⑫-3 もう一度
レオンの言葉に、ティナは照れるように俯いた。
かつての拠点・アウローラで、マリアがラーレと呼ばれていた頃、世話をしてくれたレイス。
そのレイスが、目の前にいる。
動く彼女を見れば見るほど、マリアは嬉しくなった。
「……先生って、時々一人称が変わるのね」
マリアはレオンに不審に思われぬよう、話を変えることにした。レオンは特に違和感もなかったのか、何度も頷いた。
「ああ、素なんですよ。僕だなんて、子供っぽいでしょう」
「それだとティニアはどうなるの?」
「そういえばそうでしたね。アルも言っていました」
「……アル、だなんて。アルベルトとそんなに仲良くなったのね」
「ええ、そうなんです」
ティナは驚いた表情を浮かべつつ、口元に手を当てながら思案へ入った。口元に手を当てる仕草は、レイスの癖だ。
その懐かしさに、マリアは思わず綻んでしまう口元に力を入れた。
さらに誤魔化すように、マリアはレオンへ話しかけた。
「レオン先生。そういえばさっきの話から聞けば、先生もシチリア島にいたんですか?」
「ああ。以前はシチリア島に住んでいたんだ」
「海岸で倒れてるティナさんを見つけたっていってましたね」
「そうです。養実家の医院で保護していて、私は成人後にその医院で働かせて頂いていたのですが、異動が決まって。ただ、ティナさんを引き取ってくださる場所が見つからず……。その、身元もわかりませんでしたからね」
そこまで話したところで、レオンは思い出したかのように手を軽く叩いた。
「おっと、行けない。マナ、マナ看護師いませんか?」
レオンが近くのベルを鳴らすと、マナはすぐにやって来た。手にはシーツを抱えており、直ぐ近くの病棟でシーツ交換中だったことが伺える。
「やだ。先生、探していたのに」
「おや。すみません、どうされました」
「シーツ、交換の時間ですよ。アニー看護師は午後からですし」
「おっと、そうでした。でも少し待って下さい。ティナさんがお話できるようになられて」
「本当!? ティナさん、初めまして。マナといいます。あっ、ティナって名前は先生が名付けただけの仮の名ですよ!」
ティナは思案から慌てて正気に戻ると、慌てて頷いた。そしてお世話になったと、丁寧に一礼した。礼儀正しいのは尚の事、彼女らしい。マリアは嬉しくなり、口元が綻んだ。
「マナ、さん。貴女にも多大な御迷惑を。……有難う御座いました」
「いえ! そんなことは! 私より、アニーって看護師が気にかけてましたよ。そばかすのある看護師なので、すぐわかると思います」
「そうなのですか。お礼を言わなくては……」
「ふふ、丁寧な方なんですね。元気になられて良かったです」
マナは自分の事のように嬉しがった。
ティナもぎこちなかった表情を綻ばせ、微笑んだ。いつか、過去に見た微笑みだ。マリアも自然と笑顔になる。
「シーツの交換なら、私が手伝うわ」
まだ診療所に居たい。
そう考えたマリアは、手伝いを申し出た。人手のない診療所であるため、マナはすぐ了解した。
「ありがとう、さすがマリアさん。気が利きますね」
「ふふふ」
マナは嬉しそうに手を合わせて喜んだ。ティナは少し驚いた表情を浮かべ、何やら思い悩むように口元に手を当てた。その表情の変化を、マリアは見逃さなかった。
「それじゃ、シーツ交換に行きましょうか」
マナはコクコクと頷いたため、マリアも頷き返した。
「では、シーツ交換の方宜しくお願いします」
「任せて、先生」
マリアがティナへウインクをすると、ティナはゆっくりと親指を立てた。
了解のサイン。懐かしいその仕草に、マリアは舞い上がってしまうのを抑えるのに必死だった。
「じゃ、マリア。まずは子供たちの方からね」
「はーい。任せて頂戴」
「今日お店は大丈夫なの?」
「私は休みよ。ティニアの退院の準備もあったから」
「なるほどね。子供達はやんちゃだから、気を付けてね……」
賑やかさが去り、病室には医師と患者だけが残った――。




