第十六話 開演の準備はよろしいかな?
ビスコッティは、目の前で体を震わすカヌレ探偵をニタニタと見つめていた。
「絶望でちゅか?ついに降参でちゅか?…ねえ、女探偵。本当に滑稽でちゅね。貴方には、迫りくる三機のヘリをどうすることもできない。」
フフフ…とビスコッティが愉快に笑う。確かに絶望的な状況だった。
一方その頃、薄暗い部屋でやっと床をのたうち回るのを止めたサバランが、ゆっくりと体を起こしながらため息を吐いていた。パソコンを一瞥しつつ静かに言う。そこには真っ暗になった画面しかないが…。彼は困ったように言った。
「やりますね、怪盗ノクターン。しかし…ビスコッティ、貴方はカヌレ探偵を追い詰めようとしてるみたいですが…。」
ふむ…と考えるように顎に手をやり、近くのソファに座り込んだ。
「少々、侮りすぎな気もしますねえ。いや、私が期待している探偵であるのはそうですが…ええ、まあ…彼から見たらそうも見えますか。だって貴方知らないでしょう、彼女が一体どういう人間か。」
フフ…とサバランは嬉しそうに笑った。パソコンの横にあるコップを手に取ると、ソーダをぐびっと飲んだ。シュワシュワとするのど越しに舌を鳴らしながら、にっこりと微笑む。
「…彼女は探偵ですよ。ええ、そうですとも。光の側に立っているのが不思議なほど…悪に落ちるギリギリでずっと善側に立っているような人間です。本当……奇跡のような人間。」
だからこそ…と呟く。
「私は悪に落としたくてたまらないのですよ。彼女が悪の方に落ちれば…私と同等のレベルになるのは分かっているのですから。」
フフっと笑い声が響いた。
カヌレ探偵は、静かに体を震わせると、ふぅ………と小さく息を吐いた。近くに落ちたヘルヴァの遠距離銃をそっと拾う。ビスコッティがそれを見て、おっ…と声をあげた。
「銃で撃ち落とす気でちゅか?そんなも……。」
言いかけた言葉は、カヌレ探偵の視線で消えた。
彼女の目は静かに、怒りと殺意に燃えていた。思わずビスコッティでさえ、一瞬口を閉ざしてしまうほどの圧。明らかに、25歳の女性から放たれるものとは思えないほどのものだった。一線を越えた…そう思ったビスコッティに、彼女は静かに言った。
「…なめんじゃねえよ。」
ぐっと銃を握りしめ、その場で静かに構える。遠距離銃なんて扱ったことないが、そんなことは今はどうでも良かった。腹立たしさでヘリを見据える。
「サバランがどうとか、怪盗がどうとか。クソほど、どーでも良いんだよ。大体、助けられたくて助けられてんじゃねえ。対抗されたくてされてんじゃねえ。毎度毎度キスされて、こちとら腹立ってんだよ!そんでもって絡んでくる五十代オッサン悪!ふざけてんのか?…私としては、探偵としては、あいつらを捕まえたいだけなんだよ。こんなところで絶望に向かって、はいそうですか、なんて頭を垂れてやるほど、善人じゃねえ。意地でも生きて、探偵をやってやる。よく見とけ、オッサンっ。こんなところで死んでやるほど、私は潔くねーんだよ!運命の神様だろうが、どこぞの悪だろうが怪盗だろうが………思い通りになんかなってやるか!残念だったな、私がこんな人間で。出直してこいやァ!」
ビスコッティが静かに理解した。彼女は一線を越えたんじゃない。一線を越えず…一線を越えた先の狂気と殺意ほどの熱量で、いかなる状況も打破しようとするのだと。その瞬間、わずかによぎった一抹の恐怖に、ビスコッティは即座に動いた。彼女の銃を奪い取ろうと手を伸ばす。しかし、わずかに間に合わず、銃弾は放たれた。そして、恐るべきことに、ビスコッティの目の前で、三機同時に錐揉み状態を起こした。
「…………なっ………?!」
一気に墜落する三機。ビスコッティは信じられない思いで目の前の光景を凝視した。
実は、カヌレが銃を放つ直前、銃弾は二方向から来ていた。一人は、怪盗アシュレである。ダックワースの横で、ダックワースの銃が無いことに驚いた彼。そして気付けば自分が持っていることに気付いた。
(……いつの間に、彼女の銃を……僕は……一体どうして……。)
呆けつつも、彼は静かに目を閉じ、それを握りしめた。じっとダックワースの方を見る。覚悟は決まっていた。
(僕には、奴らを殺すほどの実力はない……。きっと君と同じような目に遭うだろう。それは君もきっと望んでない。…だから、この銃で……奴らの策略を少しでも阻止して見せるよ。)
心の中で誓うと、彼は船の甲板へと移動した。そして、ビスコッティ達を探すうちに、近づいてくるヘリに気付いた。
(私用ヘリ……。間違いなく、奴らのだろう。)
バッと銃を構える。ぎりっと歯を食いしばった。脳内に、ダックワースとレッドベルベットが浮かぶ。二人はもういない。
(僕を怪盗にしたのは、あの二人だった。)
一発で仕留めると誓いながら、ヘリのテールローターに銃口を合わせる。
「……海外の怪盗を……舐めるなよ…。」
パアン!
