの、メリハリのあるいい形をしている。

 何より、凛とした瞳とピシッとした姿勢が非常に格好いい、魅力的な女性なのだ。

 多分、ちょっとだけ年上だ。


 そんな美女が、自分を貶めるような発言をするなど……あってはいかん!


 なので、あえて見る!


「ちょっ!? き、君!? 向こうを向いてくれと言っているではないか!」

「やかましい! 美人のおっぱいを見たいと思うのは、人として当然の衝動だ!」

「び……美人……!? な、なにを言っている!? ワタシが美人……などと……か、からかうのはよしてくれたまえ!」

「美人でないというのなら、おっぱいを隠すな! 自分を価値のないものだと言うのなら、その価値のないおっぱいを拝観無料にして、いつでも公開しておけ! 俺が毎朝毎晩欠かさずお参りに行ってやろう!」

「い、言っている意味がよく分からないのだが!?」

「さぁ、見せろ! なんなんら触らせろ! 美人でもなく、価値もないおっぱいなら、この俺に全権を譲渡するのだ!」

「わ、分かった! ワタシは美人だ! おっぱいにも価値はある! だ、だから、とりあえず一度向こうを向いてはくれまいか!?」


 よし。そういうことなら向こうを向いてやろう。


「……なんなのだ、君は…………あんなおかしな理論に説得されてしまうとは……」

「あ、あの。ご主人さんは、基本的に残念な方なんですが……」


 なんだと、ルゥシール?

 勝手に谷間に挟まるぞ。


「けれど、とても優しい方なんです。悪意はまったくありません。それは、わたしが保証します」

「……スケベ心は満載だけどね」


 なんだとフランカ。

 胸の上に生卵を乗せて高さ比べをするぞ。


「なんとなくだが……分かる気がする。彼の優しさや、温かさというものが。ワタシを、叱ってくれたのだろう?」


 まぁ、そういうことだ。

 いいものはいい。それは覆らない真実だ。


 何より、俺がちょっとでも気に入っているものを悪く言うんじゃねぇよ。ってことだ。


「とにかく、行動を起こしましょう。逃げていった枯れ木のごとき老いぼれさんたちはまだ退治していませんから」


 普段あまり人を悪く言わないルゥシールが精一杯譲歩しても老いぼれが限界か。しょうがないな。

 ちなみに、ルゥシールは、俺に危害を加える者にはさん付けをしない。

 この前それに気が付いて、しばらくの間ニヤニヤが止まらなかったんだ。


「うむ、そうだな。しかし、その前に武器と、あと服を取り返しに行きたいのだが」


 テオドラが、露出した肌を少しでも隠そうと身をよじりながら言う。

 ……おい、やめろやめろ。その動き、余計にエッチィから!


「……誰がこちらを向いていいと?」

「すいません。本能が理性を凌駕してしまったもので……」


 チラ見をしたら、速攻でフランカにバレた。

 あいつ、なんか俺のことよく見てるんだよなぁ。監視してんのか?

