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異世界小説家  作者: キクメン


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68:サシ

 町と南東のペシシ村を結ぶ街道の中間地点付近にある泉で、今回の依頼の討伐対象であるロックタイガル2頭の姿を確認した私は静かに元来た道を戻り、誰もいないことを確認してポータルゲートを取り出して現実世界に戻ってお弁当を食べることにした。ロックタイガルは鼻が良いらしいので弁当の匂いに気付かれないための配慮だ。


 弁当を食べ終えてすぐにまた異世界へと戻り、町へと引き返すことにした。夕方までには冒険者ギルドに行ってその後ウォルロッドとサシで夕食を食べる予定があるのだ。


 そうして町まで駆け足で戻り、午後3時半頃に大門に到着すると、門番から声をかけられた。


「おおタダノ!やはりロックタイガルは警戒して姿を現さなかったか」


「はい、なので昨日肉屋で買っておいた良い肉を置いておきました」


「なるほど、ちょっともったいないがそれは良い作戦だ」


 申し訳ない、その肉はこの2日程で私の胃袋の中に納めてしまった。そしてスッキリ消化されてタップリ出ていった。


 このようにしっかりアリバイ作りも終了して、いったん宿屋へと戻り、防具を脱いで槍を置き、ブーツも革靴に履き替えてから棒を手にして冒険者ギルドへと向かうことにした。


 しっかり手入れされた革靴はさらに柔らかくなったようでとても歩きやすく、しかも革のツヤ具合もとても良くてこれは現代の日本でもこれ程の革靴はそうそう手に入れられないぞと満足しながら足取りも軽く歩いて行った。


 冒険者ギルド建屋に入って掲示板を軽く確認してから受付へと向かったところ、やはりいつものVIPルームに入って待っていて下さいと言われた。来るたびに毎回この個室を利用しているので、そのうち冒険者タダノの部屋とか言われそうだ。


 そうして今日もまたいつもの女性職員がシナモン入りのミルクティーを運んできてくれて「間もなく来られますのでおくつろぎください」と言って退室していった。もう誰が来るとは言わなかった。


 ミルクティーを飲み干してホッと一息ついて安らいだところに丁度良くウォルロッドが入室してきた。


「おう待たせたな、今日職員がハデレス神殿に行ってロックゴレムの完全破壊を確認してきた。お前さん容赦ないな、ほとんど跡形もない程粉々になっていたと言っていたぞ」


「ロックゴレムだと分かりましたでしょうか?」


「うむ、まぁ石畳の上にかなりの石の欠片が山のようにあったのと、石畳もこれまで見たことがないくらいあちこちへこんでいたから、どう見ても尋常じゃない戦闘が行われていたのは間違いとのことだ。そして極めつけはお前さんが持ってきた魔法宝石だ、あれを無傷で持ってきたという時点で、完全破壊は決まったようなものだ、しかもな、普通なら10日は返事を返してこない中央大陸のギルドから、すぐにでも魔法宝石を送ってくれという便りが届いた、こりゃ滅多にないことだぞ」


「そうなんですね」


「ああ、まぁそういうわけだから、悪いが魔法宝石はしばらく預かることになる。こりゃもしかしたら当分の間は戻ってこない、いや、もう二度と戻ってこないかもしれん。もちろん所有権はお前さんにあるから、相当ふっかけてやるつもりだ」


「私は、魔法宝石がどのようなものなのか知れればそれでいいです」


「いや、そうは言ってもなぁ・・・相変らず金には無欲なやつだなお前さんは。まぁ代わりと言っちゃなんだが、ロックゴレムの完全破壊の報酬はキッチリ払わさせてもらう」


「有難う御座います、これで道具屋の竜の涙を手に入れられることが出来ます」


「おうあれか!あれはワイバルン討伐には欠かせないアイテムだぜ!オレはワイバルン討伐が成功したらアレを買い取るつもりだったんだが倒せなかったからな、オレの後に続く冒険者がいつか必要になると思って買い取らずにいることにしたんだ」


