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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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59話 アルジージャ事件 鎮圧 

 宿屋が激しく燃え上がり、夜の闇を煌々と照らす中、村の最奥、村長の家が大爆発を起こした。

 俺は、その爆発を間一髪で逃れ、全速力で逃げていた。


 ……フランカから。


「……【搾乳】は一度、その無神経な性格を根本から強制する必要がある!」

「待て! わざとじゃないんだって!」

「……待つのは、あなた!」

「まったくだ! アレはあまりにひどいぞ! 流石のワタシも怒髪天を突く思いだ!」


 テオドラが参戦し、形勢は一気に不利になる。


 なぜこんなことになったのかというと、……まぁ、平たく言えば着替えを覗いた。

 違う! ワザとじゃないぞ!?


 ルゥシールがゴーレムの意識を引きつけてくれている隙に、俺たちは燃え盛る宿から脱出し、その足で村長の家へと向かったのだ。

 装備品を回収するためだ。

 何人かいた見張りは俺が気絶させ、フランカとテオドラを先に行かせた。


 遅れて村長の家へ到着した俺は、すぐさま自分の服に着替え、ミスリルソードも回収した。

 そうすると、すぐにでもルゥシールの元へ戻りたい衝動がむくむくと頭をもたげてきたのだ。

 いくらダークドラゴンとはいえ、あんな巨大なゴーレム相手に一人では、苦戦を強いられるかもしれない。……まぁ、ルゥシールの方がデカいんだけども。それでも、急に心配になったのだ。


 それで、先に来ていたフランカたちのもとへと顔を出した。

 流石に着替えも終わっているだろうと思ったのだが……ばっちり着替え中だった。

 しかも、二人とも一回全部脱いでから着替えるタイプなのかなんなのか……物凄い肌色率だった。


 で、この有り様だ。

 村長の家を爆破したのはもちろんフランカだ。

 俺を狙っての誤爆なのだが……なんだよ。魔力残ってんじゃん。


 というわけで、物凄い速度で宿屋前へと舞い戻ってきた俺たち。

 そこには、ぐるぐると夜空を旋回する巨大なダークドラゴンの姿があった。

 ゴーレムの姿が見えない。

 ……退治、したのか?


 そう思った時……




 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!




 一声、ルゥシールが咆哮し、俺に向かって闇のブレスを吐き出したのだ。


「なにっ!?」


 ルゥシールが俺に攻撃を!?


 意外な行動過ぎて回避が遅れた。

 両腕をクロスさせて顔をガードするのがせいぜいだった。


 覚悟を決める暇もなく、身を固めるしか出来なかった俺に漆黒のブレスが迫り……頭上を素通りしていく。


 ドンと重い音がし、俺の背後で衝撃が起こる。


 振り返ると、俺の背後にゴーレムがいた。

 いつの間に!?


 ルゥシールのブレスは、背後から迫るゴーレムに向けて吐き出されたものだったのだ。

 ……が、随分と手加減されている。

 ルゥシールのブレスは、相手の魔力を奪い、同時に焼けつくような高温でダメージを与えていく。浴びせ続ければ敵を消滅に追いやることも出来る強力なブレスだ。

 なのに、なぜ単発で、弾き飛ばす程度にとどめたのか?

 咄嗟だったからか?