 ちらっと視線を向けるとかなりの確率で目が合うし。そのくせ、目が合うとすぐに逸らして……監視、下手なんだろうな、きっと。


 監視か……

 その懸念は結局払拭されていないんだよなぁ……


「すまないな、テオドラ」

「へ? 何を謝る必要があるのだ?」

「鍛冶師オイヴィが人質になっている可能性を精査する前に行動を起こしてしまった。最悪の場合、オイヴィに危険が降りかかるかもしれない」

「な、に…………君たちは、そんなことを」


 テオドラが目を丸くする。

 フランカの言うように、ここは慎重に動くべきだったのだ。

 オイヴィは、実年齢はともかく見た目は幼女らしい。あの変態ジジイどもが何かしないとも限らない。……酷い目に遭っていなければいいが。

 というか、ここに捕らえられている保証もなく、何も分からない状態なので、ことさら慎重に動こうとしていたのだ。


 だが……


「その鍛冶師が、お前にとって重要な人物であることは重々承知している……だが、俺は、俺の大切な仲間が危険に晒されて平然とはしていられなかった」


 ルゥシールにもしものことがあれば……こんな世界くらい平気で滅ぼすぞ、俺は。


「なんだ、そんなこと……」


 テオドラは、俺と向かい合い、ぽんと肩に手を乗せた。

 真っ直ぐに俺の目を見つめてくる。


「仲間なら当たり前じゃないか。君は、何も間違っちゃいない」


 男前で、凄く美人な、不思議な笑みだった。


「ワタシとしても、こちらの都合でルゥシールやフランカが泣くことになるなど、我慢出来んからね」


 そう言って、今度は子供っぽく笑う。

 こいつの笑顔は、ルゥシールとは種類がまったく異なるが……とても心地いい。


 ……って、ルゥシールとフランカの名前は覚えてるんだな。俺はナントカ・ブレンナントカなのに。


「テオドラ」

「なんだい?」

「この角度から見ると、結構谷間が凄いことになってるんだな」

「ぃにっ!?」


 声にならない声を上げた直後、テオドラの右手が振り抜かれ、俺の頬に激痛が走る。首が飛んでいくかと思った。これは、あれか? 居合抜きとかいうヤツの応用か?

 頭がクラクラする……


「み、見ないでくれと言っているではないかっ!」


 半泣きで、……いや、八分泣きでテオドラが吠える。

 胸を押さえ、蹲り、俺に背を向ける。

 ……その格好だと、上尻が軽く見え隠れして、それはそれで堪らんものがあるのだが……


「いや、お前が俺の名前だけ覚えてくれないから、ちょっと意地悪を言いたくなっただけなんだが……」


 と、しゃべったつもりなのだが、顎へのダメージが思った以上に深刻で、口から出た音声は「ふが、ふふがふひほふがふが……」みたいな、低級魔物の鳴き声のようなものだった。


「君の名前なら、ちゃんと覚えたさ! ただ…………」


 蹲った格好で俺を見上げてくるテオドラは、拗ねたように頬を膨らませ、照れくさそうに呟いた。


「……殿方の名を口にするのは…………照れくさいのだ」

「ルゥシール! これを一つ包んでくれ! 持って帰る!」

「そういうサービスは取り扱っていませんよっ!」

「じゃあ、ここで食べていく!」

「食べ物でもありません!」


 なんだよ、この店!?

 サービス悪いんじゃねーのー!?

 ……あ、店じゃないか。


「……アホの【搾乳】に構っている暇はない。……向こうが動き始めた」


 フランカが窓から外を窺っている

 ……って、今アホって言わなかった?


 ルゥシールも窓へと駆け寄り、壁に身を隠すように外を覗き込む。


「本当です、アホのご主人さん。どうしましょうか?」


 あれ?

 なんか流行り始めた感じ?


「えっと……アホの君」

「やめてくれよ、そんな『麗しの君』の残念バージョンみたいな呼び方」


 テオドラはルゥシールたちのノリに慣れていないせいで、よく理解出来ていないようだ。

 無理して合わせなくていいから。

 あの二人は、そこそこアホなんだから。


 そんなじゃれ合いはさておき、俺も窓際へと近付く。


 窓の外に、ジジイどもが群がっていた。

 何人かのジジイの手には松明が握られている。

 ……宿ごと燃やす気か? お前たちの村だろうに。


「……見て。老人共の足元に何かいる」


 フランカの視線の先には、確かに魔物のようなものがいた。

 何人かのジジイが、その魔物の首に付けてある縄を握りしめている。あのジジイどもは調教師――テイマーだとでもいうのか?

 それにしても、あんな魔物は見たことがない。


 目を凝らしてみると、その小柄な魔物は夥しい量の魔力を有していた。

 分厚く大きな太ももの下に、細く折れ曲がった脛が続いている。太いももで体を固定し、細い脚先でバランスをとるのだろう。

 そして、もっとも特徴的なのは突き出た口だ。

 ふたつ折りにでもされたかのようにペタリと前屈している上半身。その先に、まるで銃のように突き出た口を持つ、獣のような顔が付いているのだ。


「……おそらく、何かしらの魔法をあの口から発射する魔物」

「だろうな。アレで肉弾戦を挑んできやがったら『口邪魔っ!』って突っ込んじゃうよな」


 その魔物は、さながら砲台のように見えた。


「この宿に火を放ち、ワタシたちが逃げ出してきたところを、あの魔物で狙い撃ちにするつもりなのか……卑劣な」

「けど、あの魔物さん……生きている感じが全然しないんですよね」


 ルゥシールの指摘したことを、俺も感じていた。

 見たことがない、という以上に、あの魔物が魔物に見えないのだ。

 確かに魔力を持ってはいるのだが……


 そうこうしているうちに、宿へと火が放たれる。

 マジでやりやがった……どうかしてんじゃないのか!?


