最終話.猫好きに幸あれ
ついに、山崎が目に付くもの何でもかんでも猫に変換してしまう脳の錯覚、「キャレイドリア」を発動させてしまった翌朝。
その日は休日ということもあって、以前から気になっていた猫のクラフト展へ行くことにした。
このクラフト展にはプロのイラストレーターの他に、手芸作家や画家、小説家、映像作家など、多種多様な猫好きのアーティストたちが様々な手作りの工芸品を出展しており、愛猫家たちの間で評判になっている。
山崎がエレベーターへ向かう途中、壁に薄っすらと浮かび上がったシミに向かって優しく話しかけた。
「おはよう。今日も可愛いね」
そこへ、たまたま通りかかった住人がこれを耳にして思わずドン引いた。
また、会場近くの公園では電柱を撫でながら微笑んでいた。
「昨日より元気そうで、何より」
これに運悪く遭遇してしまった散歩中の子どもが泣き出し、母親が慌てて抱きかかえて逃げた。
クラフト展の帰り道でマンホールの前に、しゃがみ込んでこう呟いた。
「お腹すいたのか? あとで何か買ってくるからな」
呪文を浴びせられたように青ざめた通行人は後退って道を変え、遠巻きに彼を避けた。
やがて、これらの山崎の奇行について町内会ではこんな噂が広がった。
「フランケンがぶっ壊れた」
「何かに取り憑かれているぞ」
「絶対に目を合わせるな」
しかし山崎はそんな声など、気にも留めない。
なぜなら、彼の世界はいつも優しい猫たちで溢れていたからだ。
例え、それが本来猫ではないものが猫に見えてしまう、脳が作り出した虚像であっても。
山崎は幸せだった。
ただし、周囲の人間は少しだけ不幸になった。
《おしまい》