「きぁあー?」


 まるで、「大丈夫ですか、ご主人さん?」とでも言いたげな声でダークドラゴンが可愛く鳴く。

 あぁ、大丈夫だ。助かったよ、ありがとう。と、片手を上げて返事をする。


 しかし、どこから湧いて出やがったんだ、こんなデカいヤツが、気配も感じさせずに……

 と、振り返ると、ゴーレムは音もなく地面の中へと沈んでいくところだった。


「なんだ、こいつは!?」


 追いついてきたテオドラが、地面へ沈んでいくゴーレムを見て声を上げる。

 巨体が完全に地面の中へと沈み姿を消す。

 ルゥシールは再び上空を旋回し、注意深く辺りを窺い始める。


「……土との同化を可能にする魔物?」


 テオドラよりやや遅れて、フランカが合流する。

 あの巨体が音もなく地面に消えた現象に驚きながらも、冷静に相手の能力を分析する。

 地面との同化……土や石の中に姿を隠せるのか……


「ふはははは! どうじゃ、ワシらのミスリルゴーレムは!?」


 完全に崩れ落ち、いまだ炎上を続ける宿の前に、村長のウジンをはじめ村のジジイ共が集結している。

 余裕のありそうな言葉とは裏腹に、声は上擦り、表情には余裕がない。

 何人かのジジイに至っては身をすくめて上空を警戒している。


「いくら魔法が使えようと、ド、ドッ、ドラゴンを召喚しようとっ、お前たちに勝ち目はないのじゃ! 精々、ワシの家を爆発させるくらいの反撃しか出来んじゃろうて! ……よくもワシの家をっ!?」


 なんだかジジイが一人でお祭り騒ぎだ。

 一回落ち着けよ。


 どうやら、相当このゴーレムに自信があるようだ。

 が、頭上のドラゴンが気になって仕方ないのだろう。

 勝ち誇り方も、どこかぎこちない。


 にしても……


「ミスリルゴーレム?」


 聞いたことがない。

 だいたい、ストーンゴーレムか、マッドゴーレムといったところが普通だろうに。

 ミスリルをあれだけ集めて、しかもゴーレムとして完成させるなんて……

 少なくとも、ここのジジイどもが何千何万集まったところで出来ることじゃない。

 誰かがこのジジイ共のバックに付いてやがるんだ。

 それが誰なのか……


 以前にも言及した通り、ミスリルは【魔力伝導率】が極めて高い反面、魔力に対する耐久性が極めて低く脆い。

 大量の魔力を与えて無機質の物体を生き物のように動かすゴーレムという魔術には耐えられるわけがない。動かそうとすればあっという間に崩壊してしまうはずなのだ。

 それがあの巨大さで、かつ土との同化なんて特殊能力まで備えたゴーレムを実用化させるなんて……

 どれだけ高位な魔導士ならこんな規格外のゴーレムを完成させることが出来るというのか……


 いや、魔導士には無理かもしれない。

 こいつを完成させるには、ミスリルという鉱石……それ以外の物も含まれているかもしれんが……このゴーレムを形成する素材に対する相当な知識と、扱いこなすだけの技能が必要になる。

 そんなことが出来るのは、俺の知る限り……マウリーリオくらいのもんだ。


「くそっ、どこに消えた!? 姿を見せろ、卑怯者め!」


 地面に向かってよく通る声で叫ぶテオドラ。

 腰に下げたカタナに右手をかけ、いつでも抜刀出来る体勢を取っている。


 その背後から、突然ミスリルゴーレムが出現する。

 足元の地面から音もなく、文字通り湧いて出るように、巨大なゴーレムが姿を現す。

 テオドラの背後を取り、叩き潰そうと巨大な腕を振り上げる。


「甘いっ!」


 しかし、テオドラは素早く反応し、目にも留まらぬ速度でカタナを抜刀しゴーレムの腕を斬りつける。

 ガィィィイイインッ! と、金属の悲鳴のような音を響かせ、ミスリルゴーレムの腕が大きく弾き飛ばされる。


「斬れないだとっ!?」


 あの巨大な腕を弾き飛ばしただけでも十分凄いと思うが、切断出来なかったことにテオドラは驚愕の表情を見せる。

 しかし、ミスリルゴーレムの腕には大きな亀裂が入っている。ミスリル製でなく、普通のゴーレムであったならば軽く切断されていただろう斬撃だ。


「踏み込みが甘かったか……だが、次は斬るっ!」


 剣も抜き、二刀流でテオドラがゴーレムに斬りかかる。が、砂糖が溶けるようにミスリルゴーレムは土の中へと溶けていった。


「くそっ!」


 悔しそうにあたりを見渡すテオドラ。


「無駄じゃ、無駄! お前らごときにワシらのミスリルゴーレムは倒せんわ!」


 逃げ回っているくせに何を勝ち誇っているのやら。

 それから、いちいち「ワシら」って言葉を付けるのが痛々しい。

 借り物なのを理解しているからこそそういう言葉を付けたがるのだろう。


「……なら、お前たちを屠る!」


 フランカの前に小さな魔法陣が展開される。


「おい、無茶すんなよ!?」

「……平気。極めてレベルの低い魔法でも、老人共の寿命を打ち切りにするくらいは出来る」


 そう言って、フランカが詠唱を始める。


「うわぁぁあああっ! ミスリルゴーレム! その『男』を止めろ!」


『男』と言われ、フランカの口元が引き攣る。

 ……そういえば、フランカのことを『弟』だと思ってるんだっけな?

