第93話 ソフウィンドと自由気ままな仲間達
「はぁ…」
俺は溜息を吐いた。
ベルは急に倒れたと思えば、いつの間にか起き上がって、また倒れているし、ビリアはコランにつきっきりだ。
積極的なリビアと無抵抗なコランを二人きりにするのは危険なので、こうやって俺がストッパー役を買って出ている訳だが…。
全く身動きが取れない。
ここ数日で、リリーの件がどれだけ進展しているのかも分からない。
ついでに言えば、年少組の男女リーダー格が急にいなくなったせいで、皆、戸惑っていると聞いている。
この状況を打破するには…。
まずはビリアを追い出す。
ただ、「ごめんなさい。ごめんさない」と牢の隅で呟き続けているコランを一人きりにはできない。
かと言って、男の俺と二人きりと言うのも、それはそれで問題があるだろう。
年少組の女子に、この姿のコランを見せるのは、精神的負担が大きい気もする。
そうなると、頼める相手はソムニさんしかいないだろう。
ビリア達に気づかれないよう、俺は、スッと、地下牢から抜け出す。
俺がいないと知れば、ビリアが何をしだすか分からないからだ。
いや、分かるには分かる。
きっと、発情期の獣のように単純な思考だ。
それはそうと、急いでソムニさんを探す。
今の時間なら食堂にいるはずだ。
「ソムニさん」
予想通り、食堂で料理の下ごしらえをしていたソムニさんに俺は声を掛けた。
「あぁ、ソフウィンドか。何だい？」
ソムニさんは手を止め、振り返る。
「実は相談があって…」
俺は今起こっている問題と、ソムニさんに協力してほしい案件を話した。
しっかりと理解してもらえるように、予め整理しておいた内容は、口からスラスラと出てくる。
その為、話がつくまでにそれほど時間はかからなかった。
「そうかい…。分かったよ。料理ができたら持っていくから、それまでまってな」
如何やらソムニさんは料理ができ次第、俺と監視役を交代してくれるようだった。
俺は胸を撫で下ろすと、急いで地下牢に戻る。
コランが心配だったからだ。
地下牢に着けば、コランの服に手をかけているビリアと目が合う。
俺が視線で威圧すると、ビリアは舌打ちをして、その手を離した。
間一髪だった…。
全く、油断も隙も無い。
話を素早くつけてきて、正解だった。
余談なのだが、相手と話をする時、焦っていると、矢継ぎ早で、めちゃくちゃな内容になってしまう。
そうなると相手が理解できず、自分でも何を言っているのか分からなくなって、余計に時間がかかってしまうのだ。
なので、俺はいつも予め、話す内容を整理するよう心掛けている。
その辺り、皆も心がければ、もっと会話がスムーズに進むのだが…。
そんな事を考えていると、料理を持ったソムニさんが姿を現した。
俺が軽く会釈をすると、ソムニさんは笑顔で返した。
「さて！ビリア！付き添い役は交代だよ！」
そう言いながら、牢の中に入って行くソムニさん。
ビリアは突然の事態に「えぇ？！」と驚いた様に声を上げる。
迫力満点で近づくソムニさん。
直ぐに表情を切り替えたビリアは「嫌です！」とコランに抱き着く。
しかし、ソムニさんの前では力ずくと言う言葉は通じない。
なんせ、彼女こそが最強なのだから。
ビリアはソムニさんにひょいッと持ち上げられると、牢の外に投げ捨てられた。
「アンタはとっとと食事を済ませてきな！それと、チビ共が心配してるから、皆に顔を見せてきておやり！」
ビリアは牢の外から、恨めしそうにソムニさんを睨む。
「それと…あんた。臭うよ」
ソムニさんは、そんな視線を気にも留めず、顔を顰めて言い放った。
そればかりは流石のビリアも無視できず、自分の脇をスンスンと嗅ぐ。
そうして、少し悩んだ後に地下牢を出て行った。
…多分、自分が思っていた以上に臭ったのだろう。
「今日はもう来なくて良いよ。もし来るなら、明日以降に来な」
ビリアが出て行った方向を眺めていた俺はソムニさんの方へ振り返る。
彼女はもう俺を見ていない。
唯、優しく、コランの頭を撫でていた。
「ありがとうございます」
俺はそう言い残し、地下牢を出た。
この時間なら、奴はあそこにいるはずだ。
数日振りの日光が目に染みる。
俺は迷う事無く足を進めると、目的地へと急いだ。