そしてもう一人。こちらは、二階の客室の窓から狙う男がいた。
爆弾解除を片手にやりながら、ポムのスマホを机に置く。近くの爆弾の配線をいじりながら、呼びかけた。
「おい。聞こえてるか。なんかヘリみたいな音と、ビスコッティとカヌレの声がわずかに聞こえるな。」
「ヘリが来てる。三機だ。ランチャー付だ。」
物陰に隠れているフィナンシェが静かに応えた。怪盗ノクターンは配線をいじいじしつつ、なるほどな、と笑った。
「俺は今、客室にいる。308だ。爆弾解除をしている。そこから何が見える。」
フィナンシェが静かに周囲を見渡す。カヌレと、上の方に、小さい黒く細長い銃口が見えた。
「甲板から誰かがヘリに向かって銃を構えている。カヌレも狙っている。」
「同じヘリか?」
「いいや違う。それぞれ別のヘリだ。」
フィナンシェが静かに言うと、怪盗ノクターンは爆弾解除を片手に、近くに置いてある銃を手に取った。レッドベルベットの銃である。
「悪いが、爆弾解除をしている。この船が沈んだら俺も逃げ場が無いからな。仕方なく解除しているが、一瞬の油断も出来ない。…座標を言え。指示しろ。」
「…君は、怪我人になんていうことを要求しているんだい。カヌレたちに聞こえていないから良いものの……。その代わり、僕が指示するからには、外すなよ。」
「当り前だ。今、北東…。一時の方向に向かって銃を構えている。」
カチャカチャという音がスマホを伝って響く。ノクターンが爆弾解除をしている音だ。それを聞きながらフィナンシェがため息交じりに、狙われていない残る一つのヘリに視線を向ける。脳内で怪盗の位置と、ヘリの位置をすぐに計算した。そして、銃を打つのに必要なことを即座に計算する。
「……高度10、風速3。左へ10度……。」
ノクターンが爆誕解除片手に、空の方を見ずに外に向かって、銃を構える。フィナンシェが不敵に微笑んだ。
「今だ!」
パァン!
そうして、無事、それぞれのヘリを狙い、それぞれヘリを墜落させたことで、ビスコッティの視界には同時に墜落するヘリが映し出されていた。水しぶきを上げながら海へと突っ込んでいく。
「そんな……馬鹿な………?」
驚きで固まるビスコッティの目の前に、柔道着を来た女性が吹っ飛ばされてくる。マドレーヌがカヌレの前に姿を現した。少し怪我をおってるものの、割とピンピンしていた。
「はは!柔道っておもしれーなっ。俺よく分かんねえけど、投げ飛ばされたの楽しかったぜェ?!…お返しにこっちも投げ飛ばしてやったぜ。まーちっと、柔道の形には鳴って無かったかもしれねえがなっ。」
近くの壁に激突して、ぐったりとその場に倒れ込むおこしを見て、彼はありゃ?と首を傾げた。
「あれ?もう終わり?酒注いで貰おうと思ってたのに……。しまった……やり過ぎたか?」
ポリポリと頭をかいた。そして、んじゃ~…と言って、ビスコッティの方を見た。ビスコッティが静かに視線に気付き、はっとしたように構える。
「俺ァ、ちょっとよお…昨夜キャバクラ行けなかったから気が立ってんだよ…(※第十三話)。そのツケ払いやがれェーーー!」
叫ぶと、ビスコッティにタックルをして、自らと共にカヌレ探偵の目の前をすっ飛んでいった。彼女が思わず銃を持ちながらあんぐりを口を開け、マドレーヌがビスコッティを床に完璧に確保していた。
そんな三機撃ち落としを終えた後、怪盗アシュレは沈みゆくヘリを見ながら、静かに銃を握りしめていた。
「…………ありがとう……ダックワース……レッドベルベット……。」
悲しそうに呟いたが、その瞳はもう前を向いていた。どこまでも遠く、青い空を彼は仰ぎ見た。
「無事撃ち落とせたか?」
「ああ、完璧だ。」
フィナンシェがぐったりとしつつも、達成感のあるような顔で電話越しに返答する。怪盗ノクターンの方もカチャカチャ……という音が途絶えた。
