38話 M
「エイミー…………さん?」
思わず敬語になってしまうほど、俺は驚いていた。
ジェナとフランカも目が点だ。
何より、バスコ・トロイまでもが驚き過ぎて表情を失ってしまっている。
バスコ・トロイの胸に、光の光球が埋まっている。
魔導ギルドに所属するほぼすべての魔導士が畏怖し、その魔法があるがために言いなりにもなり、誰もが下手に逆らうことを放棄してしまった、魔導ギルド『最凶』の魔法。
魔導士にとっては、最も恐ろしい魔法のうちのひとつ。
シレンシオ・ジュラメント。
それを、たかが片田舎の、他人よりちょこっと魔力が多いだけの、今日初めて魔法を成功させたド素人中のド素人であるエイミー(弱冠十二歳)が、こともなげに使ってみせたのだ。
それも、シレンシオ・ジュラメントの第一人者ともいうべきバスコ・トロイ相手にだ。
「お前……なにしてんの?」
「これで、そのオッサンは暴れられないでしょ?」
「オ、オッサ……!?」
シレンシオ・ジュラメントを埋め込まれたことよりも、オッサン呼ばわりにショックを受けたように見えるバスコ・トロイ。
まぁ、魔力の量からして威力は比べるまでもないだろうが……おそらく十分の一から百分の一程度のもんだろうけど、それでも、間違いなくシレンシオ・ジュラメントだ。
村を出る前に『遺跡の中で魔法を覚える』みたいなことを言っていたが……そこまで高度な魔法マスターしなくてもよくね?
俺だって使えないんだぞ、シレンシオ・ジュラメント。
見ろよ。ジェナとフランカも意気消沈してんじゃねぇか。
ビギナーズラックもほどほどにしろよ。
「だって、詠唱さえ分かれば、魔法って誰でも使えるんでしょ?」
キョトンとした顔で言い放つ。
うんうん。初心者が最初に躓きやすいところだな。
順調に魔法を使えるようになって、みんながぶち当たる壁だ。どんなに頑張っても思った魔法が使えない。「なんだよ!? 詠唱合ってんだろうが!?」と、思わず暴れたくなることがあるんだよ、その思考をしていると。
けど、みんなそこで気が付くんだ。「あ、俺にはこの魔法使えないんだ。じゃあ、使える魔法を洗練しよう」って。
何でも出来ると思いがちなのが、魔法というものだ。
けれどそうじゃない。
魔導士は、誰でも一度その挫折を味わう。
そう。躓くべきポイントなんだよ、そこは。
なのに、何をあっさりと壁飛び越えちゃってんだ、このお子様。
胸はまるで育ってないくせに、魔法は限界知らずか? 育ち盛りもいいとこか!?
「胸は全く育ってないくせに……っ」
「それ以上言うと、あんたにも植えつけるわよ、シレンシオ・ジュラメント」
やめろよ。
自分で外しといてまた付けるとか、どんだけドSだよ。
「まぁ、そういうわけだ、バスコ・トロイ。大人しくしていることだな」
「ふん! こんなにわか仕込みの魔法など……っ!」
「確かに威力は弱いだろうが、この状況で深手を負って、お前、いいの?」
俺たちに囲まれ、前方からはカラヒラゾンが向かってきている。
「……くっ!」
バスコ・トロイは唇を噛み、ようやく大人しくなった。
「よし、デリック、ジェナ! バスコ・トロイを押さえつけろ!」
「おう!」
「分かったわ」
デリックは、散々遊ばれたうっぷんを晴らすように乱暴にバスコ・トロイを押さえつける。
ジェナの目にも、少々の悪意が揺らめいている。
「M字開脚とかさせてやろうかしら?」
ぼそりと呟かれたジェナの言葉に、バスコ・トロイが顔をしかめる。
……いや、見たくねぇし、そんなもん。
「エイミー。シレンシオ・ジュラメントは、お前からあの光球に絶えず魔力が流れ込んでいく。油断すると一瞬で気絶してしまうから、気を付けろよ」
「分かった。気を付けるわ」
「それからフランカ」
「……私は、何をすればいい?」
フランカには、最も重要な役割を頼むことになりそうだ。
「エイミーの目を塞いでいてくれ」
「…………は?」
「は?」
フランカと、それからついでにエイミーも口をぽかんと開けている。
けれど、これは重要なファクターなのだ。必須だ、必須。
「しっかり頼むぞ。エイミーも、絶対見るなよ?」
「……分かった」
「あたしも、まぁ、……分かった」
なかなか素直なもんだ。
「……いくわよ?」
「うん。よろしくね」
フランカが、両手でそっとエイミーの目を塞ぐ。
背後から抱きかえるようなカッコになった二人は、まるで仲睦まじい姉妹のようだった。
「そうしてると姉妹のようだな。胸の無いところとかそっくりだ」
「…………エイミー」
「えぇ。了解よ」
二人が揃ってこちらを向く。
その目は、二人揃って死神のように仄暗く闇を湛えていた。
「怖ぇよ! そんなとこまで似なくていいから!」
手を「シッシッ」と振り、エイミーの目を隠すように促す。
……まったく。事実を指摘されて怒るとか…………心の狭い連中だ。あ、入れ物が小さくて空間が狭いからか。
「……【搾乳】……さっさとやれ」
「……はい」
なんか、凄い怒られた気がする。
いいや、やることやっちゃおう。
………………けど、俺間違ってないよね?
