第29話 打ち明けた結果
夜遅くにお邪魔するのは迷惑だし、止めておこうって思ってたけど、行って良かったな。
まさかシュヴァリエさんも俺と同じで、デイル長老が人喰い鬼だって思ってたとはな。
俺だけじゃなくて本当に良かった。
問題は、どうやってデイル長老が人喰い鬼だっていう証拠を集めるかだな。
襲われたウィンディーに聞くのが一番だけど、デイル長老が鬼の姿になって襲ってたなら彼女が知るはずもない。
それに、またその時の恐怖を掘り起こして怖い思いをさせたくないしな。何より、ウィンディーが可哀想すぎる。
シュヴァリエさんも、右肩を負傷したデイル長老を見るまでは人喰い鬼の正体に見当もつかなかったみたいだし、ウィンディーを助けに行った時点では分かっていないだろうな。
となると……。
やっぱり、デイル長老が鬼の姿になって何かするまで待ってるしかないのか……?
いや、そんなのまた犠牲が増えるだけじゃないか。
でも他に何か方法があるか?
ヒルス村長も人喰い鬼の存在を知っていただけで、その正体までは知らないだろうし、それを聞かされただけのフロラだってもっと知るはずもない。
リッターさんはリッターさんで、全く気付いていなかったみたいだしな……。
フロラと一緒に俺を助けに来てくれたぐらいだし、戦闘能力は強いんだよな? そういうところは抜けてるというか、ちょっとネジが取れてるのかな。
シュヴァリエさんが動いてくれるか?
いや、人任せにしてじっと待ってるわけにはいかない。
やっぱり、デイル長老が鬼の姿になって行動を起こすまでは余計に動かない方が良いな……。
何も出来ないで相手が動くのを待ってるだけっていうのは、ちょっとどうなんだって思うけど仕方ない。これ以外に方法が思い付かないんだから。
「___ン?」
本当はデイル長老に直接聞きに行って、真偽を確かめるのが一番手っ取り早いけど___。
「___ノン!」
問い詰めた瞬間に、村人全員を人質に取られたら、俺達は何も動けない。
それに、あの鬼王ドラコスみたいにものすごく大きくなれたりしたら、それこそ対処できなくなる。
皆を人質にされるどころか、村全体が滅ぼされる……。
「レノン!!」
「あっ、えっ?」
名前を呼ばれて慌てて顔を上げると、視界に飛び込んできたのは怒った顔のフロラだった。
「もう! ちゃんと話聞いてた!?」
「えっと……何の話してたっけ……?」
「えっ、覚えてないの!? あたしの誕生日の当日に何も出来なかったからって、誕生日記念にデートに行こうって。レノンの方から言ってくれたんじゃん!」
「あっ、そうだ。うん、ごめん。あはははは……」
俺、いつの間にそんなこと言ってたんだ?
そしてフロラはいつの間に俺の家に来てたんだ?
まぁ、良いか。とりあえずこの話は一旦お預けだ。
今はフロラの誕生日記念デートの話を終わらせよう。
「もう! レノンの馬鹿ちん!」
「ご、ごめんって……」
「何か考え事? 悩んでるならあたしが話聞くけど」
フロラは急に心配そうな顔をして、俺の隣に腰掛ける。
「いや、そんなんじゃ______」
「嘘だ」
ぷくっと頬を膨らませたフロラが、顔を至近距離まで近付けてきて、
「レノン、何か考えてる時周りが見えなくなるんだもん。あたしの目は誤魔化せないよ!」
「ご、ごめん……」
「謝った! 謝ったわね! ってことは、何か悩んでるんでしょ? 吐きなさい!」
勝ち誇ったように声をあげながら、フロラは何故か興奮気味だ。
「わ、分かったよ……」
これ以上しらばっくれても仕方がないので、俺は正直に悩みを打ち明けることにした。
「あのさ、フロラはどう思う?」
「え? 何が?」
フロラはきょとんと首を傾げて尋ねてくる。
「その……ウィンディーを襲った人喰い鬼の正体」
「正体って……人喰い鬼は人喰い鬼でしょ? 正体も何も……」
「俺には心当たりがあるんだ。いや、俺だけじゃない。シュヴァリエさんにも」