「なるほどそうだったんですね」

「ああ、お前さんが買い取るってんならオレも安心だ、お前さんならきっとワイバルンを倒してくれるだろう」


「はい、頑張ります」

「よし、それじゃ今日はもうあがりにして飯でも食いに行くか」

「はい」


 そうして今日はウォルロッドとサシで高級料理店へと向かった。


 高級料理店に入るといつもの給仕がやってきて、いつもとは違うテーブル席を案内してくれた。ウォルロッドが「いつものおまかせで頼む」と言い、給仕が「かしこまりました」と行って厨房へと向かって行った。私もそんな風に言える程の常連客になりたいものだ。


 すぐに果実酒と前菜とおつまみが運ばれてきた。


「タダノ様、昨日は野菜料理だけではやはり少々物足りませんでしたでしょうか?」


「えっ?」

「はい、失礼ではございますが、あの晩他の冒険者のお客様から大分お腹を空かせた様子のタダノ様が飯屋で食事をなされたとの話しを聞きまして」


「あっいや、それはその~」

 さすがに現実世界で一夜を明かして朝に腹が減って冷凍食品のピラフを食べようとしたがかなり残念な気持ちになったからとは言えない。っていうかやはり狭い界隈だ。どこで誰が見ているか、そしてそういった話しがすぐに出回るということにもっと注意せねば。


「ワッハッハッハ!冒険者の腹が野菜で膨れるわけがなかろう!肉を食わねば腹は減る!」


「いやそれが最近肉ばかり食べていたもので、野菜も食べないとダメかなと思ったんです・・・」


「確かにそれはそうだが、野菜だけだと腹がもたんだろう、だからその後余計に腹が減って飯屋に行くハメになったのだ」


「そ、そうですね・・・」


「いえ、こちらこそその点を配慮出来ず大変申し訳ありませんでした」


「いえいえ、こちらの知識不足ですから、謝らないでください、次からは気を付けます。そうだ、出来れば栄養バランスの良い食事になるよう、次からはアドバイスしてくれると助かります」


「かしこまりました、冒険者タダノ様がしっかり力を出せるよう料理をお勧めさせていただきます」


 迂闊なところもあったが、これで自分も「いつものおまかせで」と言える程の常連客に一歩近づいたので良しと前向きに考えることにしよう。


 その後はウォルロッドと様々な話をしながら大いに肉を食べた。もちろん野菜も。そこでもしも今後ワイバルンを討伐出来た場合、町の交易が今よりも相当良くなる話を聞いた。


 現在北の峠の山頂にワイバルンがいるため、中央大陸との交易は大きく山を迂回して行わなければならず、しかもその途上ではズール族が小さな商人キャラバンを襲って略奪したり、そうでなくても行き交う商人を襲う害獣もいるため非常にコストと時間がかかる状態なのだそうだ。


 そしてもしもワイバルンを討伐して峠越えが出来るようになるならば、下手すると今よりも10分の1以下のコストと時間になるとのことだった。また、交易が盛んになればズール族も野盗集団から足を洗って、運送業や峠道の道路修理などの土木作業に鞍替えする可能性もあり、町にとって大いに恩恵をもたらすだろうと言っていた。


 さらに交易だけにとどまらず、中央大陸との往来が今より遥かに盛んになるため、多くの人々もやってくるようになり町も潤い栄えるだろうとのことだった。そうすればポルルのような孤児達にも大分まともな生活と教育を与えられるとのことだった。


 この言葉を聞いて、私は俄然ワイバルン討伐をやる気になり、必ずや近いうちにワイバルンを倒し、この町にいるポルルのような境遇の子供達が働かなくてもちゃんと教育を受けられるような、いや、せめて子供達で大いに遊べるような町になるよう協力すると固くウォルロッドに誓った。


 ウォルロッドはすこぶる満足した様子で、私の手を取り固い握手を交わした。その際ウォルロッドはウォルロッドに比べて遥かに線が細いにも関わらず私の握力がとても強い事と槍を使い続けて出来た硬い手の豆に驚いた。そうして一言こう言った。


「なるほど、本物の戦士の手だ、強い訳だ」と。

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