「ご主人さん、どうしましょう!?」

「落ち着け、ルゥシール。フランカ、頼めるか?」

「……少しきついけれど…………これで打ち止めになると思っておいてね」

「分かった」


 俺がフランカの胸に手を置くと、テオドラが「ぅぇええっ!?」と声を上げた。


「な、なにを!? え、あれ、なんだ? いいのか? いや、よくないだろう!? ぅえええ!?」


 思う存分にテンパッている。

 心のままにテンパッている。


 が、今は放置だ。


 学習能力のないジジイどもに、もう一度思い知らせてやる。

 俺に、こんな魔法妨害は通用しないってことをな!


 窓の上から手をかざすと、魔物が立っている場所の地面がピンポイントで盛り上がり、槍のようにとがった岩が突き出してくる。

 それらはすべての魔物を余すことなく貫き、そして、魔物の生命活動を強制終了させる。


 流石に理解したか、ジジイども?

 あ、もしかしてもうろくしちゃってて覚えていられないんだとしたら、悪いこと言っちゃったかな?

 ボケって、怖いね。


 そんなことを思っていると、勝利の余韻に浸る暇もなく、ルゥシールが声を上げる。


「ご主人さん! あれを見てください!」


 ルゥシールが指さした方向――群がるジジイどものその向こうから、一頭の巨大な生き物が姿を現した。

 ……いや、生き物じゃない。あれは…………


「ゴーレム……」


 それは、この宿ほどもある、巨大な石の人形。

 命を与えられた、無機質の魔法生命体。


 ゴーレムの肩には村長のウジンが乗っている。

 ヤツの手下なのか、このゴーレムは。


「ご主人さん、どうしましょう?」

「とにかくデカいな……。フランカ、どうだ?」

「……ごめん。もう、無理…………」


 フランカは魔力を消費し過ぎてもう立つのがやっとという状態だ。

 あんなデカいヤツをぶっ飛ばすほどの魔力は期待出来ない。


「くそ……武器さえあれば、あんなヤツ敵ではないのだが……」


 テオドラが悔しそうに歯噛みをする。

 俺たちの武器と服は、村長の家だ。

 村の一番奥であり、今向かってくるゴーレムがいる方向だ。

 あのゴーレムをやり過ごさなければ武器は取り戻せない。


 となると……アレ、しかないか。


「ルゥシール」

「はい! わたしは、いつでも行けます!」


 元気に答えてくれるのはありがたいんだが……そんな真っ直ぐな目をされると言い出しにくいんだよなぁ……まぁ、言うけども。


「ドラゴンになって、あいつを撃退出来るか?」

「ドッ、ドラゴン……ですか?」


 ドラゴンに戻るということは、アレをやるということだ。

 つまり、ほら、アレだよ、アレ!


 パイオツ揉みーの、ヅケクチ交わしーのだ。 

 ……あぁっ!? 余計にいかがわしい感じに!?


 つまり、ルゥシールの魔力をすべて奪い取り、ルゥシールの魔力を抑制する楔を外してからすべての魔力を還元する……………………おっぱい揉んで口づけを交わすのだ。


「し、しししし、仕方な、なないないない、ないのではにゃいでしょうきゃ!?」


 ルゥシールが噛み噛みだ。


「にょい、りゅうしーりゅ! しょんにゃにキンチョーされると、こっちまでキンチョーちゅるりゃろ!?」

「……あんたも相当酷いわよ、【搾乳】……」


 だってお前!

 ルゥシールの今の格好見ろよ!?

 この姿のルゥシールにそんなことするんだぞ!?

 ご褒美過ぎるじゃねぇか!? ホント、ありがとね!?


「ちょっと待てくれたまえ! ドラゴンって、どういう……」

「……待って。その質問は後回し」


 フランカが人差し指を立てて「しっ」と、全員の口を閉じさせる。

 ドアの向こうで、パチパチという、木の裂ける音が聞こえる。

 火が回ってきたのだ。


「……時間がない。二人とも急いで」


 フランカの目が俺とルゥシールを交互に見る。


「は、はい!」

「お、おう!」


 急かされて、俺とルゥシールは向かい合う。


「……いくぞ」

「………………どうぞ……あっ、でも、ちょっとだけ待ってくだ…………いえ……ど、どうぞ!」


 改めて見ると、なんちゅう服着てんだよ、お前!?

 ほぼ裸じゃねぇか!?

