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11-08 リーガンに見つけて貰おう  


 出発は明後日と言う事で準備が始まる。

 冬用の装備を取り出して一度身に着けてみたんだが、モモちゃんの衣服が少し小さくなっている。ちゃんと育ってるみたいだな。

 早速、雑貨屋に出掛けてモモちゃんの支度を整えた。古いのは下取りしてくれるらしい。古着の需要もあるみたいだな。

 競泳用の眼鏡みたいなサングラスもあったのでモモちゃん用に買い込んでおく。俺は向こうの世界から持ってきたサングラスがまだまだ使えそうだ。


 大型の幌馬車近くに集まって道具の再確認を皆で行う。

 杖代わりの槍を準備して、簡易ストーブは2つ持って行く。ガトルの毛皮を敷けば雪の上でも暖かく寝られる。そんなものを魔法の袋とカゴに入れれば、明日はお弁当と水筒だけを用意すれば良い。


 早めに朝食を済ませると、各自お弁当を2つ貰って幌馬車に急ぐ。カゴをシュタインさんとガドネンさんが担ぐと、俺達は槍を1本ずつ手にすると北門を出て真っ直ぐに北に向かって歩き出した。

 かなり寒いけど、あまり着込むのも問題だ。汗をかかないようにゆっくりとした足取りで雪原を進んでいく。


「だいぶ雪が少なくなっているわ。春も直ぐそこね」

「この季節に1個中隊と言うのが問題だな。雪が消えてなら大侵攻の前触れにも思えるのだが」


 あえて雪が消えない時期というのは、魔族にとっても辛い時期と言う事になるんだろう。俺達のようにあまり衣服を持たないようだ。地下深くに王国を築いていると言う事だから、年中気温の変化があまりないんだろうな。

 自分達の暮らしている環境に、良く似た時期に現れるというのも頷ける話だ。

 となれば、この時期をあえて選んだ理由は、確かに何かありそうな感じがするな。。


「お兄ちゃん、あっちに何かいるにゃ!」

「ん? どの辺りだ」

 

 モモちゃんの言葉に全員がその場にうずくまって、モモちゃんが腕を伸ばした方向を見つめる、

 確かに何か動いてるんだけど、よくわからないな。


「バールと言う熊の一種だ。クワガタ鹿をし止めたらしいな。もも、あれも危険な奴だから、近くにいたら教えてくれよ。だが、この距離なら問題は無い」

 シュタインさんが立ち上がりながら、モモちゃんの頭を撫でている。距離は500m以上離れているから、安心と言う事になるんだろう。

 

 俺達は再び北に向かった歩き出す。

 何度か、大型動物をモモちゃんが見付けたんだが、距離が離れているからさほど危険な状況には至っていない。

 雪が少なくなったとはいえ、雪靴がくるぶし近くまで潜る状況だ。戦闘には向いていない地形だからね。それでもかんじきを使うよりは遥かに歩きやすい。

 3度目の休みを取った時は、俺達の前に大きな森が広がっていた。この森はシュバルツボーエン山脈の中腹にまで広がっているらしい。

 

 まだ、森が深くならない内に昼食を取る。

 焚き火を囲んでお弁当のサンドイッチを食べていると、モモちゃんがしきりにあちこちを眺めている。


「この森は獣が多いからのう。モモが怖いと思った奴が近付いたら教えてくれれば良い」

 ガドネンさんの言葉に、モモちゃんが頷いてる。

「確かにざわついてますね。あまり森では起こらない状況ですよ」

「すでに、奴らの近くに俺達が来てるということか?」


 ファンドさんが、モモちゃんに微笑みながら呟いた言葉に、シュタインさんが聞き返している。

「そんな感じにも思えます。ですが、4M(450m)以上離れたバールを見付けられるほどの勘の良さをもつモモがあの状態では、それほどの危惧は無いのではないかと……」


 いることはいるが、距離がかなりあると言う事になるんだろうな。シュタインさんが考え込んでしまったぞ。


「少なくとも、モモは現時点での危険を感じて行ないようだ。やはり当初の予定通り北上して野営をするぞ」

「森の中なら少しは安心じゃろう。魔族の魔導士達も獣を使って積極的な偵察は出来んからな」


 ガドネンさんの話では、魔族の魔導士が偵察に使う生物はヘビが主になるらしい。その他にもと例を挙げた生物は両生類や、爬虫類ばかりだ。

 となれば、季節的にそれらを使った偵察が出来ないと言う事になる。リーガンならばモモちゃんが接近を教えてくれるはずだ。


 食事を終えると、再び北に向かって歩き出す。森の中は下草が雪で埋まっているから少しは歩きやすい。枯れ枝を見付けてはガドネンさんが背負ったカゴに入れている。

 休憩を頻繁に取るようになった時、シュタインさんが周囲を観察し始めた。どうやら野営地をさがしているのだろう。


 数本の大木が幹を寄せ合っている場所を見付けた時、シュタインさんが俺達に振りかえった。

「あの場所で野営をする。俺とガドネンでテントの準備をする。アオイとチル達は焚き木を集めてくれ。ファンドとリーザは周辺の偵察だ」

 

 各自が指示された作業に入った。モモちゃん達と周囲を巡って焚き木を集める。イザとなれば焚き木も防衛に役立つからね。多めに集めておけば問題ない。

 焚き木を集めて戻ってきた時には、テントが幹に隠れるように作られていた。元々が白色の帆布がだいぶ茶色に染まっている。そんなテントに数本の枝を立て掛けているから、離れてみれば根雪に見えなくもない。

