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異世界小説家  作者: キクメン


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69:赤ちゃん

 高級料理店でウォルロッドとサシで会食をした私はポルルのような孤児達が子供らしい生活を送れるように必ずや近いうちにワイバルンを討伐すると約束して、肉をたらふく食べて野菜もしっかり食べて、その後に宿へと帰った。


 宿の部屋に戻った後はお馴染みのルーティーンで寝る前の準備を整えて、ポルルの干してくれた布団に入って優しい暖かなぬくもりに包まれながら心地良い眠りについていった。


 待っていてねポルル、必ずやワイバルンを討伐してもう仕事をしなくても・・・うん?そうしたらもうポルルに布団を干してもらえなくなるのか・・・いやいや、それよりも子供らしく遊んだり勉強したり出来ることの方が重要だ・・・グゥ・・・


 明けて翌朝、相当早く寝たので相当早く起きた。といっても冒険者にとっては日の出とともに起きるのは当たり前の日常なのだが。


 朝風呂を我慢してすぐに飯屋に向かい、朝食を食べて弁当を買い、隣の肉屋でまたしてもたくさん肉を買い込み、ザラ小屋に行って荷車だけを借りれるかと聞くと100デンで貸してくれた。


 荷車をザラに牽引してもらうのではなく自分で牽引して大門に到着すると、門番からザラを連れて行かないのかと聞かれ、ロックタイガルに襲われたり食べられたりする危険性があるので自分で牽引していくと答えた。


 門番はなるほどと頷いた。今回は嘘は言っていない嘘は。ただ大門の近くに来るまでは遺体はアイテム格納バッグに入れて運ぶけど・・・


 そうして自分以外の冒険者は全員ザラに乗って荷車を引かせて行く中を私だけが自分で荷車を牽引して南東のペシシ村を結ぶ街道をひた走った。


 昨日しっかり偵察したので、地形については把握しており、途中で誰もいないことを確認して双眼鏡を取り出し、辺りを注意深く見回したが、街道沿いでロックタイガルが通行人を待ち伏せている様子はなかった。


 私は次に北方向に少し進んだところにある泉へと向かった。芝生と雑木林に近づいたところで荷車を置き、アイテム格納バッグから肉屋で買った肉を取り出し、せこいことに少しだけ切り取ってサブの槍の穂先に突き刺して、残りは自分で食べるためにまたアイテム格納バッグにしまった。


 今日は息をひそめて足音を立てないように歩くのではなく、堂々と自分はたった一人だぞとアピールするかのように、肉が刺さった方の槍の穂先を前にしてゆっくり歩き進んでいった。


 地図を表示させながら歩き、泉までの距離が100メートルを割ったと思ったところで赤いマーカーが2つ表示された。案の定昨日二頭を発見した場所に近い草むらの奥に表示された。恐らくもう既に肉の匂いを嗅ぎつけているだろう。


 私はいつでも戦える臨戦態勢を維持しつつそのまま歩く速度を変えずに泉まで近づいた。そうして泉のほとりに辿り着いたところで泉を背にして正面を向き、サブの槍に刺した肉を草むらの方へと放り投げた。


 私は地図を見ながら恐らく一頭はこちらに姿を現し、もう一頭は側面から襲ってくるのではないかと考えたが。残念ながら素人予想は外れ二頭同時に目の前に現れた。


 私が放り投げた肉には目もくれず、二頭は左右に展開し、私にとっては最も厄介なニ対一のポジションをとられた。


 私は仕方なくサブの槍を足元に置き、メインの槍を両手で構えた。ロックタイガルの大きさはおよそ2メートルか3メートルといったところか。そのうち一頭はもう一頭に比べて身体が一回り大きかった。


 ふと武器屋からもらったベルトとホルダーに差し込まれている投げナイフを思い出し、腰に触れて3本の投げナイフの場所を確認した。


 恐らく今日は防具屋で買った防具が初めてダメージを負うことになるだろう。多分死に至るような大怪我を負うことはないと思うが、果たしてどの程度のダメージになるか。しまった、濃い青のブルースライムゼリーをいつでも食べれるようにポケットに閉まっておくんだった。


