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Re:D.A.Y.S.  作者: 結月亜仁
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頑張る意味

******


「…ねえ、勇人?」

透き通った声音が、おれの名前を呼んだ。


おれは目を開けた。

そこには、茜色の夕日を受け、散り散りになった雲が空を彩っている。上空は吹く風が強いようで、肉眼で分かるほどゆったりと雲が移動しながら、空模様を変化させている。


「ねえったら。聞いてる?」

横に首を傾けると、ちょっと拗ねた顔の葵がこちらを見下ろしていた。


「ああ、ごめん。ええと、なんか、意識飛んでた」

「もう。もっと良い言い訳なかったの?要は寝てたんでしょ?」

「うん、そうとも、言うかも…」

「そうと言わなくても、実際そうだったじゃん」


身体を起こすと、直の夕日が入ってきて、一瞬目が眩んだ。後ろ振り返ると、自分が寝転んでいた場所だけ芝生が凹んでいる。


そうだ。暇だから芝生でごろごろしていたら、いつの間にか寝てしまったんだ。


何か、夢を見ていたような気がするけれど、もうしっかりと覚えていない。でも、今みたいに、他の誰かとこうして話していたような。まあ、そんなことはどうでもいいんだけど。何故か最近こういう夢を見る。


「勇人、よくこんな風の強い外で寝られるよね」

葵は少し呆れ気味で言った。確かに、今日も相変わらず吹き付ける風は強い。でも初めてこの河川敷に来た時よりも、幾分気温的には暖かくなっている。そのせいで、だいぶ寝心地が良かったのかもしれない。


「いやいや、葵こそ、よくこんなところで絵描いてるよね」

葵も相変わらず、天気が良い日は黙々と絵を描いている。邪魔そうな髪を靡かせながら。それはそれですごい気がするけど。


「わたしは別に、綺麗な景色が見れたらどこでも良いんだよ。ここの景色は、気に入ってるし。それに、わたし…」


まだ街の向こう側に隠れるぎりぎりの位置にある夕日を見ながら、葵はどこか寂し気な表情で言った。


でも、それも束の間で、すぐにぱっと声を明るくさせて振り返った。


「そんなことより、この漫画見たよ!すごいじゃん、勇人!」

「ええ?あ、ああ。ありがとう」


葵の膝に置かれている漫画の原稿を見やる。それはこの前コンテストに応募して、佳作にもならなかったものだ。


「まあ、おれだけがすごいんじゃないんだけどね」

「元くんに光太くん、実琴ちゃんに、遥香ちゃんだよね。皆で協力して創ったんだよね」


もう既に、おれが漫研の部員で、仲間の皆のことも葵には話していた。するとおれたちが描いた漫画を見てみたい!と彼女が言うものだから、部室から持ってきたのだ。


「なんか、青春って感じだよね。すごいなぁ…」

葵は、まるで自分事のように嬉しそうな顔で原稿を見ているものだから、何だかこっちが恥ずかしくなってくる。


「そんな、大したことないって。賞も取れなかったやつだし…」

「ええ?そうなの?わたしだったら、百点満点あげちゃうけどなぁ」

「そんな簡単に高得点なんか取れないよ。世の中にはもっとすごい人たちがいるんだし、見る人によって、評価なんてバラバラなんだから。皆が良いっていう作品なんか、そうそう創れないよ」


「…ふーん?」

葵は不満げに、頬杖を突いた。


「じゃあさ、なんで勇人は頑張って漫画なんか描いているの?」

「…え?」


不意にそんなことを言われて、おれは言葉が詰まった。なんで漫画なんて描いているのか。そういえば、漫画を描く動機なんて、考えたことも無かった。


「なんでって言われても…。最初は、コウタが漫研やろうぜって言い出して。それにつられて皆やり始めた感じかな。まあ、コウタは前の漫研の人たちが残した漫画読みたくて始めたっていう、結構動機が不純なんだけど。おれも、前から絵を描くの、嫌いじゃなかったし。でも、実は漫研を続けていくには、活動してるって証拠が必要でさ。だから、毎回コンテストに応募して、その活動の証拠を残してるって感じかな」


「嫌々続けてるってこと?」


「うーん?そういうわけでもないんだけど。まあ、漫研自体は居心地がいいからさ。その居場所を守るために、仕方なくやってるっていうか。でも、やるからには、良い賞とりたいじゃん?だから頑張ってる…、んだと思う」


「じゃあなんで、良い賞を取りたいの?」


「良い賞を取りたい理由?そりゃあ…、居場所を守るために、皆頑張ってるからさ。それに見合うだけの、成果が欲しい?のかな。頑張ってるのに評価してもらえないなんて、やっぱり嫌じゃん」


「だったら勇人は、成果が欲しくて、誰かに頑張ったねって、褒められたくて漫画を描いてるの?」


「えっと…。褒められたい?のかな。分かんない…。っていうか、さっきから何?その質問。おれ、なんか尋問されてる?」


「あはは!ごめんごめん」

そう言って葵は両手を合わせておれに謝った。最後の方は、自分でもよく分からなくなっていた。葵は時々、こうやって意図の理解できない質問をしてくる。


「なんかちょっと、気になっちゃって…」

「気になるって、何が?」

「…………」

葵はそのまま、黙って地面に目を落とした。


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