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転生したら泥団子になった件

神託板の光がさらに増す。


神殿の上から、別の気配が降りる。


高く。

重く。

神々しい。


『確認しました』


誰かの声が、祭壇全体へ満ちる。


『誤投棄一件。保留放置複数。処理省略。転生の照合不備。また神殿の不始末、数百件。』


三神がそろって肩を縮める。


神官たちは今にも死にそうな顔になる。


終わりだった。


理屈の上でも。

立場の上でも。

たぶん、信仰の上でも。


それは俺を見た。


『本来の転生をやり直すことは可能です』


祭壇が静まる。


俺はその言葉を、思ったよりも重く受け取っていた。


人間に戻れる。

あるいは、もっとまともな器へ行ける。


その可能性が目の前に出された時、俺はようやく、自分がこの泥の身体に少し慣れてしまっていたことに気づいた。



結論から言えば。


神殿は神の監督のもとで、大改革を余儀なくされた。


そして、転生窓口の三神も処分された。


正確には、神格を失ったわけではないが。


あの時現れたのが上位神だったようで、子犬のように縮こまっていた。


まあ、元はといえば監督不行き届きだ。もっと早く来てくれ。


『器物誤投棄は、照合不備です』

『説明前転送は、確認漏れじゃな』

『双方の怠慢が、泥を生みました……』


「誰が双方の怠慢の産物だ」


俺が言うと、三神は綺麗に目を逸らした。


揃いも揃って嫌なところで息が合っている。


セシリアはその横で、淡々と自分の要求を読み上げていた。


「見習いの夜勤削減。祭礼時の処理班増員。未分類品の保留期限延長。記録担当の分離。あと寝台の改善」


「最後だけ生活感が生々しいな」


「毎日使うから」


もっともだ。


神託板の前では、妙なことに、彼女の要求の方が俺のキレ芸より通りが良かった。


まあ理由は分かる。


俺の要求は半分暴言だ。


だがセシリアは冷静に必要事項を要求しただけだからだ。


『寝台の改善は重要ですね』


エルフ神が真顔で頷いた時には、さすがに吹きそうになった。


「そこなんだ」


「そこだよ」


セシリアは真顔だった。


そして、俺について。


『いつでも再転生が可能です』


エルフ神がそう言った。


『適切な器を用意し、説明をしたうえで、転生できます』


のじゃロリが言う。


『お詫びに、水属性を選ばせてやっても……』


「いらねえ」


即答した。


三神が揃って固まる。


「今さら普通に転生しても、マイナスがゼロに戻るだけだろ」


俺は祭壇中枢を見回した。


帳面。

器物。

燭台の火。

少しだけ背筋の伸びたセシリア。

そして、俺の横に浮かぶ、元祭壇剣の聖剣。


「この片づけが終わるまで、俺は保留でいい」


『保留、とな』


「誤投棄された当人として、最期まで立ち会わせろ」


我ながら嫌な役回りだ。


だが、放り出すよりはマシだった。


聖剣が、珍しく静かな声で言う。


『妥当だ』


「お前もか」


『下手な器に入れ直されるより、今の方が貴様らしい』


「褒めてないよな」


『半分な』


セシリアが帳面を閉じる。


「じゃあ、しばらく神殿にいるの?」

「らしい」


「住む場所は」

「ない」


「寝台は?」

「ない」


「食事は?」

「いるか分からん」


セシリアが疲れた顔のまま言った。


「うちの見習い区画、空きがいっぱいある」


「え」


「ただし、寝台は硬い」


「改善するって今言っただろ」


「まだ予算が決まってない」


「しばらくはそれかよ」


でもまあ、悪くない話だった。


燭台は祭壇の片隅へ戻された。


仮面や札束や、未練を残した器物たちも、再鑑定と保管の列へ回された。


聖剣は、祭壇へ戻るかと聞かれて、


『断る』


と即答した。


『今さら飾りに戻る気はない』


それを伝えた時の副祭司代理の顔は見ものだった。


だが、俺はこいつのそういうところが少し好きになっていた。



それから数日後。


俺は再び、あの白い転生窓口にいた。


「なんでまたここなんだよ」


『監査です』


エルフ神が事務声で答える。


『窓口改善のための試行じゃ。今後は説明を増やすのでな』


のじゃロリが不満そうに頬を膨らませる。


『そして、再発防止のため、傍聴者の確認を……』


石像シスターが静かに続けた。


「それが俺か」


『そうです』


魔法少年が俺の肩を叩く。


『本当にごめんね。僕も心を入れ替えてこの人たちを監視するよ』


目の前には、新しい死者が一人、ぽかんと立っていた。


少し前の俺みたいな顔をしている。


「えっと……転生って、ちゃんと説明してもらえますか?」


三神が俺を見る。


俺はため息をついた。まだ泥団子なので肺はないが、気分の問題だ。


「もちろんだ。懇切丁寧にな。」


台座の上には、四つの球が並んでいた。


火。水。土。風。


俺はその前へ進み、指のない泥の先で順に示した。


「火は派手だ。ぶつける力がある。水は器用だ。なんでもできる。風は速い。少なくとも時間通りには来る。土は固い。粘り強い。あと、拾ったものを無駄にしない」


のじゃロリが小声で言う。


『それはえこひいきかえ?』


「黙ってろ」


新しい死者は、おっかなびっくり頷いている。


「で、どれを選んでも、フォローはしっかりする」


俺はそこで少しだけ笑った。


「少なくとも、前よりはな」


横では聖剣が、例によって偉そうに浮いている。


神達の背後には、なぜかセシリアが書き上げてくれた『改善要望書』の束が天高く積まれている。


しかも一番上には、『寝台改善の進捗確認』とも書いてあった。


「……何で窓口にまで神殿の書類が来るんだ」


『上の怠慢とは、神の怠慢でもあるということだろう』


「政教分離ぐらいしろよ」


だが、間違ってはいない。


やり方が雑なら、どこかで誰かが同じことをする。


報連相を怠れば、必ず組織は歪む。


環境が悪ければ、手順は削られ、連携は弱まり、最後には末端まで腐り落ちる。


それが分かっただけでも、俺が泥団子になった意味は、ゼロではなかったのかもしれない。


もちろん、二度となりたくはないが。


「よし」


俺は新しい死者を見た。


「じゃあ始めるぞ。それぞれの転生先は…』


そう言ったところで、のじゃロリが水色の球を前へ押し出してきた。


『せっかくだし水も……』


「しつけえな!」


白い空間に、俺の声が響いた。




転生したらゴミだった。


その事実は消えない。


だが、埋もれたままで終わらせないぐらいのことはできるらしい。


それならまあ、悪くない。


少なくとも、捨てられた時よりは、ずっと。

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