 小さな焚き火を作って夕食の準備を始めたヒルダさんの所に焚き木を持って行き、少し離れた場所にも焚き木を積んでおく。


 焚き火の傍に座って、手袋を脱いで手を温める。そんな俺達を見て、夕食はもう少し掛かるとヒルダさんが教えてくれた。


 ガサガサと藪を掻き分けてファンドさん達が帰ってきた。

 俺達が少し後ろに下がってファンドさん達に場所を空けてあげる。


「とりあえず1M(150m)を一回りして来ました。静かなものです」

「夜が問題だな。ここは少し下がっているが、あまり焚き火をすると遠くからでも見つかってしまう」

「布を張っておくが、気休めじゃな。近くに魔族がいない事を祈るしかあるまい」

「今の内に炭を作って夜は携帯コンロを使えば良いでしょう。上の蓋を取れば焚き木でも使えます」


 そうは言ったが、リスクを少し下げる程度になるだけだ。暗い森の中での焚き火は遠くからでも見えるんだろうな。


 夕食を終えると、携帯コンロに熾火を入れて、テントに持って行く。モモちゃん達が直ぐにテントに向かったのは、ここが寒いからなんだろう。ヒルダさんとナリスさんも一緒だ。

 残った俺達は、パイプを使いながら焚き火を小さくしていく。もう1つ携帯コンロを取り出してその中に焚き木を入れて熾火を乗せれば勢いよく焚き木が燃えだした。


「あまり暖かさが伝わらんな……。やはり焚き火に戻したほうが良さそうだ」

「ですね。後で工夫してみます。携帯コンロの筒は二重ですからどうしても熱が伝わりにくいですね」


 そんな事があって、再び焚き火を作ることになってしまった。これも良い経験だと思っておこう。

 ガドネンさんとシュタインさんが蒸留酒をちびちびと飲んでいる。飲める人間が少しずつ飲むのは辛いかも知れないけど、度数が高いからほどほどにしないといけないと分かっているんだろう。


「やはり、冬の焚き火の番にはこれが一番じゃな」

 そんな事を言ってシュタインさんと頷いているぞ。俺達はたまにお茶を飲んで眠気を覚ます。


「相変わらず森は静かです。とはいえ、尻尾が膨らんでるのが気になりますね」

「リーガンと言う事か? だが、この寒さでは……」

「襲うことは無いだろうが、俺達を見付けたと言う事になるだろうな。問題はこの後の奴らの行動だ」

「通常ならば?」


 俺の問いに、酒のカップを一息に飲むと俺に顔を向ける。


「基本は力攻めだ。たまに待ち伏せを行う事もあるが」

「待ち伏せを受けた時はかなり慌てたものじゃったな。部隊の三分の一がやられてしもうた」


 その時に、シュタインさん達はいたということか。それにしても三分の一とはねぇ……。


「森の中で戦う事になれば、俺達にも勝機はありますが、無事には済まないでしょうね」

「戦いは避けたいものだ。だがこの状態で偵察をするということは相手と一戦する覚悟がいるぞ」


「俺の知る偵察には2種類あるんですが……」

 相手に知られずに行う偵察と相手と一当たりする威力偵察の違いについて話を始める。

 もし、相手が俺達の存在に気付いているなら、通常の偵察は行う事が出来ないが、威力偵察ならもう少し相手に踏み込むことも可能だろう。


「リーガンとやりあうのか! 魔族の部隊周辺に展開しているリーガンを倒すなら、確かに本体にも近づけるかもしれん」

「ネコ族が周囲を固めれば、リーガンの気配を察知できます」

「クロスボウで個別に倒して行けばよいのじゃな。となると、我等はリーガンになるべく見つかるように行動すれば良いわけじゃ」


 夜中に焚き火の番を交替した時にも、、モモちゃんがあっちこっちを眺めていた。何かいるの? と聞いたらイモムシと一緒にいた奴にゃ! と答えてくれたからやはりリーガンということになる。

 

「見付けたら撃っても良いのね?」

 これからの行動を話し終えた途端に、リーザさんが嬉しそうな声で聞いて来たって事は、あまり上手く伝わってなかったのかもしれないな。


「アオイの作戦だとそうなる。ただし、俺達は見つかるように動く。リーザ達は隠れて動くことになる」

 チルやモモちゃん達も嬉しそうにうんうんと頷いている。何となく先行きが不安になってきたぞ。


「リーザ達に隠れて行動しろって言っても守れるのかしら?」

「一応、ネコは獲物を待ち伏せするのが得意な動物です。その種族的特徴を色濃く残しているんですから出来るはずなんですが……」

「確かにそんなところがあるわね。子供のころ飼っていたネコがよく小鳥を捕まえてきたわ」

「それは飼い猫の話であってネコ族とは異なりそうじゃな。ファンドは出来そうだが、残りの4人は少し不安じゃのう」


 それでも他に適任がいるとも思えない。

 俺達の前にモモちゃんが進み、直ぐ後ろをナリスさんが堂々と歩いている。左右はリーザさんとファンドさんで、後ろはチル達だ。チルの直ぐ前をガドネンさんが歩いているから何かあっても即応できるだろう。

 身を屈めて進むモモちゃんは、まるでネコそのものだ。元がネコだからかな?

 左右にいるはずのリーザさんもいつの間にか姿が見えなくなっている。低い姿勢で周囲をうかがいながら進んでいるんだろう。



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