一騎打ち
常闇の固有空間の中で、ウタカタは光の精霊と対峙していた。
「ここならどれだけ暴れても被害は出ないから、好きなだけ暴れるといい。まぁ、暴れられたらの話だけどねぇ」
ウタカタは素早く間合いを詰めて、光の精霊の腕を切り落とした。
「一本」
さらに、もう一本の腕も切り落とす。
「二本」
光の精霊は斬撃に対処しようとするが、ウタカタの動きについていけない。
そして、素早い斬撃が繰り出され、胴体まであっという間にバラバラに切り裂かれた。
光の精霊は頭部だけとなり、光線を出そうと光を溜める。
「無駄だよぉ、お終いっ!」
光を溜めている間に、光の精霊の頭部は十字に切り裂かれ、中から眩く光る核が晒された。
——ピキピキ!パキッ!パリイィィンッ!!
核が砕け散り、闇の空間に光が射した。
その光は瞬く間に消えていき、後には何も残らなかった。
「……決着だねぇ」
刀を納刀して自身の影から地上へと戻る。
『うまくいったようだね、ウタカタ』
「あぁ、君の力のおかげだよぉ」
戦場跡もとい、神社が立ち並んでいた周辺一帯が綺麗な更地と化していた。
「なんて威力だよ、あの光線」
『一体どこまで被害が及んでいるんだろうか……』
戦いを終えたウタカタと常闇は、光の精霊戦で生じた被害をまじまじと見つめていた。
するとそこに、厳かな空気を漂わせる声が響いた。
『妾は一体何を…………これは何事ぞ』
『やぁ、久しいね。僕は回りくどいのは嫌いだから言うけど、この被害は君が暴走していたことが原因だよ』
『妾が暴走?其方が冗談を申すようになったとはのぅ』
『本当に僕が冗談を言う奴だと思う?』
『……聞こう。何があったのかぇ?』
『おそらく全柱同じだと思う。何者かに封印が解かれたんだ。そして、僕たちを暴走させた』
『して、その者の目星は?』
『ついてない。だから、封印が解かれた時のことを何か覚えていないか?』
『妾に問うか、しばし待て……そうよのう。思い出せたのは、弐つ。壱つは、この男と其奴の魂の鼓動が同じであったこと』
「えっ、また俺かい?魂の鼓動って。それ、俺がもう一人いるってことかい?」
『白々しいにも程があるっ、反吐が出るわ!!今すぐここで裁きを下してやりたいところだが、マナが枯渇しておって干渉できぬ。ちっ!口惜しい』
『彼が封印を解いた黒幕でないことは、僕が保証するよ。それで納得してもらえるかな?』
『……腹立たしいことこの上ないが、其方がそこまで申すからには、確証あってのことと知っておる!話を進めよ』
『その黒幕を捕まえる協力をしてくれないか?これは僕たちにとっても大問題だ』
『それは構わぬ。だが、それより先にすべきことがあるぞよ』
『……なに?』
『弐つ、封印を解いた其奴が言っておった。これで全ての精霊の封印が解けた、と』
「何っ!?」
『それは本当かい!?』
「そんなっ!それじゃあ、災厄が解かれるという伝承通りに……」
「セツナ!?いつの間に」
「ついさっき。精霊様たちのやり取りが聞こえてきたので、戻ってきました。それより、九柱の封印が解かれた時、災厄が復活すると伝承にあります」
『慌てるでない巫女よ。九柱全ての封印が【同時】に解かれぬ限り、そう簡単には復活せぬ』
「なら、大丈夫、ですかね?はぁー、よかったぁ」
「その災厄ってのは、そんなにやばいのかい?」
「伝承には世界を滅ぼすと書かれています。止められるのは、精霊様のみです」
『それ故に妾たち精霊が止めて、己諸共封印しておる。妾たち九柱の封印を解くということは、それ即ち世界の滅亡ぞ。故に、妾たちの封印が同時に解かれておるのならば、すでに奴が復活して世界は滅んでおる。そうなってはおらぬということは、同時には解かれておらぬということよ』
『でも、まだここにいない空間の精霊と時の精霊は、今もまだ暴走しているということだね』