 気のせいかもしれんが、若干詠唱の速度が上がった気がする。……怒ってる怒ってる。


 が、突如ミスリルゴーレムがフランカのすぐ目の前に『生えて』くる。

 そして、そのままフランカに腕を伸ばし…………


「フランカッ!?」


 ……フランカを飲み込んだ。


 巨大な手がフランカを掴んだと思った瞬間、フランカがその手の中に飲み込まれていったのだ。

 半透明のゴーレムの体の中に、フランカが飲み込まれていくシルエットが浮かぶ。


「テメェッ!」

「おっと、下手に攻撃していいのか?」


 ミスリルソードを抜いた俺に、村長のウジンが声をかける。

 それと同時に、ミスリルゴーレムの腹部に、フランカの姿が浮かび上がる。

 まるで、氷漬けにされたように半透明の壁に閉ざされたフランカ。瞼を閉じており、意識を失っているようだった。


「これは……っ!」


 俺の隣へ駆け寄ってきたテオドラがその光景を見て、何かに気が付いたようだ。

 一瞬で表情が怒りに染め上げられ、二本の剣が大きく振りかぶられる。

 しかし、ゴーレムは再び地面の中へともぐり込んでしまう。

 凄まじい音を発して二本の剣が空を切る。


「くっ!」


 テオドラはジジイ共を睨み、抑えきれない怒りを滲ませて叫ぶ。


「貴様たちか、鍛冶師オイヴィを誘拐した不届き者どもは!?」


 その叫びに、村長のウジンはニヤリといやらしい笑みを浮かべた。


 音もなく出現し、体内へ人間を取り込めるミスリルゴーレム。

 しかも、取り込んだ人間ともども再び地面へと消えることが出来る。

 以前テオドラが言っていた、有り得ない状況での鍛冶師消失も、このミスリルゴーレムがいれば実行可能だ。


「その通りじゃよ」


 悪びれる様子もなく、あっさりと認めるウジン。

 その背後にミスリルゴーレムが姿を現し、そして、ウジンの合図と共に顔の部分にもう一人の少女の姿が浮かび上がってくる。

 透明度の低い濁った水の中から浮かんでくるように出現したその少女は、茶色い髪をしたまだ年端もいかぬ幼女。彼女は真珠のように白く艶のある肌をし、まだあどけなさの残る顔をしていた。


「オイヴィッ!」


 テオドラが少女を見て叫ぶ。

 間違いないようだ。あの幼女がカジャの天才鍛冶師、オイヴィらしい。


「きぁああ」


 ルゥシールが空から俺の隣へと舞い降りてくる。

 困ったような表情を浮かべ、俺を見つめてくる。


 なるほどな。

 お前が全力でブレスを吐かなかったのはこのせいか。

 ミスリルゴーレムの体内にオイヴィがいることが分かり、ブレスが使えなかったのだ。

 最悪、オイヴィごと消滅させてしまいかねないからな。


 爪や牙による攻撃を繰り返しても、地面に潜る度に修復されるみたいだしな。

 事実、先ほどテオドラが付けた深い亀裂は、もう見る影もないほど完璧に修復されていた。


「くるるぅ……」


 喉を鳴らし、しゅんとうなだれるルゥシール。

 お手上げという意思表示だろうか。


「どうじゃ! 手も足も出まい!?」


 なぜか勝ち誇っているウジン。すげぇうざい。


「つか、手も足も出てないのはお前らの方だろ。ミスリルゴーレム逃げっぱなしじゃねぇかよ」

「や、やかましい! 武器を捨てて大人しく殺されんと、こいつらを殺すぞ!?」


 滅茶苦茶だ。

 相手が攻撃しない状態でないと勝てないとか……こいつら、戦いを舐めてんじゃねぇの?