だって、似てるし……
「……【搾乳】」
そうやって人の心読むところとかもさ。
「【搾乳】! カラヒラゾンがこっちに来たぞ! 早く何とかしろ!」
デリックの声に振り向くと、カラヒラゾンがすぐそこまで迫ってきていた。
カラヒラゾンのターゲットは、デリックとジェナにM字開脚状態で押さえつけられているバスコ・トロイだ。
「……お前、何やってんだよ。バスコ・トロイ」
「私に言うな! くそっ! こんな屈辱的な格好を…………覚えておけよ!」
どんなに怒鳴っても、がっちりと押さえ込まれた体はビクともしない。
魔法が封じられた魔導士とは、かくも惨めなものよなぁ……
「お前らなぁ。いくらムカつくヤツでも、王国の重鎮にして、魔導ギルドトップクラスの魔導士なんだぞ? いたずらに屈辱を与えるとか……何考えてんだよ」
思わず重いため息が漏れる。
かつて、王国ナンバー2と言われた魔導士が、遺跡の地下でM字開脚のままカタツムリに狙われているって……どんな面白絵巻だよ。
「そんな些細なことはどうでもいいでしょ!? それよりも、あのカタツムリを何とかしなさいよ!」
ジェナがきつい声で言う。
そんなことって……
お前の所属する魔導ギルドの偉いさんなんだけどなぁ……
が、時間がないことも事実だ。
「バスコ・トロイ。その面白くて屈辱的な格好については我慢してもらうほかないな」
「ふざけるな!」
「我慢しろよ! 俺だって笑いそうなの必死に我慢してんだから!」
「だったら、この格好をやめさせればいいだろうがっ!」
歯を剥き出しにしてキーキーと叫ぶ。実にヒステリックな男だ。
だが、今こいつと言い争っている暇はないので、俺はデリックに指示を出す。
バスコ・トロイの背後から羽交い絞めにしていたデリックを少し横にどけ、俺がバスコ・トロイの背後にスタンバイする。
デリックとジェナは二人がかりでバスコ・トロイを左右から押さえつける
肩と膝を押さえつけ、あくまでM字開脚はキープさせている。
……屈辱を与えるなってのに。ま、いいけど。
「じゃあ、バスコ・トロイ。胸を揉むぞ?」
「屈辱だ! 貴様のやろうとしていることが一番の屈辱だぞ、王子!」
「大丈夫だ。教育上の悪影響を考慮して、幼いエイミーの視界は遮ってある」
「そんなことはどうでもいい!」
「え、何お前!? こんな恥ずかしい格好を幼女に見せつけたいタイプの人なの!?」
「違うわぁぁああーーーっ!」
うわぁ、触んの嫌になってきたなぁ。なんか、ばっちい。
「嫌そうな顔をするな! 心外だ!」
「『やったぜ! バスコ・トロイのおっぱいが揉み放題だ!』」
「嬉しそうな顔をしろとは言ってないっ!」
注文の多いヤツだ。
もういいや。
「えい」
「ぬはぁあっ!?」
バスコ・トロイの脇の下から両腕をツッコミ、両方の胸を同時に鷲掴みにする。
……で、お前も声上げるなよ。気持ち悪い。
「…………………………はぁ。全然楽しくない」
「楽しむ気だったのか、貴様ぁ!?」
そんなわけないだろう。
ただ、空しいんだよ…………
ここ最近、男の胸を触る確率が嫌になるほど高いもんでな。
しかし、流石はバスコ・トロイとでもいうべきか。
手のひらを通して流れ込んでくる魔力はジェナやフランカの比ではなかった。
「凄い魔力量だ。ジェナたちとは桁が違うな」
「と、当然だ! 私を誰だと思っている」
「気持ちよさはジェナの足元にも及ばないけれど」
「……余計なこと言わなくていいから、【搾乳】」
はす向かいから、般若みたいな顔したジェナの視線が飛んでくる。
痛い痛い。なんか肌に刺さってる気がする。鋭いなぁ、お前の視線。
「ジェナが怖いから、さっさと終わらせるぞ」
「あたしのせいにすんな!」
俺はバスコ・トロイの胸を掴んだ手に力を入れる、目一杯の力で揉みしだく。
「いだだだだだっ! 痛い! 痛いぞ、王子!」
揉んでもまったく、まっっっっっっっっっっっっっったく楽しくはないのだが、凄まじい勢いで魔力が流れ込んでくる。
お前の中に残った魔力をすべて俺に寄越しやがれ!
