67 世界管理装置
中央管理塔のホールには、重い沈黙が流れていた。
先ほどまで映し出されていた古代文明の戦争。
巨大兵器が戦い、都市が崩れ、世界そのものが危機に瀕していた光景。
アルトはゆっくりと中央管理AIを見上げた。
「文明は……どうやってその戦争を止めたんですか?」
AIの青い光が静かに揺れる。
《文明は最終防衛計画を発動しました》
空間に再び映像が広がった。
今度は、世界の地図だった。
巨大な大陸。
海。
そして、世界中に点在する無数の都市。
その中心に、ひときわ大きな光が現れる。
ミラが呟く。
「これ……この都市?」
アルトは頷く。
「中央研究都市だ」
AIの声が響く。
《世界管理装置》
その言葉と同時に、都市の地下構造が映し出された。
地表の都市のさらに下。
深い地下。
そこに存在するのは――
巨大な装置。
都市よりもさらに巨大な、環状構造の機械だった。
無数の柱が空間を支え、中央には巨大な結晶体が浮かんでいる。
ガルドが思わず言う。
「……なんだこれ」
アルトの目が鋭くなる。
「魔力制御装置……」
AIが説明を続ける。
《世界管理装置の役割》
映像に三つの機能が表示される。
まず一つ。
巨大な魔力の膜が、世界を覆う映像。
《魔力バリア》
ミラが息を呑む。
「世界を……包んでる?」
AIは続ける。
《異界存在の侵入を阻止》
次の映像。
空間そのものが揺れている。
しかし巨大装置から放たれる光が、それを安定させていく。
《空間安定》
アルトが呟く。
「世界の法則を守る装置……」
三つ目の機能が表示される。
黒い異界の影が世界へ侵入しようとする。
だが、見えない壁に阻まれて消える。
《異界侵入防止》
ホールが静まり返る。
アルトは理解した。
「つまり……」
AIが答える。
《世界防衛装置》
ミラが言った。
「世界を守る機械……」
アルトは深く息を吸った。
文明が最後に作った装置。
それは兵器ではなかった。
世界そのものを守る防壁だった。
グランが低く言う。
「じゃあ、その装置が動いてるから今の世界は無事なんだな」
AIは一瞬、沈黙した。
その沈黙が、不気味だった。
アルトの胸に嫌な予感が走る。
「……違うんですか?」
AIの光がわずかに暗くなる。
そして静かに告げた。
《現在》
《世界管理装置は停止状態です》
ホールの空気が凍りつく。
ミラが声を上げた。
「えっ!?」
ガルドも驚く。
「止まってるって……」
アルトは信じられない思いでAIを見つめた。
「それじゃあ……」
AIは続ける。
《装置は文明崩壊後、完全起動状態を維持できなくなりました》
映像に世界のエネルギー網が映る。
かつて光っていた都市。
今はほとんどが沈黙している。
《補助都市の機能停止》
《エネルギー供給網崩壊》
《中央装置の出力低下》
アルトの声がかすれる。
「じゃあ……」
「今の世界は」
AIは答えた。
《極めて不安定な状態です》
ミラが小さく呟く。
「そんな……」
AIの青い光が静かに揺れる。
《この状態が続けば》
一瞬の沈黙。
そして――
《異界侵入は再び発生します》
ホールの空気が、さらに重くなった。
アルトはゆっくり拳を握った。
文明が守った世界。
その防壁は今――
崩れかけていた。