 いや、人生とか世界とか、とにかくすべてのものを舐めきっている。

 全世界が自分たちの思い通りになるとでも思っているのか?


「しかし、実際やりようがないな」


 テオドラが俺の隣にやってきて舌を打つ。


「せめて、ミスリルゴーレムが逃げられないような状況になれば、二人の救出も可能かもしれないが……」

「出来るのか?」

「ミスリルゴーレムだけを斬り、人質をあの中から救い出す」

「一緒に人質斬ったりしないか?」

「ワタシは、肌に張りつけた薄い羊皮紙だけを斬ることが出来るぞ」


 それはすごい技術だ。

 じゃあ……


「俺がヤツらをまとめて足止めしてやるから、人質は頼むな」

「出来るのか?」

「ルゥシールが協力してくれたらな」


 そう言って視線を向ける。

 俺が見上げることで視線がぶつかる。


 俺の言わんとすることを察してか、ルゥシールは少し恥ずかしそうに頬を染め、戸惑ったように視線を泳がせる。

 そして、そのあと、観念したように「……きぁ」と鳴いた。


 ルゥシールが体を地面に伏せ、首を俺の前へと持ってくる。

 怒っているのか照れているのか、顔は向こうを向いている。

 そういえば、首に触られるのは嫌なんだっけな?

 ま、今は我慢してくれ。


「優しくするからな」

「きあっ!?」


 気を遣ってそう言ったのだが、物凄く驚いた顔でこっちを見られた。

 ダークドラゴンの漆黒の鱗が、首から上だけ真っ赤に染まっていく。


「き………………ぁああっ!」


 何か、不満らしきものを漏らして、ルゥシールはぷいっとそっぽを向く。

 言葉にするなら、「もう……知りません!」って、ところか?

 ……何怒ってんだよ? よく分かんねぇよ。


「じゃあ、行くぞ。準備してくれ」

「え? あ、あぁ! いつでもいいぞ!」


 俺とルゥシールのやり取りをぽかんとした顔で見つめていたテオドラ。

 準備を促すと表情を引き締め直し、二本の剣を構えてミスリルゴーレムを見つめる。


「ルゥシール、行くぞ」


 断りを入れ、ルゥシールの首にある『他とは少し質感の違う鱗』に手を乗せる。


「にょ……っ!?」


 力が抜けるような声を漏らし、ルゥシールの体がビクンと震える。

 ホント……目の前にいるのにドラゴンだって信じられないような声を出すよな、こいつは。


 ルゥシールの鱗から、夥しい量の魔力が流れ込んでくる。

 よしっ!


「まずはジジイ共を魔法でぶっ飛ばす!」


 そう言って、特大の魔法陣を展開させる。

 巨大ゴーレムと同等の、超特大サイズだ。


「ぎゃああああっ! ミスリルゴーレム! ワシらをっ! いや、ワシを守れぇえぇええっ!」


 ウジンが絶叫し、ミスリルゴーレムがそれに呼応して前へ突進してくる。

 保身が第一のテメェならそう言うと確信していたぜ!

