11-09 魔族の集結地
翌日は西に進路を取る。
昼食までに2体のリーガンを倒して森に埋めたのだが、かなり広い偵察をリーガン達は行っていたようで、いまだに本体の存在を確定できない。シャタインさんは、いるとすればもっと西だろうと言っていたのだが……。
「それにしても、だいぶ広い範囲にリーガンを配置しておるのう。アオイは何か考えられるか?」
「少し気になる点があります。たぶん俺達の接近を嫌ってるんでしょうけど、その理由が分かりません。出来れば魔族達の拠点を確認したら、その辺りも調べてみたいところですね」
「ふむ……。一番考えられるのは?」
「集結です。他の魔族の群れを待っているんだと思います。ですが、それだけなら広い範囲にリーガンを配置する理由にはならないでしょう。リーガン達は偵察と言うよりも監視要員として配置されているように思えます。リーガンを2体倒しても未だ本隊の確認が出来ていないということは、この先にもリーガンがいることになります。第1監視線、第2監視線となるでしょう。第3までは想定していた方が良いのではと。ですが、第2監視線の存在が分れば、少しは見えてきますよ」
携帯コンロでお茶を沸かして昼食を取りながら、皆と話をする。
モモちゃんとリーザさん達はキョトンとした表情で俺の話を聞いているけど、シュタインさん達の目は真剣だ。俺が地面に線を引いて説明したことを頷きながら聞いてくれた。
「アオイの予想では何が見えることになりそうなんだ?」
「ドラゴンです。ですが、極めて動きの鈍いドラゴンではないかと……。俺達に見つかるのをこれほど嫌うとなれば、そんな考えになります」
ヒルダさんがため息を吐いて、シュタインさんに視線を移した。
シュタインさんとガドネンさんが顔を見合わせて動かない。俺には想像すら出来ないが、動きの鈍いドラゴンなんているんだろうか?
「土竜もしくは動く岩山……」
「大型土竜ならば動きも遅い。動く岩山、ドワーフ族は岩石ドラゴンと呼んでおるが、あんなものは伝承の中の話ではないのか?」
「エルフ族では動く砦とまで言われています。進路を変えることすらできなかったと」
「さもあらん。ドワーフ族の三分の一が滅んだと言われるドラゴンじゃ」
俺達は3人の話を唖然とした表情で眺めるだけだった。本当にそんなドラゴンがいるのか?
「アオイの危惧は是非とも確かめねばならん。そんな生き物をはなたれたら王国がどうなるか分かったものではないぞ」
「ちょっと待ってください。俺が考えてるのはもう少し小さいものですよ。そんな終末をもたらすようなドラゴンは魔族でも御せるとは思いませんが?」
俺の言葉に再びシュタインさん達が考え込んだ。
頭の中で敵性生物の図鑑を高速でスクロールしてるんだろうな。
「ミデガルはどうだ?」
「サンドドラゴンも考えるべきじゃろうな」
「アブラムシも候補じゃなくて?」
ヒルダさんが図鑑を取り出すと、俺に該当する生物を見せてくれた。
ミデガルは巨大なヘビ、サンドドラゴンはミミズに見える。アブラムシはゴキかと思ったけど、お腹が大きく膨らんだクモのような生物だ。
イラストの横に人間の大きさが対比できるようにえがかれているから、おおよその大きさが分る。
ミデガルとサンドドラゴンは胴体が直径1mで長さが15m程。アブラムシは膨らんだお腹が俺の身長位ある。
全て、イラストを見る限り動きは鈍そうに思える。それを補うために数mの触手を何本か持っているようだ。
「ここで、魔族の魔導士というか調教師の能力が問題になります。この内、どれを魔族は操ることができますか?」
「サンドドラゴンは無理じゃろうな。ミデガルはヘビの大きいものだから魔族の魔導士なら可能じゃろう」
「アブラムシも可能よ。エルフ族との戦で魔族が持ち出して来たわ」
「そうなると、これを確認するのが目的と言う事だな。出来れば頭数まで確認しておきたいところだ。早めに王国軍総出で対処して貰わねばなるまい」
昼食が済んだところで更に西に向かう。
2度目の休憩を取ろうとしたところで、モモちゃんがリーガンを見付けたらしい。
シュタインさんに呼ばれて、急いでクロスボウをセットする。
モモちゃんが指さす方向をジッと見つめると、藪の一角に妙な歪みがあるのが分った。俺達の接近に気付いているから動かずにいるんだろう。
狙いを慎重に定めてトリガーを引く。
ガサっとここまで聞こえる音を立ててリーガンが倒れると、直ぐにシュタインさん達が駆け寄って止めを刺す。
「これが第2の監視線と言う事だな。となると、この先に魔族がいることになる」
「問題は、いつ確認するかと言う事じゃな」
「我等は【アクセル】状態。昼間とまではいかぬが、それなりに周囲を見ることができるぞ」
「我等トラ族とネコ族なら問題ない。だが、アオイやガドネンは」