「シュヴァリエさんにも……。ねぇ、レノン、その人喰い鬼の正体って一体誰なの?」
「怒らないか? フロラ」
「えっ、どういうこと?」
「俺が人喰い鬼の正体を言っても」
フロラは顎に指を当てて天井を仰ぎ、
「うーんと、よっぽどのことがない限りは怒らないわよ?」
「まだ確証はないし、具体的な証拠も集まってない。完全に俺とシュヴァリエさんの憶測が揃ったってだけのことなんだけど……」
「それでも良いじゃん。教えてよ。何か手がかりになるかもしれないでしょ?」
フロラがせがむように身を乗り出してくる。
俺は思い切って口を開いた。
「……デイル、さん」
「……え?」
「デイル長老だと思ってるんだ。俺とシュヴァリエさんは」
暫くの間、沈黙が落とされた。
「何言ってるの? レノン。そんなわけないじゃん。長老さんは紛れもなく人間でしょ?」
信じられないのか信じたくないのか、曖昧な笑顔を浮かべるフロラ。
「デイルさんがウィンディーの家に駆け込んできた時、どこを怪我してたか覚えてるか?」
「えっと……肩、だった気がする」
「シュヴァリエさんは、ウィンディーを助けるために鬼の左肩に斬りかかったんだ」
「う、うん、それはあたしも聞いてた」
何度も頷くフロラに、俺は再度質問を投げかける。
「……おかしいと思わないか?」
「でも確か、長老さんがお父様に包帯を巻いてもらってたのは右肩だったはずよ? 鬼が斬りかかられたはずの左肩とは、怪我の部位が真反対じゃない」
「デイルさんは、鬼に爪で引っかかれたって言ってただろ?」
俺の問いかけに、フロラは無言で頷く。
「フロラが俺を助けに来てくれた時、あの鬼達がちょっとでも爪を伸ばしたか?」
「う、ううん。剣とか銃とか、向けてきたのは武器だったよ」
「だろ? 俺を殴る時もそうだった。爪じゃなくて普通に拳で殴ってきたんだ」
「つ、つまり……?」
フロラの表情がだんだんと青ざめていく。
「あいつらは人喰い鬼じゃない。人を喰わないもう一つの種族なんだよ、おそらく。つまり爪を攻撃手段として用いない。ラルヴァ達とどんな風に戦ったかは、フロラがヒルス村長とデイル長老に報告してくれただろ?」
「う、うん」
「だからデイル長老も、間接的に人を喰わない鬼達が爪を使わないことは知ってたはずなんだ」
「じゃ、じゃあ、人喰い鬼達は爪を攻撃手段として用いてるから……」
フロラの言葉を引き継いで、俺は結論を口にした。
「ウィンディーを襲ったのは鬼だ。でもあの屋敷に居るラルヴァ達じゃない。ということは、ウィンディーを襲ったのは人喰い鬼で、その正体は『鬼が爪を伸ばす』ことを知っていたデイル長老以外あり得ないんだよ」
「嘘……!」
フロラが口を両手で覆い、息を呑んだ。
その後で、俺は自身なく付け加える。
「証拠もないし、具体的な証言があるわけじゃないから、勝手に決めつけてるだけの状態だけど。そのうち、ちゃんと証拠も掴むか______」
「嘘だよ! そんなわけない!」
「ふ、フロラ⁉︎」
突然叫んだフロラに、俺は驚きを隠せない。ついさっきまで、俺の言い分を信じてくれていたのに。
「あたしは信じないから! あたし達の村の長老が実は鬼だったなら、何で今まで村の人達を食べなかったの? おかしいじゃん!」
「そ、それは……」
確かにそうだ。仮にデイルさんが人喰い鬼だったとしても、彼には人を喰ったという前科が存在しない。無論、何者かに襲われた、などという報告もされていない。
「勝手にデイル長老のこと鬼だって決めつけるなんて……最低! レノンの馬鹿!」
「あっ、ちょっとフロラ!」
フロラは勢いよく俺のベッドから立ち上がり、床を踏みしめて家から出ていく。
俺が立ち上がって手を伸ばし、彼女を追いかけようとするが、
「ついてこないで! さようなら!」
怒りのこもった鋭い瞳で睨みつけられ、俺はその場に硬直してしまった。