 もちろん、魔法陣はフェイクだ。


「土に同化出来ちまうんなら、足元を土以外の物質に変えてやる!」


 ルゥシールに借りた魔力を惜しげもなく使い、俺は身を切るような冷気を発生させる。

 寒いも冷たいも飛び越えて『痛い』寒さが辺りを襲う。

 足元の土は一瞬で凍り、凍った土の上に分厚い氷の層が誕生する。


「ぎゃあああああああっ! 耳が、顎が……ぁあっかっは……っ!?」


 突然襲いかかった寒波に、ジジイ共が悲鳴を上げるが、大きく口を開いたせいで口の中と喉の奥までもが凍りついたらしい。ようやく静かになった。


 そして、ミスリルゴーレムは、分厚い氷に足を固定され身動きが取れなくなっていた。


「よし、今だテオドラ!」

「さ……ささささっさ、寒ぅ~~~~~~~いっ!」


 テオドラが身を縮めてガタガタ震えていた。


「何やってんだよ!?」

「手がかじかんで剣が握れないのだ! もうちょっとこちらにも配慮してほしかったぞ!」

「気合いでなんとかしろよ、こういうのは!」

「寒いのは苦手なのだ!」

「あぁもう!」


 俺はテオドラに弱い炎と風の魔法を向ける。

 温かい風がテオドラの全身を包み、寒さに強張っていたテオドラの表情がほっと緩む。


「温かい! これならいける!」


 叫ぶや、テオドラは駆け出す。

 そして、氷に滑って派手に転倒する。


「……痛い…………」

「真面目に戦えねぇのか、お前は!?」

「氷とか、嫌いなのだ……」


 流石に氷を解かすわけにはいかない。


「気合いで乗り切れ!」

「ぅう…………了解したぁ!」


 気合一発。

 テオドラは叫ぶと、立ち上がり、先ほどよりも力強く大地を踏みしめる。

 軽く氷にひびが入り、テオドラの足がしっかりと食い込む。

 その微かな抵抗にすべての体重をかけ、一足飛びでミスリルゴーレムの懐へと肉薄する。


「はぁぁあああああっ!」


 空中で体をひねり、遠心力を乗せて、カタナと剣を大きく振るう。


 ガッ! …………………………ギィィィィィィィィィィンッッ!!!


