#14 まいごのウサギの大冒険②
「オラ!さっさと歩け!」
足枷をつけられ、うまく歩けない子供たちは、男たちに乱暴に船の方まで連れていかれる。
日が暮れて足元も見えづらくなっている。
チャコは自分の姿が男の死角になった瞬間を狙い――作戦を実行する。
「よし、5、6、7……ん?一人足りねえんじゃねえか?」
「おい、あの亜人の魔術師はどこだ?」
「え?さっきまでそこに―――」
「上ですよ」
上空から、チャコの踵落としが決まる。
――まず、一人!
「なっ……てめぇ、どうやって……!」
「荒れ狂う風のマナよ!吹き飛ばせ!『ウィンド』!」
「がはっ!?」
これで二人、男たちは全員で五人以上はいたはずである。
あの魔術を無効にできる赤バンダナの男に見つかる前に、数を減らす必要がある。
チャコは奪われた装備をすぐ見つけ、杖と鞄を装備する。
「魔術師のガキが逃げた!」
「二人やられてるぞ!探せ!」
もう見つかってしまったようだ。
だがチャコは冷静に、物陰から男たちの様子を観察する。
チャコはどうやって拘束を解除したか。簡単だ。彼女は死角になった瞬間を狙い、『休止体』になったのだ。
精霊たちが共通で持つ『休止体になる』という能力は、何も傷ついた時にしか使えないものではない。
小さく、能力全体が低い休止体の体になる代わりに、マナの回復が早くなり、回復魔術の恩恵も受けやすくなる。
デメリットとして、休止体から通常体に戻るとき、マナを大量に消費してしまう。
しかしながら、もともとコスト(マナ)の安いチャコは、通常体に戻ってすぐ、魔術を発動できる程度のマナが残っていた。
小さな効果ではあるが、彼女のつけている『ランシスフラワーの髪飾り』が毎ターンコスト(マナ)を回復する効果があるのも関係している。
「狙いを定めて……荒れ狂う風のマナよ……吹き飛ばせ、『ウィンド』」
「うおおっ!?」
突然何もないところから魔法陣が現れ、海へ落とされる男。
そう、チャコの『ウィンド』は一定の範囲内であるならば、場所や角度を問わず発動することができる。
これは単純に、彼女がずっとこの『ウィンド』と『ヒール』のみを練習してきた結果だ。
もちろん、いまだにその二つしか使えないというのもあるが。
「慌てるな!あいつは俺たちが見える位置にいる!そう遠くには行ってねえ!」
赤いバンダナ――、ボスの登場により、男たちは冷静さを取り戻す。
次々に武器を手に取り、周囲を警戒する。
チャコは鞄からマナポーションを取り出して補給する。
連続での魔術使用は流石にチャコでも厳しいものがある。
「荒れ狂う風のマナよ……吹き飛ばせっ、『ウィンド』!」
「ぐっ!」
4人目――は、来ることがわかっていたのか、壁に叩きつけられてもそのまま体勢を整え、こちらに武器を投げてくる。
「わっ……バレちゃった!?」
すんでのところでかわすが、もう場所は見つかってしまった。
数えると、男は10人程度はいたようだ。4人倒してもまだ6人も残っている。
これで全員とは限らないが、流石に分が悪い。
チャコ一人で全員を相手にする必要はない。
一人を倒して、逃走ルートを確保する。逃げてクロム達と合流さえできれば、この程度の相手は敵ではない。
「荒れ狂う風のマナよ――」
「はッ!無駄だって言ってんだろォ!?この腕輪がありゃあな!魔術なんて――」
「吹き飛ばせ!『ウィンド』!でりゃあああああっ!」
「なっ……おがびッ!」
チャコは自らにウィンドの風をぶつけ、高速で自分を射出したのだ。
身体能力の高い精霊だからこそできる芸当であり、これを最初、風の修練場で命令したクロムはソーシャルゲームのやりすぎでおかしくなっているだけだ。
チャコの膝蹴りを受けた赤バンダナの男は無様に転がり、鼻血を出している。
「てめッ……動くな!」
「ッ……!」
男たちの方を見ると、子供の首にナイフが突きつけられている。
「俺たちだってここまでするつもりはなかったんだぜ……?大事な商品に傷をつけたくはね~からな。
テメェが悪いんだぜ、ちょっと魔術ができるからって調子に乗りやがって……!このッ!ザコの分際でッ!!」
「うッ……!」
赤バンダナの男は興奮した様子で、チャコを思い切り蹴り飛ばし、
何度も殴りつける。チャコはボロボロになってもなお、諦めてはいない。
その瞬間、少し体が光る。マナが戻っていくのを感じる。
「なんだ……!?新しい魔術か!?」