 とりあえずじっとにらめっこしていても仕方がないので、こちらから仕掛けることにした。やはり身体の大きい方を狙うことにした。


 私はメインの槍の穂先を身体の大きいロックタイガルに向けゆっくりと歩き始めた。


 すぐにロックタイガルは体勢を低くし、いつでも飛びかかれる体勢になり、低い唸り声をあげた。どう見ても馬鹿げてる光景だ。線の細い現代日本人が槍だけで巨大な虎、それも二頭を相手にしようというのである。


 いつも通り「情報、情報」と念じながら少しづつ近づくと待望の情報が出現した・・・と、思った瞬間恐らく私のその一瞬のスキを鋭く察知したロックタイガルが猛然と物凄い速度で襲い掛かってきた、当然二体同時に。


 考える前に身体が反応し、私は何故か先に右手を槍から離し、ベルトに差し込まれた投げナイフを投げる方向を見ることもせずに勘だけで投げ放ち、そのまま正面の大きな虎に向けて自らもステップインしながら槍を突き出した。


 目の前ではなく背後の方からギャン!という鳴き声が聞こえ、その次の瞬間目の前の大きな虎の大きく開けた口を私のメインの槍の穂先が貫通した。


 すぐに槍を引き抜き、泉とは反対方向に大きくサイドステップして背後を振り返った。水上歩行可能ブーツを履いていれば有利だったかもしれない。


 しかし背後にいたロックタイガルもピクリとも動かなかった。槍を構えたまま近づいてみると眉間に深々と投げナイフが刺さっており柄の部分だけが眉間から出ていた。


 どうやら今回も全く防具にダメージを負うことなく二頭ともやっつけられたようだ。それもほぼ瞬殺といってもいいくらいに。レベル差というのはこんなにも開きがあるものなのだろうか・・・だとしたらあのレベル20の謎の部屋など、今の私では全く歯が立たないだろう。


 とりあえずリュックからアイテム格納バッグを取り出して目の前にいるロックタイガルの眉間のナイフを取り出してからバッグに収納した。


 次に身体の大きい方のロックタイガルに近付いて行ったところ、驚くべき光景が目に入った。なんとロックタイガルの赤ちゃんが身体の大きなロックタイガルのおっぱいを吸っていたのだ。


 茂みの中に隠れていたのか?いや違う、地図の赤いマーカーは二つしかなかった。つまりこの赤ちゃんは母親が即死した後に生まれてきたのだ。本当に生まれたばかりのようでまだ目も開いておらず、匂いと本能でおっぱいの場所が分かったようだ。


 オギャア!とか聞こえなかったぞ、いや、気付かなかっただけか?いやいや気付かない訳がない、ってことは泣きもせずに生まれてきたのか?いや、それよりなによりどうすんだコレ?さすがに生まれたばかりの赤ちゃんを殺すのは嫌だ。


 困った・・・これは困ったぞ・・・と固まっているとタップリおっぱいを飲んだ赤ちゃんは満足したのかスゥスゥ寝てしまった。


 とりあえず母親ロックタイガルをアイテム格納バッグにしまい、ダメもとで赤ちゃんもバッグに入れようとしたが弾かれて入れられず、仕方がないのでリュックの中に入れて持ち帰ることにした。このまま置いておいたら過酷な自然の中ではすぐに死んでしまうだろう。


 駆け足で帰ると赤ちゃんを起こしてしまいそうだし、赤ちゃんの身体にも良くなさそうなので、歩いて帰ることにした。こんなことになるならザラで来れば良かった。ザラなら走っても四つ足であまり上下に大きく揺れることがないが、人間だと上下動が大きいのでリュックの中の赤ちゃんも安眠出来ないだろう。


 そんなわけで走れば3時間で帰れるのだが、徒歩なのでその倍はかかった。途中で赤ちゃんではなく人間の私が弁当を食べて食料補給が必要だった。


 まぁあまりにも早く着きすぎては、いくらなんでも二頭も倒してそんな短時間で戻ってくるのは相当おかしいと怪しまれるから、むしろ歩いて時間稼ぎをするぐらいが丁度良かったかもしれない。


 そういうわけで極めて退屈で、だけど途中で赤ちゃんが起きだしたらどうしようと少しハラハラしながら延々歩き続けて、ようやく大門が見えてきた辺りでアイテム格納バッグからロックタイガルを取り出して荷台に乗せて大門へと近づいて行った。

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