 鉄を削るような音が響き、ミスリルゴーレムの体が大きく抉り取られる。

 腹部と顔、体の前半分が盛大に削り取られる。


 テオドラが纏った温かい空気の層と、地面から舞い上がる冷気による温度差のせいだろうか……テオドラの回転に合わせるように白い竜巻が発生する。

 熱を帯びるほどのテオドラの闘気は渦を巻いて上昇し、突風を生み出す。


 ミスリルゴーレムの体に捕らわれているフランカとオイヴィの前髪が風に晒されてふわりと揺れる。


「返してもらうぞ、ワタシたちの大切な人を!」


 フランカとオイヴィの肌一つ、髪の毛一本斬ることなく、テオドラはミスリルゴーレムの体だけを切断する。

 剥き出しになったフランカの腕を取り、テオドラは一気にフランカの体を引き抜く。

 小さな破片を飛散させながら、フランカが解放された。

 次いで、ミスリルゴーレムの体を駆け上がり、オイヴィを同じように救出する。


 テオドラがフランカとオイヴィを抱えてミスリルゴーレムの前から離脱する。

 ミスリルゴーレムは、やはり一度地面へ潜らないと修復出来ないようで、抉られた体を必死に揺さぶり、氷から逃れようともがいていた。


「人質は救出したが……この巨体をこの後粉微塵にするにはちょっと骨が折れるな」


 俺たちの元まで戻ってきたテオドラが困った顔で呟く。

 じゃあ、ここからは俺の出番だな。


「ルゥシール。残りの魔力をもらうぞ」

「くぁ~」


 可愛らしい声で鳴くルゥシール。

 許可してくれたのだと解釈して、俺はルゥシールの魔力を吸い上げる。

 少しでも出が良くなるように『他とは少し質感の違う鱗』を激しくこする。


「にゃにゃぁぁぁああああっ!」


 ルゥシールが悲鳴に似た声を上げ、全身をビクンビクンさせる。

 そして、体内の魔力がほとんどなくなると、ぐったりと弛緩した。

 全身がほんのりと赤く染まり、呼吸が荒い。


「…………きゅうっ!」


 一声、不満そうな声を漏らすが、悪い、ちょっと『バイン!』しそうだから先を急ぐな。


 俺はルゥシールから借り受けた魔力を手に、ミスリルゴーレムに向かって走り出す。

 ルゥシールの魔力は他の魔力よりも心地いい。気持ち悪くなることがない。

 むしろ、少し温かいくらいだ。

 だが、量が多くて……やっぱり長くは持っていられない。


 俺が近付くと、ミスリルゴーレムは巨大な腕を振り上げ、一気に振り下ろしてくる。

 巨大なハンマーのような一撃が氷の大地に激突し、世界を揺るがす。

 凄まじい威力だ。


「けど、相手が悪かったな。これで終わりだ」


 俺は振り下ろされたミスリルゴーレムの腕に手を当てる。

 そして、全魔力をミスリルゴーレムの体へと流し込んだ。


 途端にミスリルゴーレムの全身が青白い炎に包まれる。


「バカな!? ミスリル製の体に引火したというのか!?」


 遠くでテオドラが叫ぶが、残念ながら外れだ。

 燃えもしないミスリルを一瞬で火だるまにする魔法は、流石の俺にも扱えない。魔神になら可能かもしれないけどな。それこそ、ガウルテリオなら、たぶんやってのけるだろう。

 けどこれは違う。

 これは、『魔法剣』だ。

 ミスリルは【魔力伝導率】が高く、魔力を全体に纏わせることが容易な鉱石なのだ。

 もっとも、物質に魔力を纏わせる『魔法剣』自体が、扱える者の少ない高難易度の技術なのだがな。


 ミスリルゴーレムの巨体を一つの『武器』と見立て、俺は巨大ゴーレムを『魔法剣』に変える。

 その巨体を包み込む巨大な炎は、大地を覆い尽くした氷をどんどん溶かしていく。

 恐ろしいほどの熱気だ。


 しかし、その驚異的な熱は、長くはもたない。


 ミスリルは【魔力伝度率】が極めて高い鉱石だが、魔力に対して非常にもろい物質なのだ。

 特殊な技法で鍛えられていないただのミスリルでは、魔法剣には耐えられない。


 巨大な炎の塊と化したミスリルゴーレムは、全身に無数のひび割れを発生させ、あっけなく、ボロボロと崩壊していった。


 ミスリルゴーレム崩壊後、炎は自然と消滅し、ひんやりとした風が村の中を吹き抜けていった。

 宿と村長の家の炎上もすっかり鎮火しており、村の中は闇と静寂に包まれた。


「……やったな」

「あぁ」


 テオドラの声に片手を掲げて応える。


「俺たちの、完全勝利だ!」


 俺の宣言は高らかに響きわたり、そっと夜空に吸い込まれていった。


「ご主人さん、やりましたね!」


 気分が昂ぶり、今ならなんだって出来そうな、「俺無敵なんじゃね!?」とすら思ってしまうほどにテンションが上がっている俺に、ルゥシールが声をかけてくる。

 高まるテンションに任せて俺は振り返り…………号泣した。


「なんで服着てんだよっ!?」

「着ますよ、それはっ!?」


 なぜだ!?

 頑張って戦った後は、ルゥシールのすっぽんぽんがご褒美として拝めるんじゃないのか!?

 じゃあ一体、俺はなんのために戦っていたんだっ!?


「フランカさんたちがわたしの服も一緒に持ってきていてくれたんです。よかったです、もうあんな変な服着なくてすみました」


 あの服はあの服でよかったんだけどね!

 胸元の開き方がエグイことになってたし!


「あの……ご主人さんは、この服がお嫌いですか?」


 俺がしょげ返っていたせいか、ルゥシールが不安げに尋ねてくる。

 いつものルゥシールの服。

 落ち着いたデザインながら、首元にあしらわれた刺繍が可愛らしさを演出し、短めのスカートはすらりと伸びた足を美しく引き立て、膝上まであるロングブーツと相まって露出部分が限定される太ももの弾けるような白さをこれでもかと強調している。


「絶対領域最高っ! いや、最強っ!」

「……どうしてご主人さんの褒め方は、こう…………まぁ、いいですけどね」


 ため息をついて、ルゥシールは下ろしていた髪をまとめる。慣れた手つきで器用にポニーテールを形作る。


「お花の髪飾りも無事で、安心しました」


 そう言って、俺に背を向ける。顔だけをこちらに傾け、「どうですか?」と、ポニーテールの仕上がりを見せつけてくる。

 アップにまとめられた一房の黒髪。

 その根元で、赤と青の鮮やかに咲いた花が揺れている。


 …………おかしくないか?


