*第二十一話 魔王様のを崇め隊
「これは、何があった……?」
今までにない出迎えにクロウは戸惑った。
使用人たちは計画が成功したとばかりに嬉しそうにしているが、クロウ自身はいま起こっている事象そのものの状況がうまく飲み込めない。
そのような中でスティーブンスが一歩前に出た。
「遅くなりましたが、クロウ様の御即位のお祝いをさせていただきたく、誠にかってながら宴をご用意させていただきました」
「祝い……?」
「クロウ様は御即位以降、私たち国民が安らかに過ごせるよう、様々なことに取り組んでくださっております。そのお礼も兼ねております」
その言葉に合わせて皆が深々と礼をとった。
(我は我が楽をするため、毎日昼寝ができるという目標を達成するために日々過ごしているが……国民が安らかに過ごせる?)
クロウには特別なことをしている意識はなにもしていない。
それで満足されているなら幸運だが、残念ながらどの事柄に満足したのか、まったく想像がついていない。
そうしているうちに、クロウはローズと目があった。
ローズは軽くうなづいた。
「要は人間流の歓迎会のようなものです」
「……そうなのか?」
「たぶんですけれど」
ローズ自身もあまりよくわかっていないらしい。
だが、先程この部屋に認識阻害の術を張っていたあたり乗り気であり、積極的に準備をした一員なのだろう。
「ならば……礼を言おう。ご苦労である」
その言葉に再び使用人たちが深く礼をとる。
「ではクロウ様、早速ですがこちらに腰掛けてください。お好きな料理をお好きなだけ、お取りさせていただきます」
「お前たちはどうする。我だけでは食いきれんぞ」
「もちろん、頂戴いたします。ただ、後からと考えておりますが……」
「遠慮なく食え。飯は冷める前に食うのが一番美味い。わざわざ冷めてから食う理由はなかろう」
クロウの言葉に周囲から歓声が漏れた。
「ありがとうございます、クロウ様」
「では、まずは乾杯から始めさせていただいてもよろしいでしょうか」
(乾杯。……たしか宴の前に行うものだったな)
乾杯には飲み物が必要であるという知識はクロウにもある。
何が届くのだろうと思っていると、ライトが近づいてきた。
「クロウ様、こちら果実酒をご用意させていただきました。また、こちらは珍しい米から作られた酒でございます。また、麦の酒も用意しております」
「ほう。お前の好みはどれだ」
「私は、こちらの柑橘酒が好みです」
「ならばそれをもらおう」
そしてライトから酒を受け取っていると、突き刺さるような視線をローズとルーシーから受けている気がした。
「私もお酒係だったら一番にお渡しできたのに……」
「あの勇者、新参者なのに侮れないわね……」
そんな声が聞こえてきて、クロウはこの間の問いかけがこの会につながっていたのだと感じた。ただ、だからといって何を問われたか思い出すことはしなかった。
何が起こっても、すべてクロウの好みで喜ばしいことが待っている。
「クロウ様、乾杯の前に一言願えますか」
「一言、か」
このような場で特別に言いたいことはない。
だが、そのように話を振られれば反応せざるを得ない。
「……我はまだこの地に来て日が浅い。これからまだいろいろと依頼を行う。出来る範囲で構わん、各々の職務に邁進してくれ。出来る限りの対価は用意する」
クロウがこの地に来た目的。
それを達成するために、クロウも求められたことには応じるつもりだ。
幸い気の良い人材には恵まれている。いつか夢のような日々は達成できると確信している。
その言葉に一番に反応したのはローズであった。
「クロウ様の仰せのままに。我ら一同、必ずやクロウ様の理想を達成することを目指します」
「ああ、頼りにするぞ」
「はっ!」
そして、宴が始まった。
その後はスティーブンスの弦楽器とローズの横笛の演奏が行われたり、リリーが歌を披露したり、ジェフが手品を披露したりと出し物も行われた。
(ローズはともかく、スティーブンスの演奏も素人には聞こえない。リリーも、これは聖女と呼ばれるにふさわしい声だった)
ただしリリーの歌声の最中、それを聞いていた堕天使が感涙するやら頭痛に呻く姿を見せたりと忙しかったが。やはり元は天使、聖女の歌声は好きなようだが、いかんせん堕天しているので攻撃されているようなものらしい。
(たしかに耐性がなければ、我ら魔族でも耐えられんものもいるだろう)
ただしクロウからすればいろいろな意味で可愛らしいものなので、歌い続けてもらってもまったく問題ないのだが。
そして使用人たちから自慢の料理を披露されたり、デザートを満喫したりしているうちに時間はあっという間に過ぎていく。
そして、やがてスティーブンスがクロウに尋ねた。
「せっかくですので、ダンスができる曲を弾かせていただきましょうか」
それは気を利かせての言葉だったのだろう。
だが、クロウには問題がある。
クロウに人間の踊りなど、わからない。
(スティーブンスが言うくらいだ、裕福層では嗜みなのかもしれん)
だが、それがわかったところで踊れるわけもない。
「我はよい、皆で踊るがよい」
「しかし」
「我は皆が喜んでいるところを見るほうが楽しい」
正確には踊るのを見るのが好きなわけではなく、踊ることができないのだが。
「せっかくクロウ様がいらっしゃるのに踊れないとなると、ここにいる女性陣はさぞかし残念でしょう」
「世辞はよい。まぁ、我は踊らんが……代わりに後で演舞でよければ披露しよう」
そうクロウが呟くと、わっとあたりがざわめいた。
(……幸運だな。こやつらはあまり演舞を見たことがなかったようだ)
うまく誤魔化せたと、クロウは心の中で安堵の息をついた。
そして満天の星空のもと、締めとも言えるクロウの演舞で祝宴は幕を閉じた。
求める惰眠を実行できるのはまだまだ遠そうであるものの、それでも以前よりずっと支配しやすい場所であることにクロウはこの地に来てよかったと心底思った。ただしそんなクロウの想い以上に、臣下たちをはじめ多くの者がクロウがこの地に訪れた幸運を喜び、崇めていることには一切気付かないままだった――。
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お付き合いいただきありがとうございました!
二部開始等未定ですが、その際はまたよろしくお願いいたします( *・ω・)*_ _))




