⓪-9 アルビノの少年
銃口を向けた瞬間、ラーレは衝撃で壁まで吹き飛ばされた。
少年の前に突如、眼帯をした長身男が現れ、ラーレの銃撃を受けた。少年は無傷だ。
男はラーレの銃撃を避ける気がないようだった。次いでラーレの左わき腹を撃ち抜き、壁際まで蹴り飛ばした。
あまりの刹那であった。蹴り飛ばされたラーレは吐き気、そして脇腹の激痛を感じ、うずくまる。
こんなにも長身の、眼帯の男が室内にいたということが、気配が、殺気が察知できなかったとでもいうのか。
「ちょ、何やってるの! だから言ったのに、ボクは撃たれたって……」
「あなたが、撃たれるのだけは、容認、できない……」
眼帯の男は尚も少年の前に立ちはだかり、腕で少年を抑えながら再びラーレへ銃を向け、発砲した。先ほどの衝撃でも手放さなかった拳銃に、銃弾は命中した。ラーレの愛銃が、カランと軽い音を立て、床に落下した。
「動くな、俺はまだ撃てる」
「あなた……。そう、あんたがそうなのね」
ブツブツと言葉を発するラーレの脳裏には、所長が襲撃される映像が流れていた。ラーレの脳裏には、所長が眼帯男に撃たれてその場に崩れ落ちる映像が、繰り返し流されていた。
所長が撃たれた現場に、ラーレがいたわけではない。所長は暗殺された。撃ったのは眼帯の男だったと、そう噂で聞いていた。
「お前が、所長を、撃った……」
男は笑みのような含み笑いを浮かべた。その笑みは、ラーレの感情を逆なでしていく。眼帯の男との間合いを一瞬で詰めることなど、男にとっては容易いだろう。
痛みを忘れないようにと言わんばかりに、ラーレの脇腹に激痛が走る。そんなラーレに、眼帯男との間合いを詰めることなど不可能だ。
殺るしかない。
漠然とした考えが脳裏を横切る。ラーレは足で、落ちた拳銃を男に向かって蹴り上げた。
そしてその反動のまま、ラーレは少年の額へ、仕込みナイフを放つ。男は簡単に拳銃を避け、ナイフを叩き落とした。やはりほぼ同時、否それ以上の速度で反撃を返してくる。
男は袖に仕込んでいたのか、別の拳銃をラーレの額に突き付けようとしている。ラーレはすでに壁際であり、後退は出来ない。
眼帯の男はお得意のカウンターから、間合いを一瞬で詰めてきた。
男は威嚇だけでラーレを殺す気などない。これだけの殺意を放っておきながら、殺す気がないのだ。殺す気があれば、最初の瞬間で心臓を撃ち抜いただろう。
ラーレはわき腹を抑えていた手を、男へ向かって振りかざした。ラーレの血液が、拳銃越しに男の顔面にかかった。
男は隻眼。片目の役割は常人以上に注意深く冴え渡っており、それが仇となるだろう。
一瞬ひるんだのを、ラーレは見逃さなかった。
ラーレは胸ポケットにしまっていた銃弾を手に、男の眼帯で隠れていない、左目目掛けて、決死の想いで飛び掛かった。不可能だった間合いは、男がわざわざ詰めてきたのだ。
(殺れる)
ラーレの手は止まることなく、眼帯の男の目を捉えた。




