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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode42「目覚めへのレクイエム」
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㊷-2 暗

「覚醒の仕方、なんとなく分かるの。黒龍に思いを馳せて、黒龍という存在を受け入れたらいいのよね」


 ラウルは腕を組んだ。


「何で何も言わないのよ。流石にそこは、アドバイスしてくれてもいいじゃない」

「お前の思う通りにしたらいい」


 ラウルの視線は天井へ向いていた。


「失敗したらどうする気なの?」

「失敗は無い」


 ラウルの視線は下へ落ちたが、マリアを見ようとはしなかった。


「そう? まあ、あんたがそういうなら、そうなのね」


 マリアは目を閉じた。


 アルベルトはどうしているのだろうか。

 よく見ておけばよかった、とそう思った時だった。


 心の奥底から、どす黒い沼のようなものが湧き出てきた。

 怒り、悲しみ、僻み、嫉妬——。

 全てが大きな波となって、心に覆いかぶさろうとしていた。


 今なら分かる。

 それが、黒龍の正体であるということが。


 黒龍は、ずっと一人で居た。

 長い間、誰とも会えないまま。

 黒龍の意志など関係なかった。


 負の感情は、人や獣にとって不要なものだった。

 人や獣は、不要なものを捨てたかった。

 暗い闇として、蠢くものを吐き捨てていた。


 それは力を持ち、自我を持った。

 気付けば、黒龍はレスティン・フェレスで存在していた。


 人々や獣たちは戦争を経て、負の感情を積もらせた。

 黒龍はどんどん成長したが、一人きりだった。


 そんな黒龍に、声を掛けた者がいた。

 その者の名を、レン・ケーニヒスベルクと云う。


 彼女は、泥沼のゆりかごから、黒龍を救い上げようとした。

 しかし、救い上げる前に、彼女は戦争の毒を食らって死んだ。


 気付けば、彼女は生まれ変わり、遠く遠い地球で生きていた。

 黒龍は彼女を求めた。彼女は応えなかった。


 まるで、黒龍など存在していなかったかのように。


 黒龍は叫び続けた。

 竜の咆哮に気付いたのは、ヴェルローラの者たちだった。


 黒龍は今も、彼女を求めている。

 レン・ケーニヒスベルクを、母を。

 自分自身のマリアを——。


 マリアが目を開けると、視界には黒い靄が掛かっていた。

 マリアの朱色の髪は黒く染まり、瞳も黒一色となった。


 重い。

 身体だけではない、心も、感じる空気でさえも。

 自分のものではない負の感情。


 マリアは、目の前の男二人を見つめた。

 一人は無表情のまま、マリアを見つめている。

 もう一人は、今にも泣きだしそうにしながら、マリアを見つめていた。


 こんなものが、覚醒だというのか。

 マリアは湧き出る感情を抑えなければならなかった。


 マリアは両手の掌を見つめた。

 何かの力を得たとは思えなかった。


「ついに、この時が来た……」


 ラウルはそう言うと、マリアの前に跪いた。マリアは視線だけを落とし、ラウルを追った。


「拳銃を」


 ラウルは掌を掲げた。

 マリアは拳銃を抜き取ると、ぼんやりと見つめた。

 アルベルトは奥歯を噛み締め、耐えるようにマリアを見ていた。


 マリアは拳銃を、ラウルの掌に乗せると、手をかざした。


(ああ、真っ暗だ)


 眼を閉じたわけではない。

 何かの囁きが聞こえた。

 未だにマリアを、母を求め、探し続けているのだろう。


(そう、貴方が黒龍なのね)


 マリアの目の前には黒い拳銃が、ラウルの掌に乗っていた。

 何の変哲もない拳銃は、変わらない黒光りを見せていた。


 マリアに力があれば、レンと共に戦うことも出来ただろう。

 マリアは、そっと拳銃を手に取った。


「…………」


 かちゃり。


 銃口は、レンの額へと向けられた。

 ティニアと過ごしていたレンは、よくおでこを隠していた。

 前髪がめくれ上がると、直ぐに手直ししていた。


 そこにコアがあったからなのだろうか。

 それとも、単なる癖だったのか。


 だが、ティナにはない癖だ。

 レンの癖なのかもしれない。


 命を奪うという罪。

 決して、楽にさせるという事実だけでは片付かない。


 マリア自身の苦しみにも、終わりは訪れるのだろうか。


「さようなら。そして、おやすみ。レン……」


 マリアは、引き金を引いた。

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