 ……けど、照れている場合ではない。急がなければ…………


「何をする気なのだ?」

「……しっ。黙って見ていて。これから史上最低な行為を恥ずかしげもなく人前で、割と長い時間かけて、見せつけるように、二人っきりの世界の中で、忌々しいほどにたっぷりねっとりねっちょりとやるところだから、見ていれば分かる」

「部屋変えようか、ルゥシールっ!?」

「そうですね! 幸い宿屋ですし、空き部屋ならいくらでもあるでしょうし!」


 流石にそこまでガッツリ見つめられると照れるっつぅの!


「……部屋を変えて、二人っきりで、ゆっくりご休憩……」

「ちょっ!? 変なこと言わないでくださいよ、フランカさん!? 楔を外すためですから! 私の封印を解くための儀式なんです! それ以上でも以下でもなく、それ以外のどんな思惑も含まれない純然たる清廉潔白な行為なんですよっ!」

「……パイオツ揉みーの、ヅケクチ交わしーのが?」

「なんでそんないかがわしい表現になるんですかっ!?」


 あ、やっぱいかがわしい?

 つか、フランカ、俺と思考回路同じかよ。


 その時、大きな爆発音が鳴り響き、熱風が開け放たれたドアから流れ込んできた。


「マズいぞ!? この建物は長くはもたない! 何かをやるつもりなら急ぐんだ!」


 テオドラの指摘は正しい。

 もう時間がなかった。


「ルゥシール、行くぞ!」

「はい!」

「お前たちは、ルゥシールがゴーレムの意識を引きつけたらすぐにここから避難してくれ!」

「……了解した」

「分かった! それまではここで待機をしている」

「頼む! すぐに終わらせるから!」


 フランカとテオドラにそう伝えて、俺とルゥシールは隣の部屋へと駆け込んだ。

 隣の部屋は空き部屋だったようで、人がいた気配がなく、ベッドは綺麗に整えられたままになっていた。


「よし、じゃあルゥシール、準備をしてくれ」

「は、はい! ……そ、それで、あの…………ちょっと向こうを向いていてもらえませんか?」

「なんでだよ? 時間がないんだぞ。今すぐに始めないと……!」

「ふ、服を! …………脱ぎますので」

「はぁぁああああっ!?」


 何言ってんの? え、何言ってんの!?

 ちょっと、この人何言ってんの!?

 え、え? ご褒美!?


「ち、ちちち、違いますよ!? 変な意味ではないですよ!? あの、服が、その、着たままだと、また破れてしまって……だから……戦闘後に裸にならないために戦闘前に裸になるんです!」


 結局裸にはなるんだね!?


「ですから、その! 変な意味ではないですよ!? こ、こんな服でも、無いよりはマシというか、戦闘が終わってすぐに元の服が取り戻せるとは限らないわけで……今回は魔導士のローブも手に入りませんし!」

「分かった! 分かったから!」


 照れるルゥシールを見ていると、なんでかこっちの方が照れてしまう。

 とにかく、ドラゴンになる前に服を脱いで破れないようにしたいらしい。

 けど……じゃあ、俺は…………


「生乳揉み放題っ!?」

「揉み放題ではないですよっ!?」

「生乳ール!」

「ルゥシールですっ! もう掠りもしてないですよねっ!?」


 俺たちが二人揃ってあわあわしていると、再び爆発が起こる。

 そうだ! 時間がないんだ!


「とにかく、向こうを向いてください!」

「お、おう!」


 と、ルゥシールに背を向けると、目の前のベッドに視線が行った。


「そうだ! シーツ! シーツを巻こう!」


 素晴らしい発見をしたことをルゥシールに伝えるべく振り返ると…………もう、ちょっと脱ぎ始めていた。


「にゃぁぁぁああああっ!」

「わぁ、ごめんっ!」


 軸足を中心に、床が抉れそうな勢いで回れ右をする。


「で、でも! シーツ! シーツを体に巻いて、それで隠せば、シーツ! シーツ!」

「分かりました! いいアイディアだと思いますので、シーツシーツ騒がないでください! フランカさんたちが見に来ちゃいます!」


 確かに騒ぎ過ぎると「……何かあったの」って見に来ちゃうかもしれないな。

 その時、素っ裸のルゥシールのおっぱいを揉んでいる光景を目撃されたら……終わるな、なんか色々と。こう…………「見られた!」っていう、感じが……色々な終幕を連れてくる気がする。


 俺は固く瞼を閉じ、ルゥシールがベッドへ移動する様を一切見ないように注意した。

 ごそごそと、衣ずれの音が聞こえ…………ドキドキしちゃうだろうが!