「こちらの爆弾解除も終わった。これでここの爆弾は安心だな。後は……一般人の方だが…。ふむ、爆弾の発信が消えている。カヌレの助手がやったみたいだな。」
「ポムか……成功してくれたのなら良かった。」
フィナンシェが静かに応える。するとプツリと通話が切れた。フィナンシェがははっ……と小さく笑う。
「…船が沈まなくなった上に、危機がある程度落ち着いたから、お暇するって訳かい。本当に都合がいいね、君は………。」
僕は少し疲れたよ、と目を閉じた。
「全く……体もボロボロな上に、頭も使った。満身創痍だ。…どうせ救助がそのうち来る。…少し休ませてもらうよ。」
一方少し前。ポムは壁にみっちりと埋まった爆弾を目の前に、完璧に困り果てていた。何やら配線やらがあるが…全く分からない。その上いつ爆破するか分からない。
「そもそも、爆弾って…起爆ってどうなってるの?!こういうタイプ映画でしか見たことないわよ?!」
そして、恐ろしいことに気付いた。よく見たら右下の方にタイマーがある。ピっぴっ…と嫌な音を立てて、残り時間を表示している。しかも残り二分…。彼女は真っ青になった。
「も、もうどうすれば良いのよこれ?!」
周囲に誰か人が来ないかと見やるが、誰も来る気配は無い。スマホも無い。配線をじーっと見つめて、どうにか仕組みを理解して止めようとするが、さっぱり分からない。ピッピッと嫌な音が響く。残り一分を切った。
「大丈夫よ…あたし、カヌレの助手よ…きっとできるはずだわ…!」
自分に言い聞かせて、じーっと見つめる。
ピッピッ。
「大丈夫…もうあとなん秒とか気にしなくて良いから…。」
ピッピッ。
「あたしならできるはず…。えーっとこれがここに繋がってて…。」
ピッピッ。
彼女はぶるぶると体を震わせると、腹立たし気に右下の残り時間を表示するタイマーを見た。残り三十秒だが…。ついに彼女は堪忍袋の緒が切れた。
「うるっさいわよ!ピッピッピッピッ!残り秒数が何だってのよこのっ!!!」
そう言って爆弾を隠していた装飾を手に持つと、タイマーに向かって壊れる程の勢いで押し付けた。
バキバキバキっ!
嫌な音が響き渡る。メッタメタに壊れた基タイマーを見て、ポムがフン…と鼻を鳴らす。そして再び爆弾に向き直った。
「え……?止まってる…?」
爆弾の赤く点滅していた光はどこかへ消え、爆弾はシン…としていた。タイマーの音はもちろん聞こえない。彼女が呆けながら腕時計を見ると、もう爆破時間は過ぎていた。
「……なんだか知らないけど……うまくいったってこと…?」
その場にへなへなと崩れ落ちる彼女。近くの海ではフォンダン警部達がのった一隻のボートがカヌレたちを迎えに来ていた。
「あの時、ガレット刑事が気絶したからとはいえ…相変わらず、君の上司はメンヘラで助かったよ。君からの連絡が途絶えたおかげで、すぐに救助が来た。」
後日。病院のベットに横たわりながら、フィナンシェがニコっと微笑んだ。隣のベットで寝そべるガレット刑事が不満げに言う。
「上司のことはさておき…俺が気絶している合間に自体が終わっているとはな。…不覚だ。柔道女相手に、この俺が壁に打ち付けられ、あばらを折られたなんてな。」
そんな二人の前には、当時のメンツがお見舞いに来ていた。ポムが申し訳なさそうに言う。
「あたしのことを庇ってくれたのは、礼を言うわ。ありがと。…なんか、申し訳ないわね。そこまであまりにボロボロだと…。」
包帯に巻かれた体を見やる。フィナンシェは気にしないでくれと呟いた。
「結果的に、君が爆弾を解除したんだ。君が戦闘不能になるより、僕が戦闘不能になった方が万事うまくいったんだ。何も謝る必要は無い。」
「とりあえず慰謝料ビスコッティに請求しようぜ。」
マドレーヌがお見舞いに持って来たお菓子をバリボリ食べながら言う。その横でホワイトショコラも、カヌレが持って来たお見舞いを羨ましそうに見ながら、呟く。
