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第4話 放課後のエンカウント

「……まったく、寿命が縮む初日だった」




小さく呟きながら、俺は一人で帰路に就いていた。


放課後になると、校門付近には迎えの車がズラリと並び、まるでカーショーのようにイカつい新型車や改造車が鎮座している。


工業高校特有の外向けの見栄っ張りだ。こういう田舎だと、ファッションではなく『どんな車に乗っているか(迎えが来るか)』でカーストが決まるらしい。




次々とその見栄の張った車に生徒が吸い込まれていく様子を横目に門を抜けると、いつもの見慣れた田舎の景色が広がっていた。


今日、航は『中学のダチと話がある』と先にどこかへ行ってしまったため、まだクラスでぼっちの俺は必然的に一人帰りである。




(ま、俺には二次元という最強のダチがいるからな)




お気に入りのゲームのBGMでも聴きながら帰ろうと、カバンの中のイヤホンに手を伸ばした、その時だった。




――ドンッ。




「うおっ!?」




背中、右肩のあたりに柔らかな衝撃が走った。


驚いて振り向くと、そこには。


さきほど教室で机を蹴り飛ばし、狂犬のようにギャルを威嚇していたヤンキー女子――橘琥珀が、なぜか俺の背中に顔をぶつけるような距離で、俯きながら立っていた。




「えっ? ……は?」




思考がフリーズする。


なんで俺の背後にコイツがいるんだ!?


無言の空間に、彼女の首元からふわりと、ヤンキーには似つかわしくない甘いフローラルな香水が漂ってきた。




「あ……ア、アンタも、こっちの方向、なんだ……?」




バッと顔を上げた橘が、ひどく狼狽したように目を泳がせる。


いや、驚いているのはこっちなんだが。なぜそんな『今たまたま会いました』みたいな白々しいリアクションなんだ。ずっと後ろ歩いてたよな?




どう返していいかわからず、俺は言葉に詰まり、至近距離にいる彼女へと視線を落とした。




新品の制服は程よく着崩されており、不良というよりはオシャレなギャルに近い。


手入れが行き届いたサラサラの茶色い髪が、夕暮れの風に揺れている。よく見れば、短く切り揃えられた爪にはツヤツヤのクリアネイルが施されており、女子高生のトレンドをしっかり押さえていた。


そして何より、長いまつ毛に縁取られた大きな琥珀色の瞳と、小さな鼻。かなり小顔で、暴力的なまでに整った顔立ちだ。




(……あれ?)




ただの恐ろしいヤンキーという印象しかなかったが。


改めて至近距離で見ると、彼女は俺の想像以上に――どうしようもなく『女の子』だった。


不覚にも、ドクンと心臓が跳ねる。




「あ、あのさ……ッ!」




俺が硬直していると、彼女が上目遣いでチラッとこちらを見上げ、キュッと制服のスカートを握りしめた。


そして、顔を限界まで真っ赤に染めながら、まるで迷子になった小動物のような、震える声でこう言ったのだ。




「わ、私、も……こっちの方向、だから……。その……よかったら、一緒に、帰らない……かな?」




(……は?)




俺は我が耳を疑った。


『私』? 今、こいつ『私』って言ったか? さっき教室でギャルにキレてた時は、一人称『アタシ』で言葉遣いもバリバリのヤンキーだったはずだ。


それがなんだ。この急激なしおらしさは。上目遣いで、モジモジして、まるで普通の大人しい女子高生みたいじゃないか。




(……マズい。これは、新手のカツアゲだ)




俺のオタク特有の防衛本能が、最大級のサイレンを鳴らした。


間違いない。ヤンキーが突然優しくなるのは、ターゲットを油断させて人気のない路地裏へ連れ込むための高度なハニートラップだ。俺の財布が狙われている!




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