婚約パーティーの夜 6
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デミアンは、華やかに着飾った女性と楽しそうにダンスを踊っていた。
(あの人……)
どうしてか違和感を覚えて観察していると、デミアンが踊っている女性が彼の妻ではないと気が付いて愕然とする。
デミアンはレナと婚約破棄をしたあと、オルコック子爵令嬢コートニーと結婚し、子供も生まれたはずだ。それなのに、デミアンが一緒にいる女性は髪の色からしてコートニーではない。
「どうかしたのか?」
「い、いえ……」
驚いたが、デミアンのことはもうレナには関係がない。
クラウスの呼びかけにレナは首を横に振って、ぐいっとドリンクを煽った。
デミアンのことは何とも思っていないし、もう無関係なのだから、どこで姿を見ようが気にする必要はどこにもない。久しぶりに見たから、ちょっと驚いただけだ。
「もしかして、踊りたいのか?」
「ち、違います!」
父ほどではないが、レナもダンスが得意な方ではない。クラウスに恥をかかせるだけだ。第一、そばにいるだけでドキドキするのに、ダンスなんて踊ったら心臓が壊れてしまう。
「そうか。だが、踊りたくなったら遠慮なく言え。今日は無理につき合わせてしまったからな、私にできることなら、礼と言っては何だが、かなえてやる」
クラウスはそうは言うが、レナはすでに高そうなドレスやアクセサリーをもらっている。これだけで充分すぎると思う。
「閣下」
レナとクラウスがそんな話をしていると、一人の男が近づいて来た。呼ばれたクラウスが振り返り、面倒くさそうな顔になる。
「なんだ」
「陛下がお呼びです」
「用件は」
「ここではちょっと……」
男が言葉を濁すと、クラウスはこれ見よがしにため息をついた。
「どうせ伯母上から、ジョルジュのしつけがなっていないだのと、さっき泣き出したことについて責められているんだろう。その通りなのだから、自分で対応させろ」
「し、しかし、至急閣下を連れて来いと仰せでして……」
「パートナーを一人残していくわけにはいかない。断る」
クラウスがにべもなく断ると、男の視線がレナに向いた。まるでレナのせいでクラウスが動かないと言いたそうな表情に、レナはいたたまれなくなる。
「あ、あの……わたしなら一人でも大丈夫ですよ?」
「そう言うわけにはいかないだろう」
「大丈夫です。ここでじっとしていますから」
王弟で宰相と言えど、国王の命令を無視するわけにもいかないだろう。
クラウスは逡巡し、細く息を吐くと、レナの肩にポンと手を置いた。
「すまない。すぐに戻る」
「はい」
レナは使者とともに速足で会場を横切っていくクラウスの後ろ姿を見ながら、宰相も大変だなと苦笑した。







