前編 因果応報
今夜も鹿沼は、
黄泉送りタクシーに出勤している。
すでに死者である客を乗せて
走っていた。
しかし今日の乗客は、
どこぞの会社の社長のようで——
「こらっ!
運転手!
もっと丁寧に運転しろ!
金払ってやらんぞ!」
「……」
「おい!
返事は!」
「申し訳ございません……」
この通り、
すごく偉そうだった。
——————
遡ること1時間前。
鹿沼はこの社長が、
彷徨い歩く姿を街中で見かけた。
「あのぉ。
行き先がわからず、
彷徨っていらっしゃるなら
私が駅までお送りさせていただきますが、
いかがですか?」
一見、浮遊霊にも見えたがその実は、
死にたてほやほや、
地縛霊になりたての霊だった。
「ふふふ。
私でなかったら、浮遊霊だと思って
うっかり見落としてしまうところですよ」
浮遊霊の迎車は1ポイント。
ドライバーとしては、
基本あまり乗せたくない客だ。
浮遊霊は放っておいても成仏したり、
誰かに連れられて一緒にあの世に行ったりと、
流動性がある。
しかしながら地縛霊は違う。
5ポイントも付くのは、
扱いが難しいからだ。
我が強く、
意思を曲げない。
中には死んだことを認めない霊もいる。
「おう!
どうやら、俺死んでるみたいでよ。
移動したいんだけど、
タクシーがつかまらねーんだよ。
助かったぜ!」
今回の霊は、
死んでいることには気がついている。
ありがたいことに、地縛霊でありながら、
自らの足で乗車してくれた。
「おやおや。
ものわかりがいい方ですねぇ」
口下手な鹿沼は、
地縛霊の説得が苦手だった。
しかし今日は、勧めるとあっさり
タクシーに乗ってくれた。
「今日の私……
いつもと一味違うかもしれませんねぇ……」
鹿沼は心を踊らせながら、
縁分駅にタクシーを走らせた。
——————
しかし、
やはり地縛霊なのだと認識できたのは、
縁分駅のロータリーに着いてからだった。
鹿沼がロータリーに
タクシーを停めると——
「お客様、着きましたよ」
「えっ!?
どこだここは?」
「あの世逝きの駅、
縁分駅ですよ」
「あの世までは
これで行けるんじゃねーのか?」
「ここからは電車に乗らないと
目的地に辿り着かないのですよ」
「何が目的地だ。
行くとこは1つ、あの世だろ?
乗り換えなんて面倒くせーなぁ。
で、いくらだ?」
鹿沼は客にタブレットを渡し、
画面を見せた。
そこには今日の日付と、
乗車した場所と時間が記載されており、
ドライバー名の欄には鹿沼
と記載されている。
「お代は不要です。
この画面に生年月日とフルネームを
ご記入いただくだけで構いません」
「……」
「?」
「テメェー。
個人情報を取ろうって考えか?」
「はいぃ?」
「お前、俺が社長してるって知って
書かせようってしてるだろ?」
「いえいえ。
滅相もない」
「運賃より個人情報の方が値打ちあるからなぁ」
「すでに、
あなたはお亡くなりになっている。
あなたの個人情報など、
あってもなくても変わりありません……」
「……。
そうか、
俺ぁ死んでたんだな……。
忘れてたぜ……」
客がタブレットに生年月日と
名前を記入すると、
ダッシュボードのプリンターから
白い切符が1枚印刷された。
鹿沼はその切符を取り出し、
客に手渡した。
「剛田正樹様。
この切符をお持ちになり、
改札を越えて1番ホームまでお進みください」
「……ちょっと待て」
「?」
「……やっぱり飲み足りん。
もう一回さっきのところへ戻れ」
「剛田様……。
それは規則でできません。
一度、このタクシーに乗れば、
次に降車できるのはこのロータリーのみなのです」
「酒が飲みたいんだよ……」
「申し訳ございませんが、
ご要望にお応えしかねますねぇ……」
剛田は後部座席に座ったまま、
動こうとしない。
「私にも次の仕事がございます。
そろそろ降りて——」
「車を出せ」
「?」
「ドライブだ……。
15分……いや。
10分ほどドライブしてくれれば
降りてやる」
「……」
「ドライブしないなら、
降りてやらんぞ!」
「ふぅ……。
かしこまりました。
約束は守ってくださいよ」
鹿沼は、
一度は縁分駅まで来たものの、
地縛霊のわがままで、
ドライブに出かけることになった。




