#12 チャコVSノワール
「宵闇の森の調査は少し待ってほしい……?」
「ええ、ちょっとやることがあって……」
ついに念願の3凸を果たしたチャコ。しかしながらクロムはまだ宵闇の森には行けないという。
「そりゃあ何故だ?お前さんの精霊がまだ弱いというのはわかるが……儂のエメラルドは宵闇の森の魔物くらいにやられることはないぞ?」
「本当ですか?」
「……ん?何か知っているのか?」
「いや……俺もはっきりと知っている訳じゃあないんです。あくまで予測の範疇を過ぎない。最終をしていないチャコでは……、まだ不安が」
「はっはっは。心配性だな。わかった、宵闇の森の調査は儂と衛兵で行く事にする。ちょっと近くの町まで飛んで、戦力を数人集めるとするか」
「あっ……」
バルザはそういうと、休止体のエメラルドスフィアドラゴンを通常状態にさせ、はるか上空へと飛び去って行く。
「そういうレベルの話じゃあないんだがな……」
「クロム様、私はもう強くなったので、いけますよ?」
「いや、今のレベルだと普通に秒殺だけど……」
「秒殺!?」
「予想通りの相手なら5分持てばいい方かなあ」
「5分!?」
およよ……とへたりこむチャコの向こう側に、黒い耳と白い耳。
「ビアンカ、ノワール」
「やっほぉ」
「あの怖い龍の人は、もういないのかい?」
「ああ、ほかの町を回ってくるって。良かったよ。二人とも捕まってなくて」
「あの時キミがかばってくれたおかげだね~~」
すりすりとクロムにすり寄るビアンカに、負けじとクロムにくっつくチャコ、普通に外で目立つのでやめてほしいと感じていた。
「そうだノワール、ちょっと頼みがあるんだけど……」
「なんだい?僕にできる事でよければなんでも言ってくれ」
「ちょっとチャコに戦闘を教えてほしいんだ」
「ほほー、この子に……?でも実戦で僕は一度負けてるよ?」
「あれはもうまぐれみたいなもんだから……」
「まぐれだったんですか!?」
チャコ的には輝かしい勝利シリーズの一つに入っていたらしい。
実際のところダメージの9割は反逆の天秤だし、一撃でもスキルをまともに食らえば即死だったので勝ちどころかボロ負けに近い事は、クロムは黙っておいてあげようと思った。
4人は人気のないところに移動し、ノワールとチャコが軽く戦う運びとなった。
「まずは剣を……」
「あっノワール、鞘だけでたのめないか?」
「鞘だけで!?流石にそれは舐めすぎていないかい!?」
「たぶんちょうどいいから……」
「もー!クロム様!?私は全然いけますよ!?」
「お前の事を心配して言っているんだが………」
「準備はいいかい?チャコちゃん、それじゃあ……いくよッ!」
ヒュ、という音が一瞬したかと思うと、ノワールの姿が消える。
彼女のスキル『エトワール・ステップ』によって素早さが上昇したのだ。
もちろん、このバフは素早さだけではない。攻撃、防御、回避性能など、様々な能力を一気に上げる汎用バフで、
対象が自身のみという点を除けば、リレファンでも上位の恩恵を受けられるスキルだ。
「荒れ狂う風のマナよ……ぷぎゃう!?」
ぺしっ、と軽くノワールが鞘ではたくと、チャコは2m近く吹っ飛び、無様に地面に転がる。
「きゅう……」と言いながら目をくるくる回している。
「……え、ぼ、僕、これに負けたの?」
全力で手加減をしてなおワンパンで倒してしまい、困惑するノワール。
彼女の中でクロムの評価が爆上がりした瞬間である。
「大丈夫か、チャコ」
クロムは回復薬、マナポーションを持ってチャコに駆け寄る。
チャコは「ぐろむざま……」と泣きべそをかきながら回復薬を受け取る。
「及第点……だな!」
「甘くないかい!?」
「まあ実際のところ、星4つの差をそう簡単に覆せる訳じゃないからなあ……」
回復したチャコは、耳をへたらせてしょんぼりとしている。
「クロム様……やっぱり私は、役立たず……なのでしょうか?」
「そんなことはないって何度も……」
「しょ、正直にお願いします!今のまま、宵闇の森へ行って、私はどれくらいお役に立てますか!?」
「今のまま……?」
クロムはふと考え込み――、チャコの方へ向き直る。
「ほぼ、役に立てる事はないだろうな。正直な話……今のままなら、ほかの魔術師でもいくらでも変わりが効くだろう」
「はうっ……!」
わかっていた事とは言え、チャコはかなりショックを受ける。
確かに自分が役立たずで、最弱の星1というのは今更な話だ。
それでも、そんな自分でも役に立てると思っていたが――、結局、星1は星1のまま、3凸したところで、新たなスキルを覚えるわけではない。
「……私、先に宿に戻っていますね」
「ああ、俺も少し買い物をしたら戻る」
チャコはそのまま、宿の方へ歩いていく。
「いいの?止めなくて」
「……チャコにも考える時間が必要だろう。あいつが本当に強くなるためには……、時間と、心の成長が必要なんだ」
「それもあるけど、一人で行かせて大丈夫なのかい?ほらゴロツキとかに絡まれたら」
「えっ!?流石にあいつは精霊だぞ……?ノワールのが強さが異常なだけで、
一般的なゴロツキじゃあ精霊に勝てないって、流石に」
「そうかなあ……」
ノワールは心配そうにチャコが去った方向を見る。
「そういえば――」
「どうした?」
「時間があれば、とか……成長すれば、ってさっきから言ってるけど、チャコちゃんが貴方の言った通り、『最終解放』?だっけ?までできれば、どれくらい強くなるの?」
「最終解放……というより、俺の考えている条件が揃えばだが……」
「うん」
「少なくとも―――バルザとサシで戦って、一方的に勝てるくらいには強くなるだろうよ」
ビアンカとノワールは目を開き、声にならない程の驚きの表情を見せていた。
* * *
一方のチャコはというと、自分のポテンシャルの事などつゆ知らず、とぼとぼと宿への道を歩いていた。
「はあ……」
彼女はこれまでの旅路で、クロムの活躍を何度も見てきた。
星1レベル1精霊1体でアーミーホーネットから逃げおおせた機転、
格上のアース・タイガーを倒した戦略、不治の病のエメリアを精霊と見抜き、治してしまった知識、
星5の黒猫騎士・ノワールにさえ一矢報いる判断力、
”烈風騎士”に目をかけられる程の素養。
そして世界に呼ばれて異世界から現れた――、と、ここまでくれば、彼が選ばれし人間なのはわかりきった事であろう。
そんな人間の隣に、自分のような平凡な星1がいてよいものか。
今日戦って改めて理解する。自分よりもビアンカやノワールが契約精霊になった方が、彼の役に立てるのではないだろうか。
はぐれ精霊との契約をどうやるかは知らないが、今の契約を解除すれば、次の精霊召喚でクロムはまた、確定で別の精霊を呼ぶことができる。
精霊結晶を集められるなら、パートナーは自分でなくても良いのではないだろうか。
嫌な思考がぐるぐると回る。元々根は明るかったはずなのに、
長かった精霊生活のせいでどんどんネガティブになっているようだ。
チャコは、気が付いたら宿とは別方向の、全く違う道を歩いていた。
「あ、あれ……?ここ、どこ?」
知らない道。そう、彼女は……迷子になってしまったのだ。
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