『そういうことになるのう。優先順位は決まったかぇ?』
『その二柱を先に止めよう、ウタカタ』
『そうだねぇ。被害が拡大する前に、なんとかしないとねぇ」
『この腑抜けた男が妾の暴走を止めたのは真か?信じ難い。それ以上に遺憾じゃ』
『まぁ、まぁ。勝負は時の運ってことで!なっ!次リベンジすればいいさねっ!』
『妾の実力が劣ってたように申すでないわ!』
『それにしてもすごかったな、常闇。頼りになる奴だぜ、お前は』
『ありがとう。鳴神はみんなの中でもまともな方だから、僕も頼りにしてるよ』
『あらあら。今何かすごいこと言ったわねえ、あなた。尋問責めにあっちゃうわよー?』
『まったく。この程度のこと、軽く流せんで精霊としてどうするのじゃ』
『そうだねー。ボクは優秀だからいいけど、何を言われても流せる心の余裕は持てないとねー』
『こんな噛み合い方もするのね、奇跡』
『阿呆共よ。戯言はそこまでにしておくが良い。巫女、さっさと妾を封印せよ』
「そうでした、では早速——」
『その前に!枯渇してるとこ悪いけど、君のマナもウタカタに分けてあげてよね。黒幕、捕まえるんだからさっ』
『其方、会わぬうちに随分と変わったのぅ。何だ?其奴に何か、特別な思い入れでもあるのかぇ?』
『そうだね。一つだけ……ね』
『……ふっ、なら良い。妾のマナを分けてやろうぞ。其方が気に入った其奴、妾にも見届けさせてもらおうか』
「おやおや。分霊までついてくるのかい?ありがたいねぇ。頼りにしてるよぉ」
『此奴のどこに惚れたのか……真、理解できぬが、まぁ良い。いずれわかることじゃろう』
「では、儀式を始めます」
セツナの儀式により、光の精霊は再び封印の眠りについた。
『そうじゃ。辺一帯何もないが、元々は何があったのかぇ?』
「元は……神社がありました……」
『…………そうか。済まなかったのぅ。しかし、安心せい。巫女よ、其方が記憶している限りの物を復元してやろうぞ』
「えっ、そんなことができるのかい?」
『妾は物質の想像を司る力を持つ。思い描いた物を作ることなぞ、造作もない。しかし、今は妾自身に干渉できるほどのマナはない故、代わりにウタカタにやってもらおうぞ』
「人の考えている物も作れるのかい!?」
『無論よ。しかし、それには一つだけ条件がある。想像している者と能力を使う者が触れていることよ』
「その程度なら大した条件じゃないねぇ」
「じゃあ、お願いします。ウタカタさん」
「任せときなぁ……って、触れるだけで、俺はやること何もないけどねぇ」
ウタカタがセツナと手を繋ぎ、セツナは目を閉じて想像した。
自分が過ごしてきた神社本殿や社務所など、辺り一帯に建っていた建物を想像した。
「もう、目を開けていいよぉ。セツナ」
「…………あぁっ!すごい!元通りになってる!」
辺りは、光の精霊との激しい戦いが嘘だったかのように、神社が復元していた。
「これで、被害は最小限に抑えられた。後は、この街の人たちに任せよう。俺たちには別のやることがある」
「そうですね!立ち止まってる暇なんて、ありません!」
『ウタカタよ。お前は先にどっちへ向かう?時の精霊か空間の精霊か』
「そういえば、特定の時にしか入れない洞窟があるって言ってたね、セツナ」
「はい。時の精霊様の封印の地は干潮の時しか入れない、海蝕洞窟です」
「今から向かって入れる保証は、ある?」
「わかりません。道中今までのような災害に襲われるかもしれませんから、まったく読めないです」
「だよねぇ。なら、確実な方を先に行こうか。ってことで、空間の精霊さんのとこを先に目指そうかぁ」
「ここから東に位置する黄鎌地方の古塔に封印されています。それほど遠くはありませんよ。すごく高い塔なので、黄鎌地方に着いてしばらく進んでいたら、塔自体はすぐ見えると思います」
「よし、行こうか」