「そうですね。今、あのジジイ牢屋にぶち込まれてるんでしたっけ?本当ざまあ無いですよ、カヌレさんに手を出して…。僕としては、一生牢屋で過ごしておいて欲しいですね。カヌレさんを殺そうとするなんて…本当重罪です。こんな美しい女神に銃口を向けるなんて、あり得ません!ああ、カヌレさんっ、こんなキザの坊ちゃま探偵と、不愛想刑事にお見舞いを持ってくるなんて…どこまでお優しいんですか!カヌレさんが持って来たお見舞いの品…全て僕が頂きたい程に、心が綺麗です!大好きですカヌレさんっ!」
フィナンシェやガレット刑事に向かってどす黒いオーラを放ちながら、カヌレにニッコニコの笑顔を向け、その姿を愛でる店員。その様子に、ホワイトショコラ以外の全員がおう…平常運転だなと察する。フィナンシェがため息を吐きながら、問題はサバランだと呟いた。
「今回の件で、奴には逃げられた。ビスコッティが捕まったとはいえ、奴が何をしてくるか分からない。そして僕やガレット刑事も完治には少し時間がかかる。それまでに仕掛けてくることは無いとは思うが…警戒しておきたい。特に奴の手口は、ビスコッティとはまた違った手口だ。じわじわと蝕む悪タイプだろう……。僕らも一刻も早く治るのを目標にするが…カヌレたちも気を付けて欲しい。いずれ奴とはまた、戦うことになるだろう。以前の戦いではどうにかなったが(※シーズン1)…次がそうなるとは限らない。」
彼の言葉に、カヌレが真剣な顔で頷く。ポムが腕を組みながら、任せておきなさいよと強気に微笑んだ。
「あたし達だって、立派な探偵と助手よ?…サバラン相手に、負けないわ。」
「そういやお前、物理的に爆弾の基盤があったタイマーをぶっ壊して、爆破を止めたらしいな。」
ガレット刑事が鑑識の弟から聞いたぞ…と思い出したように言う。タイマーを物理的にぶっ壊して、爆弾を止めた…。全員が言葉を心の中で反芻する。マドレーヌが呆然として呟いた。
「ゴリラ……。」
「何よ!うるさいわね!爆弾なんか止め方、分かるわけないでしょっ。結果的に止まったから良いじゃない!」
ポムが顔を赤くして、叫ぶ。それを見ていたフィナンシェが愉快そうに呟く。
「熟れたね。」
「完熟リンゴ…。」
便乗するようにマドレーヌが呟く。それを聞いてポムがさらに顔を赤くして、キーキーその場で怒り始めた。慌ててカヌレがなだめる。マドレーヌとフィナンシェは顔を見合わせて少しにやっと笑っていた。ガレット刑事が騒がしい病室だ…と頭を抱える。なだめるカヌレを愛おしそうにホワイトショコラが眺めていた。
とある空港。
サランボはキャリーケースを引きながら、飛行機に搭乗していた。懐から一枚の写真を取り出した。幼い頃のダックワースとレッドベルベットの写真だ。彼はそれを悲しそうに、懐かしそうに見つめると、ふっと目を細めた。
「……やっぱり僕は…まだ、そっちにいけないみたいだ。……君達の分まで、生きるよ。」
飛行機のアナウンスが響き渡る。離陸の時間が近づいてきたようだ。彼は、窓の外へと目を向けた。他に旅行客がいて、ざわつく飛行機内で、静かにそっと呟く。
「See you again…オーブン街。また会おう、ノクターン。その時は、今の僕より強くなって君と奪い合うよ。」
彼は小さく微笑んだ。
ガシャン。
鉄格子が閉ざされ、ビスコッティは牢屋に入れられた。はあ……と重苦しいため息を吐く。
「これが牢屋でちゅか……。サバランはこんなところに入っていたのでちゅね。」
本当に何も無いし、つまらないところでちゅ……と言いながら、周辺を見渡す。
「こんなところに興味本位で、一度入って見たかったなんて言いながら、入るサバラン…。本当に狂気の沙汰じゃないでちゅ。頭のネジが全部外れてるに違いないでちゅ。バブウ…(呆れ)。」
すると、彼は、壁の一部が何か違和感を感じるのに気付いた。思わずそっと壁の一部を動かすと、一枚の板が外れた。裏側に文字列が並んでいる。
ーーー捕まるとか面白いですねぇ!