「ルゥシール。ちょっとよく見せてくれ」

「え? ほぇっ!?」


 ルゥシールの肩と頭に手を置き、間近で花の髪飾りを観察する。

 しおれた様子もなく、焼けた跡もない。


 はるか後方では、焼け落ちた宿屋が真っ黒に炭化した木の残骸と化しているのに、だ。


 あれだけの大火に囲まれたというのに、ルゥシールの髪飾りに付いた花は、少しもダメージを受けていない。

 萎れないように特殊な加工がしてあるのだろうとは思っていたが……ここまで鮮度が落ちないものか? まるで、今し方咲いたばかりのようではないか。


「綺麗過ぎないか」

「わ、わたしですかっ!?」

「花だ」

「…………ですよね」


 がっくりと、ルゥシールがうな垂れる。


「たぶん、魔法がかかっているんじゃないですか? ほら、『魔法剣』のような感じで」

「有り得ないな」


『魔法剣』は、術者が物質に魔力を注ぎ込んで武器に魔法を纏わせる技術だ。

 魔力を送り込む者がそばにいない状態で、物質に魔力を帯びさせ続けるなんてことは出来るはずがない。

 もし仮にそんなことが出来るのだとすれば……それは…………


 まるで、マウリーリオの技術じゃないか……




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「あ~らら。なんか、気付かれちゃったっぽいですねぇ」


 軽薄そうな笑みを浮かべ、その青年は『念話』に使っていた耳飾りをそっと撫でる。


『あ、あの、ご主人さん。何か気になることでもあるんですか?』

『ルゥシール。お前、この髪飾りを付けてから、何か変わったことはないか?』

『変わったこと、ですか? …………あっ!』

『何かあるのか!?』

『可愛くなりました!』

『……もういい。何もないんだな』

『いえ、ですから、可愛く……女性としての魅力が……ちょっと、ご主人さんっ!?』


 耳飾りから聞こえてくる会話に、青年は思わず吹き出してしまう。

 彼らは本当に面白い。

 遠ざかってしまったのか、彼の声はもう聞こえない。


「久しぶりに会いたくなっちゃいましたねぇ……『兄さん』『お嬢ちゃん』……ふふっ」


 湧き上がってくる笑みを隠すように青年は帽子を自分の顔にかぶせ、商売道具がパンパンに詰まった大きなリュックサックにもたれかかる。

 珍しいアイテムを数多く揃えながら、それをそれとは気付かせないように売り歩く。

 一風変わった行商人。


 青年は、オルミクルで初めて対面した『彼』と『彼女』の顔を思い浮かべる。

 花飾りを可愛いと言った『彼女』。

 その彼女を『こんなもんつけなくても十分可愛いんだよっ!』と断言していた『彼』。


「あぁ……早くまた会いたいですねぇ、王子……そして、ダークドラゴン」


 マウリーリオの技術を継承する青年は、近いうちに訪れる再会を確信して、眠りに就いた。








いつもありがとうございます。


ちっぱいが好きです。

でも、巨乳の方がも~っと好きです!


ウチの壁にちっぱいと巨乳が並んでついてたら巨乳の方を揉みますものね、やっぱり。


仕方ない。

仕方ないんだよ。

理由なんてないんだよ。

もし理由を求められたら、私はかつて偉人が言ったこの言葉を口にしますね。



「そこに山があるからさ」



ね、仕方ない。


というわけで、あと一日で今年も終わりです!

アルジージャ編もとりあえず明日で終わりです。

新年はカジャの町から始まります!(の予定!)



あと一話。

60話では何度「おっぱい」という言葉が出て来るでしょうか?

予想してください。


正解者の方の中から抽選で、


『ルゥシールが初夢でぽいんぽいんしてくれる権』をプレゼント!!


(当選者の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます)


ルゥシール「え? 一言ですか? えっと……あの…………がんばって正解して……あの、ゆ、夢でお会いしましょう! …………あの、本当にわたし、行くんですか? 冗談じゃなくて?」




というわけで、

今年もあと一日!


よろしくお願いいたします!


そして、来年も、どうかどうか、

ご贔屓に願い奉ります!



明日は来れないよ~という皆様、よいお年を!


明日も来るよ~という皆様、大好きです!


ではまた、お会い出来ますことを願って。



とまと

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