↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/130

第5話 メグルと大人で子どもな彼女

「お疲れ様」


 マロウさんが濡《ぬ》らしたタオルを差し出しながら、僕を労《ねぎら》ってくれる。


 僕は「ありがとうございます」と言ってそのタオルを受け取ると遠慮《えんりょ》なく汗《あせ》を拭《ぬぐ》った。


 タオルと言ってもマロウさんが着れなくなったぼろ布を裁断《さいだん》したものらしいのだが…。

 それで顔を拭《ふ》くとマロウさんの香《かお》りがして、少し恥《は》ずかしくなる。


 汗を拭き終わった僕は串《くし》代わりに使っている植物の棘《とげ》に肉を突き刺していく。

 その間にマロウさんが渇《かわ》いた植物などを集めて火を起こす準備をしてくれた。


 まだ出会って数週間ほどだが既《すで》に息がぴったりである。

 と言うよりはマロウさんがこちらに合わせて動いてくれているのだが…。

 それでも無言で意思疎通《いしそつう》ができるという事がどことなく嬉しかった。


 串を並べ終えた僕は木の板、棒、丈夫《じょうぶ》な蔓《つる》で作った自作の火おこし道具を持ち出す。


 ”記憶”を頼りに作った物なので出来が悪く、十数回の使用で既にボロボロになってしまっているが、今日明日までならまだ持つだろう。

 今度は風除《かぜよ》けを付けるのと、棒の中心がずれるのをどうにかしていきたい。


 何とか種火をつけ終え、マロウさんの集めた可燃材《かねんざい》に火を移していく。

 これがなかなかに難しいのだが今回は上手くいった。


 僕が慣れてきたのもあるだろうが、やはり乾燥《かんそう》させた植物繊維《しょくぶつせんい》へと着火剤《ちゃっかざい》を変えたのが良かったらしい。

 分かってはいたのだが乾燥に時間がかかるため、初めの内は用意できなかったのだ。

 これからもこの調子で点いてもらえるとありがたい。

 火が点くまでの数分間、マロウさんの無言の視線が気になって仕方ないのだ。


 火が本格的に燃え始めると用意した串を地面に突き刺して並べていく。後は焼けるのを待つだけだ。


 もう日は完全に上がっている。9時前後だろうか。

 これから水汲《みずく》みと洗い物の為《ため》に川に行って、僕の仕事は終了だ。


 川までは片道20分程度なので、少ない洗い物と、汲んだ水を担《かつ》ぐ帰路の事を考えても、12時には帰ってこれるだろう。


 その後は自由時間なのだがマロウさんの目の届く範囲でないと彼女が心配するため、洞窟付近で今日も道具作りが妥当《だとう》な選択肢《せんたくし》だろう。


 今日あたり初めの内に作った蝋の試作品《しさくひん》を試《ため》してみるのも良いかもしれない。

 ”記憶”に頼《たよ》った品《しな》なので出来上《できあ》がりが楽しみだ。


 「火は良いですね…」


 マロウさんがポツリとこぼした一言で思考《しこう》が中断される。

 彼女に視線を合わせると、その場にしゃがんで右腕で頬杖《ほおづえ》をつきながら愛《いと》おしそうに火を見つめていた。


 「森は天日《てんび》の刻《こく》をすぎるまで薄《うす》ら寒いですからね…。」


 こちらは汗を流していた為そうでもないが、じっとしていたマロウさんには寒かったのだろう。


 僕も寝起きは兄弟たちの温もりが恋しくなる事がある。

 これからどんどんと夏に向かっていくので早期《そうき》の対策はいらないだろうが、春半《はるなか》ばの現在でこの気温だと思うと、冬場は考えたくもない。


 「今は中々燃え尽《つ》きない燃料《ねんりょう》を作っているので、成功すれば冬場でも暖《だん》を取れるようになりそうですよ」


 僕はそう言いながら、少し強すぎる火に水分の残った大きめの枝《えだ》を足《た》していく。

 火力の調整《ちょうせつ》が難しいのも問題点の一つかもしれない。


 「それはまた便利になりそうですね。私はメグルが来るまで生肉をそのまま食べていましたし、冬場は洞窟の奥で穴をふさいで暖かくなるのを待つだけでしたから」


 そうだ。そうなのだ。

 一番最初に火を作り出そうとした理由。

 それはマロウさんが当たり前のように兄弟たちの狩ってきた生肉を僕に差し出してきた事にある。


 しかし、僕の記憶には生で食べられる肉の記憶もあった。

 恐る恐る食べてみたのだが、完全にアウト。

 血の味しかしない上に、なんか苦くてじゃりじゃりした。


 それはマロウさんが血抜きもせず、解体もただ爪でバラバラにしているだけと言うことが原因だと後に判明《はんめい》した。


 生食には食中毒や寄生虫などの危険性もある。

 マロウさんのように野生児《やせいじ》全開ではない僕ではお腹を壊《こわ》してしまうだろう。

 という事で以降《いらい》料理は僕の担当になっていた。


 「マロウさん。生でお肉を食べるのと同様に、洞窟の出入り口を閉じて籠《こも》るのはやめましょうね。危ないですから」


 あまりに危険な行為《こうい》に、つい手にもっていた棒の先端を彼女に向けて、諫《いさ》めるような事を言ってしまう。


 しかしマロウさんは素直に「分かりました」と答えるだけ。

 反論も、文句も言ってこない。

 お肉の件に関しても同様だったのでこの人は疑《うたが》う事を知らないのかと不安になってしまう。


 「もう少し…こう、疑うとか、ないんですか?」

 僕が顔を訝しめ、聞いてみればマロウさんはきょとんとした顔をして

 「嘘はついていないのでしょう?」と返してくる。


 その答えに「まぁそうですけど」とバツが悪い返事しか返せずに、マロウさんも「それなら問題はないですね」と言って話が終わってしまう。


 天然なのか、ワザとなのか、見つめる先では何処《どこ》か楽しそうに鼻歌を歌うマロウさんの姿があっただけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。