赤バンダナがチャコから離れて数秒、どこからかキィィンという音が聞こえる。
瞬間、爆発音。
土煙の中、男たちの悲鳴が聞こえる。
強い風が舞ったかと思うと、煙が晴れる。
「……無事だったか、チャコ」
「くろむしゃま……」
そこには、拘束が完全に解かれ、男たちから離された子供たちと、
ビアンカ、ノワール、先ほどの爆発音の原因であろう、グリーンワイバーン。
そして、そっとチャコを抱きかかえるクロムの姿があった。
「ビアンカ、チャコを回復してやってくれ」
「は~い」
ズタボロになったチャコは、「わたし、がんばりましたよ」と健気に話す。
「チャコちゃん、口も切れてるからちょっとおしゃべりしないでね……」
服も血だらけ、顔や体にもかなりひどい怪我を負っている。
もし彼女が精霊でなければ、後遺症が残るだろう酷さだ。
「……さて」
クロムが赤バンダナの男に向き直る。
「何モンだてめぇ……ドラゴンなんて、どこから連れてきやがった!」
「そんな事より―――、うちのチャコがずいぶん世話になったみたいだな」
「あ?お前そのガキの仲間かよ。ッチ……厄介なのを引いちまったか」
赤バンダナの男は冷静で、近づけば完全にやられることを理解し、じわじわと距離を取る。
自分の持つ抗魔の腕輪さえあれば、魔術は無効化できるからだ。
「その腕輪、星4の抗魔の腕輪か。いいものを持ってるな」
「う……!?」
今、クロムは初見で見ただけのはず。発動するところさえ見ていないこのアイテム、星の数までなぜわかるのか。
赤バンダナの男は背中に嫌な汗が伝った。
「そ、そうだよ……てめぇは商人かなんかか?だったらわかってる通り、俺に魔術は効かないぜ?」
少しでも自分を強く見せようと必死になる。
仲間が一瞬でやられたあの手腕。正直なところ自分では敵わないであろうことは男も理解している。
「試してみるか。ちょうどここに星3の石弾の杖があるんだ」
「はぁ?」
星4の抗魔の腕輪は、星3以下の魔術を無効化する。
石弾の杖が何かは男もよく知らないが、星3の魔術なら無効にできるはずだ。
「ハハ!やってみろよ!無駄だって知らねえのか!?」
「ちゃんと避けろよ」
クロムがそう言い、杖をかざすと、空中から拳サイズの石が出現、
赤バンダナの男に向かって飛んでいく。
「ハッ!無駄む……ごぼぇっ!?」
確かに今、抗魔の腕輪は発動し、石弾を打ち消したはずだ。
なのになぜ、自分に命中する?男は困惑し、クロムを見ることしかできない。
「ちゃんと避けろと言っただろ。もう一度行くぞ」
「ちょ、ちょっと待て……うわっおごぇっ!!」
また石弾が一発。今度は男の腹に命中する。
「ど、どうなってんだ?何が起きてるんだ?やめ、うわっ……あぎぃ!」
「説明してやるよ。お前みたいな能無しにもわかるように」
「やめ……やめてっ、うぎぁッ!」
説明をしながらも、クロムは石弾を連発する。
抗魔の腕輪は確かに石弾を打ち消しているようにも見えるが、必ず一発が命中する。
「抗魔の腕輪、星4の場合は同一ターンの連続攻撃の場合、『4回まで』魔術属性攻撃を打ち消すことができる。
この石弾の杖は、『1ターンに5回』1スキル分の攻撃として石弾を打ち出すんだよ。
つまり、レア度で上回っているが、一回の打ち消し許容量を超えているため、足が出た一回分の石弾は必ず命中するってことだ」
「いだいっ!いだいっ!やめ、やめてください!」
もう彼は抗魔の腕輪を発動する余裕すらない。
ひたすら5回ずつ石をぶつけられ、両手両足の骨をバキバキにされ、体のあらゆるところから血を流している。
「じぬっ、やめでっ、ごめっ、おぎぶっ、し、死んじゃうっ」
「ああ!?お前はチャコがやめてって言った時やめたか!?ああ!?」
「ごべっ、あべぶっ、ぴぎっ!」
丸くなって身を守る男を蹴り飛ばし、腹に5連発で石弾を撃ち込むクロム。
「く、クロム様!?そ、その辺にしておきましょう!?ほら!チャコは元気ですよ!」
「お~今日も元気でかわいいなあ!よしよし!」
「えへへ」
その様子を見て、ドン引きするビアンカとノワール。
「こっわ……」
「彼を怒らせる前に仲間になってよかったね……」
「ぎゃう……」
人間が恐れる最強種たるドラゴンの一種である、グリーンワイバーンさえも、
クロムを前にしてちょっとビビっていた。
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