「【搾乳】っ! まだか!? カラヒラゾンはもう目の前だぞ!?」
「早く! 急ぎなよ、【搾乳】っ!」
「まだだ! 残った魔力をすべて叩き込まないと、あいつの防御は突破出来ない!」
「なんだと!? 貴様、私の魔力をすべて奪い取るつもりか!?」
「そうだよ! いいから出し惜しみしてねぇで、全部寄越しやがれ!」
「痛ぁぁぁああああいっ! 揉むな! 摘まむなぁ!」
男が言ったところで気持ち悪い以外の感想が出てこないセリフを喚き散らして、バスコ・トロイが暴れる。
デリックとジェナが力任せに押さえつける。
俺が揉みしだく!
バスコ・トロイがさらに激しく抵抗をする!
デリックとジェナが押さえつける!
そこで俺がさらにさらに強く揉みしだくっっっ! …………なんだ、この絵面?
「ダメだ、【搾乳】っ! カラヒラゾンが『溜め』に入りやがった!」
デリックの言う通り、カラヒラゾンは俺たちを射程に収めると、頭をもたげて大きく息を吸うように反り返らせる。
カラヒラゾンの頭部に空気が吸い寄せられ、夥しい魔力が集中していく。
「【搾乳】っ! 早く!」
「ちょっと、【搾乳】っ!?」
「もう少し、もう少しなんだよ!」
「いだだだっ! 速い! 揉み方が速いぞ、王子!」
カラヒラゾンの動きが一瞬止まる。
……来るっ!?
もういっそ、今ある魔力だけで対応するか!?
そう思った時、――ポロリ――と、バスコ・トロイの胸に埋め込まれていた光球が転げ落ちた。そして、バスコ・トロイががくりとうなだれる。
魔力欠乏症の症状。
バスコ・トロイの魔力が尽きた!
「いっけぇ、【搾乳】ぅぅぅぅぅぅうううううっ!!」
ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッ!!
デリックのハイテンションな叫び声と、カラヒラゾンの咆哮はほぼ同時で、カラヒラゾンが吹雪を吐き出すのと、俺が暗黒色の火焔流を生み出すのもまたほぼ同時だった。
勢いよく吐き出された吹雪と火焔が空中でぶつかり、乾いた大音響を轟かせる。
爆発が起こると同時に、そこから外に向かって激しい突風が吹き抜ける。
吹き飛ばされそうになるが、デリックが俺たちをしっかりと押さえ込んでくれる。
怒り狂う風に煽られながら、眼前を見据える。
広範囲に広がりを見せる吹雪に対し、俺の生み出した火焔は一点を突破する鋭さを持っている。
広がった吹雪を切り裂くように、暗黒色の火焔流が空中を猛進する。
そして、カラヒラゾンに激突するや一気に燃え上がり5メートル近くある天井にまで炎の先端を到達させる。
カラヒラゾンを飲み込み、渦を巻く炎は熱風を辺りにまき散らしながら踊るように燃え盛る。
「っぅおおおおおっ!? スゲェ! スゲェ火力だぁっ!」
「……こんな威力の魔法、見たことないよ…………」
デリックが興奮気味に叫び、ジェナは驚いて表情をこわばらせる。
燃えるような暗黒色が世界を暗く照らす。
黒い炎に照らされ影を濃くする世界は、コマ送りの世界のように見えた。
これが、今の俺たちに出来る最高の魔法だ。
これでダメなら…………
「お、おい……【搾乳】…………」
「言うな……きっと、目の錯覚だ」
「いや、違うだろう」
「違わん」
「いい加減認めなよ、【搾乳】……」
デリックとジェナが嫌な現実を突きつけてくる。
荒れ狂う暗黒色の炎の中で、不気味なシルエットがその首をもたげているのだ。
カラヒラゾンのシルエットは悠然と、炎の中に佇んでいる。
「…………無傷ってことは、流石に…………」
ない。と、言いたかった。
だが、言う前に暗黒色の炎が霧散してしまった。
中から姿を現したカラヒラゾンは、予想通り、無傷だった。
……ホンット、こういう時の嫌な予想って当たるんだよな……
「……どうするんだ、【搾乳】?」
デリックがカラヒラゾンを見つめたまま問いかけてくる。
顔は引き攣り、頬の上を汗が滑り落ちていく。
今の俺たちに出来る選択……
そんなもんがあるとすれば、それは…………撤退?