「……あ、あの……準備………………出来ました」


 ルゥシールの声に瞼を開け、ベッドへと振り返る。


「ぬぅぉぉぉおおおおおおおおおうっ!?」


 ベッドに、ルゥシールが横たわっていた。横向きに寝て、肘をついて上半身を少しだけ起こしている。

 胸から下の部分にシーツをかけ、雪のように白い肩だけが外に出ている。 

 肩から鎖骨にかけてのラインが妖艶で、持ち上がったシーツから、ともすれば覗きそうになる大きな膨らみ。……覗き込んじゃうだろう、これは!?


「は、恥ずかしいので、あんまり見ないでください!」


 じゃあちょっとは!?

 ちょっとだけなら見てもいいの!?

 どれくらいまで許容範囲!?


「はっ……早く……来て、ください…………お願いします」


 その場所で、その格好で、そのセリフ…………なんだかよく分かんないけど、たぶんそれダメなヤツだ!?


 だってその下すっぽんぽんなんだよね!?

 エッッッロ!?

 想像以上にエロイぞ、ルゥシール!?


 ここで三度目の爆発が起こり、部屋の前の廊下が炎に包まれる。


「ご主人さんっ! 早くしてください! お願いします!」

「じゃあ、いただきますっ!」


 飛びかかる!


「ちょっ!? 違いますよ!? 分かってますよね!? 封印を解くんですよ!? 魔力を奪って戻すんですからね!?」


 ルゥシールが何か言ってるけど、俺の頭はもうすでに思考を完全放棄していた。

 目の前にいるルゥシールのことしか目に入っていなかった。


 見たい、触れたい、吸いつきたい!


「ご主人さんっ!」


 ベッドに飛び乗り、ルゥシールに覆い被さった俺に、ルゥシールは必死な声を向ける。

 微かに、涙を浮かべた瞳が俺を見つめる。


「……目が怖いです…………優しく…………してくれないと、イヤ、ですよ……」


 はぅっ!?


 今、心臓が一回破裂した。

 ルゥシールの言葉が、ザックリと、心臓に突き刺さった。


「ごめん……怖くないように、するから」

「…………はい」


 俺はルゥシールの髪を撫で、そして、仰向けになっても重力に負けず天を突くように突き出している大きな胸に手のひらを乗せる。


「ふにゅ…………っ!」


 微かな声を漏らし、ルゥシールは瞼を固く閉じる。

 もう片方の手を反対の胸に乗せる。

 途端に凄まじい勢いで魔力が押し寄せてくる。

 落差の大きな滝のように、叩きつけるように魔力が流れ込んでくる。


 しかし、不思議なもので…………ルゥシールの魔力は、全然気持ち悪くない。

 むしろ、少し心地いい。

 こいつの魔力は、やはり特別なのかもしれない…………いや、もしかしたら……


 こいつが特別なのか?


「……んくぅ…………」


 魔力のほとんどを吸い上げると、ルゥシールの全身が弛緩していき、吐息が漏れた。

 同時に、首の付け根に楔が浮かび上がって……やがて消失する。


 今だ!


 力なく瞼を閉じているルゥシールに、今度はそっと口づけをする。


 柔らかい感触と甘い香りに意識が飛びそうになる。

 頭がくらくらして、心臓がヤバイくらいに早鐘を打つ。


 この状況が後一分でも続けば、俺はきっと脳か心臓のどちらかをやられる。

 再起不能になることだろう。

 けれど、そう思うと同時に…………


 いつまでもこうしていたい。


 そんなことも考えてしまうのだった。




 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!




 ……って、そうも言ってられないか。


「よぉし、ルゥシール! 聞き分けのないジジイ共にお灸をすえてやれ!」


 高らかに咆哮したルゥシールは、宿屋の屋根を突き破り、炎で赤く照らされる夜空へと舞い上がった。


 そして、巨大なゴーレムと巨大なダークドラゴンが激突した。








いつもありがとうございます。


ちょっと遅れてしまいました。

すみません。



早くアップしたかったので、今回はあとがき少なめです!


楽しんでいただければ幸いです。



今年も残すところあとわずか。

一体、あと何回「おっぱい」って書くんでしょうか……


自重することなく、

2014年走りぬけます!


今後ともよろしくお願いいたします。



とまと


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