婚約パーティーの夜 7
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案の定というかなんというか、クラウスが使者に連れられて別室に行けば、そこには国王夫妻とイザベルの姿があった。
王妃はハンカチを目に押し当てて泣いていて、ジョージル三世が妻の肩を抱いている。
一見ギョッとするような光景だが、クラウスは何ら驚かなかった。
(まあ、いつもの光景だな)
苛烈な性格をしているイザベルは、怒ると容赦がない。父エルネストも厳格で我が子にも情け容赦のない性格をしていたが、イザベルは伯母の立場だからか、父よりもなお容赦がない。おおかた、息子を甘やかしてばかりの王妃に対して、かなりきつい言葉を浴びせかけたのだろう。
(その通りなのだから同情の余地はないがな)
順当に行けばジョルジュは次の王だ。甘やかしているとろくなことにならない。それはクラウスもしつこいくらいにジョージル三世に言い続けてきたことだ。
「ああ、クラウス!」
クラウスの姿を見つけたジョージル三世が、あからさまにホッとした顔をした。
「クラウスからも伯母上に言ってくれ。ジョルジュだって、普段はきちんとしているんだと。今日は人の多いところに出て緊張の糸が切れてしまっただけなんだ」
(それはどうだろうな)
つい先日も、レナが描いた絵がほしいと我儘を言って、泣いて母親に縋って望みをかなえようとしたばかりだ。ジョージル三世の言うように「きちんとしている」のならば、そんな我儘は言わない。
レナはまだ幼い子供だと言ったが、それが通らないのが王族だ。ましてや次期王ともなれば、厳しく育てられてしかるべき。自身だって父エルネストから厳しすぎるくらい厳しく育てられてきたくせに、どうしてそれがわからないのだろう。
(厳しく育てられたからこその反動か? 私なら息子を甘やかしたりしないがな。……もし息子がいたらの話だが)
クラウスはイザベルの味方に付きたくなったが、そうすればいつまでたってもこの場はおさまらないだろう。
不本意この上ないが、今日はパーティーの日だ。そしてレナも待たせている。さっさとこの場をまとめて、レナの元に戻らなければ。
「伯母上、ひとまず今日のところは。アンリエッタもそろそろ眠くなる時間でしょう。アンリエッタと一緒にお帰りになって、この話は改めて後日ということで」
「そう言って、陛下が時間を取った試しはございませんけどね。仕事の要領がよほど悪いのか、いつも忙しいようですから」
じろりとジョージル三世を睨みつけてイザベルがチクリと言う。
仕事を理由に逃げ回っているジョージル三世がバツの悪そうな顔をした。
(そう言っても、本当に我慢ならなくなったら、伯母上はいつも問答無用で城に乗り込んでくるだろう……)
そしてクラウスもいつも巻き込まれる。
クラウスだって、イザベルと本気でやりあったら勝てる気がしない。この伯母はそれだけ性格がきついし、なおかつ頭の回転も速い。はっきり言っていいなら、ジョージル三世よりも王に向いている人だ。エルネストに玉座を譲らなければ、この国の女王になっていた人である。
本気になったときのイザベルをなだめるのは、クラウスとクラレンスの二人がかりでやっとなのだ。ちなみにジョージル三世はイザベルがものすごく苦手なので役に立たない。
「アンリエッタはどこですか?」
とにかく注意をそらそうとイザベルが可愛がっている孫娘の名前を出すと、彼女は少しだけ目元をやわらげた。
「あの子なら、父親と一緒にリシャールの部屋に行きましたよ。絵のお礼をするのだと言って」
「ああ、あれですか」
「あの子はあの絵がすごく気に入っていて、部屋に飾らせているそうです」
「イザベル様、あの絵はジョルジュが……」
王妃が震えながら口を挟むと、イザベルがキッと彼女を睨みつけた。
「描いたのはリシャールでしょう。自分で描いた絵を渡すならともかく、人から取り上げてそれを差し出して自分の手柄にするつもりですか」
「も、申し訳ございません……」
「だいたいあなたは、王妃の自覚があるのですか。前から思っていましたけれど、あなたは――」
「伯母上! 今日は、このくらいで。子供をあまり遅くまで連れ歩くのも可哀そうでしょう? アンリエッタは、まだ三歳ですから」
「……はあ、わかりました。あの子もいつもは寝ている時間ですからね」
イザベラは仕方が無さそうな顔をして、最後にもう一度ジョージル三世をひと睨みすると、そのまま部屋を出て行った。
(今日父上と母上が来ていなくて助かったな。来ていたらこんなものではすまなかったかもしれない……)
父も、おっとりしているように見える母も、教育に関しては厳しい人だ。二人ともイザベラの方の肩を持つだろう。三人相手ではとてもではないがクラウスには太刀打ちできない。
(まあいい、とりあえず戻るか……)
泣いている王妃とそれを慰めている国王の側にいる必要はどこにもない。勝手に慰め合っていればいいのだ。馬鹿馬鹿しい。
クラウスは首の後ろに手を当てて、こきこきと鳴らしながら、二人に背を向けて部屋を出て行った。







