第6話 メグルと食いしん坊な彼女
「「ごちそうさまでした」」
僕とマロウさんは肉を食べ終え、火を始末しながら軽く一息つく。
「やはり焼いたお肉は美味しいですね。生の肉とは天地の差ですよ」
マロウさんが満足そうに呟く。
それを見ているだけで僕も幸せな気分になった。
「本当は調味料や他の食材も欲しいのですけどね。そうすればもっと美味しくなりますよ。特に肉は焼くとビタミン…栄養が減るのでちゃんと野菜も食べないといけないですし…」
マロウさんは少し難しい顔をして黙りこんだ。
しかし、すぐに諦めたような顔をして「そうなのですか」と呟く。
僕の言ったことを理解しようとしてくれたのだろうが、難しかったようだ。
何かを考えているように顔を俯けていたマロウさんだが、暫くすると腰を上げ、服に付いた泥を軽く払った。
その光景を見た僕が丸太でベンチでも作ろうかなと思っていると、マロウさんが洞窟の中から大きな亀の甲羅を左腕に担いでもって現れる。
甲羅の大きさは横幅1m深さ50cmほどで、この辺りに住む陸亀のものだった。普段はこの甲羅に水をためて持ち運んでいる。
勿論僕では水が入っていなくても持ち上げることができないので、マロウさんの専用品だが。
僕は僕で植物を編んだ籠に食器や服などを詰めていく。
この編み籠も僕が作った物で、素材には木の皮が使われている。
良くしなる上に、水辺の木なので乾燥や水気での伸縮が少ない事、カビや腐食に強い面が長所だ。
他にも火をつける道具や、今日残った肉。数日前から干していた木の実など、料理に使うものを持っていく。
「さて、いきましょうか」
僕の準備が終わるのを見計らってマロウさんが声を掛けてくる。
僕は「はい」と答えると、最後に僕の背中にぴったりと合う、小さな亀の甲羅を背負って立ち上がった。
森の中は日の当たる洞窟前よりもひんやりとしていた。足元に茂る草からは歩くたびに朝露が零れ、僕のズボンを濡らしていく。
今までずっと使っていた道だと言こともあって、獣道のように草がよけている。
しかし、横から伸びてくる葉は止められないし、ぬかるんだ腐葉土のせいでやはり歩きにくい。
いっそ木の板でも引いて道を作ってしまいたくなる。
「重たいですか?」
僕の重い足取りに気づいたのか、マロウさんが振り返り声を掛けてくる。
「大丈夫ですよ。それにこれぐらいで疲れていてはいつまで経ってもマロウさん離れできないですしね」
僕がマロウさん離れできないと言うよりは、心配性なマロウさんが僕から目を離したくないと言った感じではあるが…。
それなりに認めてもらえれば本当の意味での自由行動ができるようになるだろう。
素材を集めたり、生物の観察や道具の実験をしたり、マロウさんに教えてもらった村にも行ってみたい…。
一人でやりたい事は山積みだ。
そのまま獣道を通ってしばらく歩くと急に開けた場所に出た。
足元は腐葉土から丸っこい小石にかわり、目の前には幅10m程の川が横たわっている。
川が蛇行する辺りでは砂利が深く削られていた。
その窪の中では日光を反射して、時折光る魚の姿が見える。
とても綺麗だった。
僕は荷物を下ろし、比較的水の流れが遅い浅場で洗い物を済ませていく。
洗った食器や衣服は日の当たる大きな岩の上や木の枝に引っ掛ける。
食器も衣類も洗うなら洗剤が欲しい…。
しかし、灰と動物油脂で作った石鹸は匂いがひどく使う気にはなれなかった。
あんなもので服を洗った日には鼻の良い兄弟たちから距離を置かれてしまう。
それにマロウさんも「すごいですねー」と言いながらも珍しく目線を合わせてくれなかったし…。
現在マロウさんには火の準備をしてもらっている。
河原には渇いた木材や植物の塊がそのままになって転がっているのですぐに集まるだろう。
少ない洗い物を終えた僕もそこに加わり、五徳の要領で石を並べていく。
丁度そこにマロウさんが燃料を持ち帰ってくれたので、火をつける。
僕は火が良い調子になると、背負ってきた小さい亀の甲羅を五徳の上にかけた。
この甲羅は僕が鍋用に改造した為、内側の突起がなく、料理がしやすいようになっている。
今回が初使用なのでマロウさんも興味津々《きょうみしんしん》のようだった。
まずは油が多い肉を火にかけていく。
熱しても割れない程丈夫で、熱伝導の良い甲羅。
しかし、鉄ではないし、分厚い分、余計に熱が通りにくい。
その為、最初に油の多い肉を入れると、ゆっくりと油を溶かしだしてくれるのだ。これは検証済み。
良い感じに油が溶けたら他の肉も投入して一通り焼けたら一旦、肉たちを葉の皿に移す。
そして火の中に骨を放りつつ、お手製の革袋に水を入れ、甲羅の中に注いだ。
後は先ほど焼いた肉と火にかけた骨を甲羅の中に投入していく。
最後に大きな葉で蓋をしたら、少し火を弱めて準備完了だ。
「それじゃあ、昨日仕掛けた罠でも見に行きましょうか」
僕が声を掛けると、鍋を見つめていたマロウさんは「えぇ」と答え立ち上がり、僕の後についてくる。
それでも鍋が気になるのか何度か鍋の方を振り返っているマロウさんは少し可愛らしかった。