一旦退いて体勢を立て直せば……ジェナとフランカの魔力が完全に回復すれば……バスコ・トロイも強引に協力させれば……エイミーだって、それなりの魔力を持っているし……そうだ! 村には何人か魔法のセンスがある子供たちがいたじゃないか! あいつらにも協力を…………………………なんて、出来るわけねぇじゃねぇか。
こんな化け物を野に放つ?
オルミクルの村に災厄をまき散らすようなこんな危険な魔物を?
グーロだけでも、村の人間は苦労してたってのに?
最悪の場合、あの村には人が住めなくなり、村が消滅する。
仮に最悪の事態を免れたとして、こんな化け物の出現を許した村に、これまで通り暮らしていけるのか?
いや、そもそも、無敵になっちまったこいつを倒す手段なんかあるのか?
いやいや。
問題なのはそんなところじゃねぇだろ。
そもそもだ。
俺は、こんな奴に負けていいのか?
俺の野望は、こんなヤツに負けるような腰抜けに達成出来るような代物じゃない。
なにせ、世界をひっくり返すような、滅茶苦茶な野望なのだから。
世界を引っ掻き回さなきゃいけねぇってのに、こんなヤツに屈するのかよ、俺!?
俺の進む道は、前進しかないんじゃないのかよ!?
負けていいのか!?
負けちまうのか!?
「…………負けねぇ」
そうだよ。
こんなところで、こんなヤツに……
「負けていいわけないだろ!」
危険は伴うが、カラヒラゾンの懐に潜り込み、ヤツの体内に埋まった魔槍を何とか抉り出して魔力を奪う!
でなければ、ヤツの甲羅がぶっ壊れるまで斬り続ける!
それもダメなら、ダメなら…………素手で殴り続ける!
なんでもいい!
俺は!
絶対に!
負けらねぇ!
幸い、デリックやジェナ、フランカにエイミーには、体力だけはありそうだ。
最悪、俺がどうこうなったとしても、逃げるだけなら出来るだろう。
そして、あいつも…………きっと無事に脱出して、無事でいてくれる…………
俺の頭の中に、あいつの顔が浮かぶ。
いつも見ていた、アホ丸出しの、輝くような笑顔。
それを思い浮かべると、なぜだか、一瞬だけ胸が痛んだ
……無茶の代償は、ちょっと高くつくかもしれない。
もう会えないかもな……
そんなことを考えた、まさにその時だった。
「お待たせしました、ご主人さんっ!」
あいつの声が聞こた。
振り返ると、いつも見ていたあの笑顔がそこにあって……
「わたしが来たからには、もう大丈夫れしゅっ!」
肝心なところで噛んだ。
あぁ、いつにもましてアホ丸出しだな、お前の顔は。
けど、その顔が見たかったぞ、ルゥシール。
不思議なもんで、さっきまで胸の中を占拠していた絶望感が霧散して、すっかり影をひそめる。
なんの策もないけれど。
何一つ事態は好転していないけれど。
それでも、なんだか勝ててしまいそうな気がしてくる。
「ルゥシール。よくやった」
「え? わたし、まだ何もしてませんけど?」
戸惑うルゥシールを見つめ、俺は笑いをグッと堪える。
まぁ、お前には分からんだろうさ。
たぶん一生な。
そばにいてくれるだけで俺は強くなれる。なんて、死んでもお前には教えてやらねぇからよ。
胸に、正体不明の温もりが広がっていく。
いや、温かさが戻ってくると言った方がいいのかもしれない。
あいつがいなかった時間など、ほんのわずかだったはずなんだけどな。
ルゥシールが駆け寄ってくる。
いつものように。
俺の隣を目指して。
いつものように。
俺に向かって真っ直ぐ。
いつものように、俺に安心感を与えてくれる。
「ご、ご主人さんっ!?」
俺のそばまで来ると、ルゥシールが驚愕したような顔で声を上げる。
そうか。こいつはカラヒラゾンをまだ見ていなかったんだ。
とんでもない化け物を前に、驚いたとしても不思議はない。
だが、ルゥシールの視線はカラヒラゾンではなく、俺に向いている。