すげー滑稽じゃん!バブバブバブ(笑)
from 悪のカリスマ、サバランたんより♡ーーーー
ビスコッティは板を殺意の沸いた目で見つめた。片手で握り締める。
「…灰になれでちゅ、サバラン。」
その頃、悪のカリスマ、サバランたんは薄暗い部屋でパチパチパチと手を叩いていた。机の上にはいくつも積み重ねられたケーキ…そう、いわゆるウエディングケーキが置いてあった。ピンクと白の生クリームで豪華に装飾されている。そして頂点には…ハートがあり、そこには、悪のカリスマサバランとか書いてある。
「牢屋にぶち込まれビスコッティ!萎靡ビスコッティ!一富士二鷹三なすビスコッティ!…いや、最後のはちょっと奴にしては縁起が良すぎますね。ちょっとはとこだからって褒めすぎちゃいましたか。サバラン、お前…いけない子だな…。でも、そんなところが俺は好きだぜ…。きゃー!イケメーン!イケオジーー!こっち向いてーーー!パシャア!」
カメラを取るふりをしつつ、彼は嬉しそうに笑った。そして、ウエディングケーキ用のナイフを手に取る。
「やだ、サバラン結婚しちゃうのー?!いいえ、私は誰のものでもありませんよ。じゃあ、このウエディングケーキは?!というとですね…サバランがただ単に食べたかっただけですっ。そして、自作しちゃいました!ええっ。私もしかしてスイーツの道、開けてたりするんですか?!そんなこと知っちゃったら、もうパティシエになるしか……と言いたいところですが、お言葉ですが遠慮させていただきます。孤高の悪が一番自由で楽しいもんですから。ええ…なんてかっこいいの。涙出ちゃう…。ほら…涙拭けよ、お前が泣いて良いのは、この俺の胸の中だけだぜ…。きゃー!変態ーーーーーーっ!おっと、別に結婚相手いないですし、これ入刀する意味ないですね。じゃ、要らなーーーい☆」
ぽいっと結婚式用ナイフをそこらへんに放り投げると、彼はケーキを素手でつかみ取り、もしゃもしゃ食べた。
「うーん、やはりこのレモンフレグランス…。最高ですね。そしてスポンジの焼け具合も素晴らしい。えーん、手が汚くなっちゃったよーママァ。もう、はしたない子ね。ほら、お手拭きでちゃんと拭きなさい。ああ!綺麗になったァ!バブウ(歓喜)。」
サバランは近くにあったお手拭きで手を拭くと、ふうと息を吐いた。パソコンを見つめながらふふと笑う。近くのソファにもたれかかり、優雅にモカを飲んだ。
「今頃、牢屋でビスコッティが私からのメッセージを見ているところですかねぇ。ええ、私のはとこでありながら、お役に立ってくれましたよ。実は、サバラン君…牢屋に出てからというもの、今度はどうやってカヌレ探偵を悪側に誘おうか悩んでいたのです。なにせ彼女は手強いですから…。以前大分追い詰めたと思ったら、怪盗によって盤面もひっくり返されましてね…(※シーズン1)。で…一つ思いついたのですが……それは時間がかかるものでした。ですが、ビスコッティ…貴方がカヌレ探偵の相手をしてくれていたおかげで、こちらは準備がかなり進みましたよ。まだ時間はかかりますが…ええ、よく働いてくれました。」
サバランはすっと目を細めると、パソコンを見た。そこには、カヌレの写真が映し出されていた。
「さぁ、カヌレ探偵。開演の準備はよろしいかな……?」
皆様、最後までお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございました……ッ!!
シーズン2、ここに堂々の完結です!!
カヌレの「なめんじゃねえよ」。
この一言に、彼女の探偵としての、そして一人の人間としての誇りの全てを詰め込みました。誰に助けられるでもなく、誰の思い通りにもならない。そんな彼女の「強さ」が、ヘリ三機を、そしてビスコッティの慢心を撃ち抜いてくれたと信じています。
そして、影で支えた(?)男たちの蹂躙的なまでの活躍。
フィナンシェの頭脳とノクトの技術、アシュレの決意……。彼らがバラバラでありながらも一つの目的に向かったあの瞬間、物語はナカからパンパンに熱く、激しく燃え上がりました。
(ポムの「うるっさいわよ!」による物理解除は、書いていて一番スッキリしました!笑)
ビスコッティは牢屋へ、アシュレは新しい空へ。
そして、サバラン……。
「開演の準備はよろしいかな?」
彼のこの言葉が、次の物語への「蹂躙」的なまでの序曲となります。
ここまで読者の皆様に愛され、支えられたカヌレたちは幸せものです。
私も、彼らと一緒にこのオーブン街を駆け抜けられたことを、誇りに思います!!
またいつか、次の「開演」の時にお会いしましょう。
本当にありがとうございました!!




