第28話 人喰い鬼の正体
フロラやウィンディー、全員が寝静まった頃。
俺は、リッターさんとシュヴァリエさんが泊まっている家に向かった。
「あの、リッターさん、シュヴァリエさん」
ドアを数回ノックし、なるべく小さな声で呼びかける。
一応今は夜だし、もし二人が寝ていたら起こしてしまうことになる。
そんな迷惑なことはしたくない。
「レノンくん?」
「どうかしましたか、こんな夜更けに」
だが、俺の心配は杞憂に終わった。
二人はまだ起きていたのだ。
「夜分にすみません。どうしてもお二人に話したいことがあって」
「そうか、入ってきて」
ドアの向こうからリッターさんに許可をもらい、俺はドアを開けて家の中へ。
「お邪魔します」
「それで、話って?」
リッターさんとシュヴァリエさんは二人とも寝巻きに着替えていて、そんな二人の姿を見るのは初めてでとても新鮮だった。
リッターさんに促され、俺は用件を口にする。
「俺、今朝ウィンディーを襲った鬼の正体が分かったかもしれません」
「えっ!? それは、本当かい!?」
俺が言うと、リッターさんは目を見張って驚いた。
頷いた俺に、今度はシュヴァリエさんが声をかけてくる。
「一つ聞きたいことがあります。レノン」
「は、はい」
彼女の真剣な表情に、俺は何も悪いことをしていないのに気圧される。
「鬼に捕らわれている間、奴らが回復魔法を使ったところを目にしましたか?」
「い、いえ、見てません。あいつらが怪我をするようなことがなかったので。もしかしたら、怪我をした時には使っているかもしれませんけど……」
少なくとも、俺を介抱してくれたビアンカさんは、魔法を使ったようには思えなかったけどな……。
「では、鬼達は頻繁に魔法を使ってきましたか? 例えば、攻撃魔法など」
「い、いえ、基本的には肉弾戦でした。俺を見つけた時も殴りかかってきましたし」
あの時のラルヴァの平手打ち、本当に痛かったな……。
「そうですか……。騎士団長、私も分かりました」
「えっ、えっ、シュヴァリエまで……?」
ハッキリと言い放つシュヴァリエさんに、リッターさんはさらに驚く。驚きを通り越して、いくらか困惑しているようにすら見える。
「人喰い鬼の正体は___」
俺は大きく息を吸って、その続きを口にした。
「「デイル長老だと思います」」
俺とシュヴァリエさんの声が重なる。
「えっ……!」
「あ、やはり同じ意見でしたか」
お互いに顔を見合わせて、少しだけ驚く俺と想像通りらしいシュヴァリエさん。
「えっ!? 嘘だろ!? ……何で?」
そのそばで、リッターさんだけが俺達を見比べて困惑していた。
「逆に何で気付かないんですか、騎士団長。……鈍感」
シュヴァリエさんの毒舌に喉を詰まらせつつ、リッターさんは負けじと尋ねてくる。
「じゃあ、何で二人は気付いたんだい?」
シュヴァリエさんが『先に話して良いよ』と言うように俺を見てきたので、俺は先に口を開いてその理由を話した。
「ラルヴァ___鬼は普通に俺のことを殴ってきました。爪で引っ掻いたりしなかったんですよ」
デイル長老は、鬼に右肩を爪で引っ掻かれたと言っていた。
けど、俺が会った鬼達は爪なんて攻撃手段として使っていなかった。
ラルヴァもオグルもオグレスも。皆、剣や銃など何かしらの武器を持っていたくらいなんだから。
俺の言葉を引き継いで、シュヴァリエさんも口を開く。
「それに、私が斬りかかったのは鬼の左肩あたり。長老は右肩に包帯を巻いていました。……偶然だと思いますか?」
「……うん」
「馬鹿ですか」
「何で!? っていうか、騎士団長に向かってその言葉遣いはないだろう! 僕はあんまり騎士団長だからって偉そうにしたくないけど!」
リッターさんが、もはや泣きそうになりながら声を上げる。
「申し訳ありません。口が滑りました。騎士団長があまりにも鈍感なもので、つい。それと夜なので大声を出すのはやめてください」
律儀に頭を下げつつ、注意をするのも忘れないシュヴァリエさん。
「僕も自分でそう思ったよ。ごめん、気を付ける」
リッターさんは素直に謝ってから、
「でも、普通は気付かないんじゃないのかい? 気付けた君達がすごいと思うよ」
その言葉に、シュヴァリエさんは呆れたように息を吐く。
「レノンは鬼達の屋敷に捕らわれていましたから、本物の鬼との違いに違和感を覚えるのは当然です。ですが、あの屋敷に行っていない私が気付いて、少しでも鬼と剣を交えた騎士団長が気付かない、というのはおかしくありませんか?」
「……た、確かに。ごめんなさい」
またも素直に頭を下げるリッターさん。
「まぁ、それは良いです。騎士団長、信じてくれますか?」
「えっ、何を?」
「だから馬鹿なんですか。人喰い鬼の正体があの長老かもしれないってことをです!」
リッターさんがあまりにも話のテンポを崩してくるので、そろそろシュヴァリエさんの堪忍袋の緒が切れそうだ。
「あっ、いや……信じると言うか信じないと言うか……」
「はっきりしてください。……優柔不断」
「いつもに増して当たりがキツくない? シュヴァリエ」
「そのようなことはありません」
平然と否定するシュヴァリエさんに肩をすくめつつ、リッターさんは俺と彼女を見回して、
「まぁ、でもレノンくんだけじゃなくてシュヴァリエまで、その可能性に行き着いてるんだ。あり得ないことはないね」
「リッターさん……!」
俺は嬉しくなった。
真面目なリッターさんのことだから、自分の目でしっかりと見るまでは信じてくれないと思っていたのだ。
「それで、どうしますか? 私達と言えど、まだ百パーセントの確証はありません。どうやって真偽を確かめるか……そこが問題になってきます」
「そうだね……」
シュヴァリエさんの言葉に、リッターさんは考え込むように顎に手をやる。
直接問いつめるか?
いや、でもそれで惚けられたら終わりだ。
何せ、俺達には証拠がない。証拠もないのに問いつめても、圧倒的に不利になるのは俺達の方だ。
三人同時に考えても、候補となる案すら思い浮かばない。
すると、それを見かねたシュヴァリエさんが小さく手を叩いた。
「もう夜も更けています。あまり夜更かしをすると体に毒です。ひとまずここは解散にして、各自で考えてはいかがでしょう」
「確かにそうだね。それが良いよ、シュヴァリエ」
シュヴァリエさんに賛同しつつ、リッターさんは俺を見つめて言った。
「レノンくんも自分の家に戻って今日はお休み。また各自で考えよう」
「分かりました。では、俺は失礼します。夜分にすみませんでした」
そう言って、俺は二人が寝泊まりしている家を後にした。