「アオイに【アクセル】を掛けて貰えば? 私達なら2割増しだけど、アオイなら5割増しよ。周囲を見渡す事はできなくとも、近場なら見えるんじゃなくて?」
その手があったか! 皆の顔が俺に向いたけど、直ぐに頷いた。
幸いにも今日は下弦の月だ。夜半に月が昇るから、モモちゃんのようには行かなくとも、足元位は見ることができるんじゃないかな。
早めに夕食を取り、体を休める。
今夜は強行軍になりそうだ。交替で仮眠を取り、夜半に備えた。
俺がモモちゃんに起こされた時には皆の準備が終わっていた。ヒルダさんの差し出す濃いお茶を飲んで眠気を覚ますと、ガドネンさんとヒルダさんに【アクセル】を掛けた後自分にも掛けておく。魔法は残り2回になったけど、あまり魔法は使わないからこれでも十分に思える。
「さて、ファンドが先導してくれ。その左右に俺とナリスが立つ。モモはファンドの後ろで、その隣はアオイに頼む。ヒルダ、チル達に最後はガドネンだ。チル達の話をちゃんと聞いてくれよ」
「分かっとるわい。夜道でネコ族に適うものは無いからのう」
ファンドさんが少し前に移動して俺達に振りかえると小さく頷く。俺達が頷き返したのを見て、身を屈めながら先に進んで行った。
夜の行動の為に【アクセル】を使ったのは初めてだが、満月よりも周囲が良く見えるぞ。さすがに色を判別する事はできないけどね。モモちゃん達は更に違った世界が見えてるのかな?
昼の歩みよりはさすがに速度が上がらないけど、1時間で2kmは進めるんじゃないかな。そんな思いを持ちながら歩いて行くと、空が少しずつ明るくなってきた。もうすぐ薄明がはじまるのだろう。
突然、ファンドさんの歩みが止まり姿勢が低くなって藪に隠れる。
俺達も姿勢を低くしたところで、モモちゃんを見ると、俺を見てふるふると首を振っている。
敵性体の気配はないって事だとすれば……、見付けた! と言う事に違いない。
ももちゃんの肩をポンポンと叩いて動かないように言いつけると、ゆっくりとファンドさんの傍に這い進んだ。
「あれです。まさか焚き火をしてるとは思いませんでした。距離は少し遠いですけど、これ以上近付くと、あの連中に見つかりそうです」
500mほど先に焚き火が幾つも作られて大勢の魔族が囲んでいる。寝てる連中もいるのだとすれば200を越えるんじゃないか?
ファンドさんの指差した先には、焚き火の周りを数体で巡っている魔族達が見える。第3監視線になるんだろうか? となると、集結する魔族が更に増えることも考えられそうだ。
チラリと後ろを見る。伏せているなら藪が邪魔をして見つかる可能性は低そうだ。ここまでの監視線を作っているリーガルは全て始末して埋めてあるから、ここで監視をしているならば見つかる可能性はかなり低いだろうな。
500mは監視するには距離があるが、幸いにも向こうの世界から持ち込んだ双眼鏡がある。今日の昼近くまでは監視を継続したいところだ。
「監視を継続してください。シュタインさん達に状況を知らせて来ます」
「了解だ。ナリスさんを頼むぞ。昔から突っ込む癖があるからな」
ファンドさんの肩を叩いて後ろに下がる。
数m後ろに下がった藪に、身を小さくして皆が集まっていた。
「いましたよ。200はいるんじゃないでしょうか? 魔族が夜寝るとすればさらに大きな数です。焚き火をいくつか作っていますが、群れている周囲を数体の魔族が周回しています。監視の第3線と言うところでしょう。この辺りの藪は深そうですから、しばらく監視を継続したいと思いますが?」
「幸いにも焚き火を作らなくとも良い携帯コンロがある。軽い食事を今の内に作っておけばよい。その後は水で我慢することになりそうだな」
直ぐにガドネンさんが地面を掘りだした。なるべく低い場所で携帯コンロを使いたいんだろう。リーザさんが藪の周りに黒い布を張り出したからこれでさらに見付けにくくなったろう。
もう一度、ファンドさんの所に戻ってバッグから双眼鏡を取り出して魔族の状況を探る。7倍の倍率は500mの距離を100m程に短くして様子を見せてくれる。彼等の武装も段々と見えてきたぞ。
すでに朝を迎えたと言う事だろう。魔族の焚き火に大きな獣が炙られ始めた。
「ファンドさん。今から伝えることを覚えてシュタインさんに伝えてください。魔族はリーデルがほとんどです。武装は大きく分ければ弓と槍、それに片手剣と盾になりますが、短い杖を持ったリーデルが10体ほどいます。弓を持ったリーデルの数は槍の半分と言うところです」
「そこまで分るんですか! それも魔道の品と言う事ですね。それでは伝えて来ます」
ほとんど物音を立てないで後ろに下がって行った。
さて、何が出てくるのかな? さらにリーデルが集まるという事も考えられるが、第3線の監視までやる以上、動きの遅いものを待っているに違いないと思うんだけどね。