「M字開脚のオッサンの胸をこれでもかと揉みしだいて、何をしているんですかっ!?」
わぁ~お。
そこに食いついていたのか。
「これには、色々深い事情があるんだよ」
「どんな理由があれば、そんな奇妙で奇怪で奇天烈な奇人変人みたいな状況が誕生するんですか!?」
「いや……周りを見渡せば、最低限どんなことがあったかくらいは察しがつくだろう?」
「変態のデリックさんと巨乳で露出狂のジェナさんが押さえ込んでいる、思考がちょっとアレな中年オジサンの胸を背後から両手で揉みしだいている…………そっちの道へ目覚めたんですね!? ダメです! 今すぐこっちに戻ってきてください! まだ間に合いますっ!」
出て来るなりアホ全開のフルスロットルだな、お前は。
カラヒラゾンが完全に見えていないらしい。
「だれが変態だ!」
「露出狂じゃないわよ!」
デリックとジェナが反論声を上げる。
「ほら! 一番の被害者っぽいバスコ・トロイが反論しないじゃないですか!? 受け入れ態勢万全じゃないですか!? ご主人さんを返してください!」
ルゥシールの中では、バスコ・トロイが俺をソッチの道へ引きずり込んだことになっているらしい。
魔力欠乏症で気絶している間に、とんでもない疑惑をかけられたもんだなぁ、元王国ナンバー2魔導士。
と、その時、俺たちは猛吹雪に飲み込まれた。
カラヒラゾンだ。
いくら威力が大したことないとは言っても、浴び続ければいつかはやられる。
一時退散しなければ。
「ご主人さん!? なんか、凄く大きなカタツムリがいますよっ!?」
今気付いたのかよ……っ!?
よく今までスルー出来たもんだなぁ、あのデカい生き物を。
この部屋に入ってきた時、真正面にいただろうに。
「なんだか強そうですけど、何か対策とか弱点とかないんでしょうか?」
「そいつを倒すために、こんな愉快な状況になってたんだよ!」
「ということは……」
ルゥシールの瞳がきらりと光る。
ようやく理解したのか……
「あのカタツムリは『変態』が弱点なんですね!?」
……と、思った俺がバカだったよ。
「アホのルゥシール」
「なっ!? アホってなんですか、アホって!?」
「あいつの弱点が『変態』なら、デリックを叩き込んで決着つけとるわ!」
「デリックさんの『変態』度でも足りないんですか!? ……となると、やはりご主人さんレベルでないと……」
「誰がデリック以上の『変態』かっ!?」
「その前に、テメェら、俺を『変態』だって前提で話進めてんじゃねぇよ!」
「いいから逃げるわよ、あんたたち! まったく! いつまでも子供っぽい言い争いしてんじゃないわよ!」
変態のデリックが話に加わったところで、最年少のエイミーに窘められてしまった。
……こいつは自分が正真正銘の子供である事実を忘れちゃいないか?
とはいえ、さっきから冷気を容赦なく浴びせられている。
ここは一時撤退が得策か。
「あ、あの……ご主人さん……?」
「どうした?」
極寒の風を避けるため、一度部屋を出ようと言いかけた矢先、ルゥシールがやや青い顔をしてカラヒラゾンを指さす。
「なんだか、あのカタツムリ…………メッチャ、わたしのこと見てる気がするんですけれど……?」
言われて振り返ると……カラヒラゾンのうねうねと動く長さの違う二対の触角。その先端にある四つの目がすべてルゥシールを見つめていた。
このメンバーの中で、唯一大量の魔力を有する、ルゥシールを。
いつもありがとうございます。
今回の教訓
『M字開脚のオッサンの胸を背後から腕を回して揉みしだいていると、もはや言い訳はできない』
全国の良い子のみんなは、気を付けようねっ!
それから、
全国の良い親父のみんな、M字開脚はほどほどにねっ!
またのご来訪お待ちしております。
今後ともよろしくお願いします。
とまと
 




