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10-04 今度は湖からやって来た


 サイクロプスの遺体を穴を掘って埋めるだけで、翌日がほとんど費やされてしまった。

 何といっても大きな体だし、兵士4人でどうにか動かせる感じだからな。足をロープで結んだ皆で引いて行ったけど、またやって来たらこれを繰り返さなくちゃならないと思うと、気がめいってしまう。

 

 どうにか終えたところで、兵士達が壊れた柵の修理を始めた。俺達傭兵は焚き木を取りに出掛け、再度焚き火を3つ作れるようにしておく。


「予定は残り3日だが、2日追加したい。サイクロプスは予定外だったが、グレミーの姿が確認できん」

「水棲魔族の動向が気になるか……。そうだな。俺も賛成だ。予定よりも長く監視して、グレミー達が現れなければ、ラゲルの森周辺だけを注意すれば良いからな。モスデール荒野を抜けるだけでも一苦労なのに、その上グレミーではジェリムの町とアーベルグ村を結ぶ間道まで閉鎖しなくちゃなんねぇ」


 焚き火の傍に座り込むと、早速シュタインさんが監視期間の延長を提案した。バルトスさんが直ぐに同意したのが意外だったけど、それだけ山街道と旧街道を繋ぐ間道は重要だと言う事になるんだろうな。

 途中のテレス村もラケット村のようになってしまうんでは王国としても看過できないんじゃないか? 残った兵士をここに向けねばならないだろう。


「そうして頂けると助かります。報酬の方は、私の方から口添えしておきますので」

 キニアスさんの言葉にシュタインさん達が微笑んでいる。

「あまり期待はしていないが、お願いするぞ。軍の方も都合があるだろう。2日余計に見張るのは俺達の為でもあるんだ」

「とは言っても、タダ働きでは……」

「気にするな。まあ、飲め!」


 バルテスさんが取り出したのはワインのビンらしい。キニアスさんのカップにたっぷりと注いでいるぞ。


「だが、サイクロプスもオーガも弱点は同じじゃな。顔への攻撃を行ってくれたから倒せたようなものじゃ」

「そうだ。確かに有効だ。全く、最初から教えてくれれば良いものを……」

「アオイの咄嗟の判断だ。経験は浅いが2年でガトルクラスだからな。俺達の中でドラゴンを名乗る事ができるやも知れんぞ」


 ほう~と声が焚き火を囲んでいる傭兵達から生まれた。

 ちょっと、赤面ものだな。そこまで行かなくとも俺は十分だと思うんだけどね。それにこの辺りにいたドラゴンはワニモドキだけだから、無理だと思うけどね。


「シュタインの運の良さは昔からだな。だが、その時は俺達を忘れんでくれよ」

「魔族の侵入が少し活発化しているようだ。これからもお前達には頼ることになるだろう。よろしく頼む」


 握手しながらワインを飲んでるぞ。

 酒の上の約束事にどれだけ効力があるか分からないけど、これからもレクタス傭兵団との付き合いは続くんだろうな。


 いつもの夕食を終えると、ガドネンさんが小さなカップ1杯分の蒸留酒を振る舞う。皆に配っても精々小ビン1本分だからそれ程の量にはならないって事で、ガドネンさんが大盤振る舞いをしているんだろうな。意外と本人が飲みたいだけだったりしてね。

 皆が食後の休憩を終えたところで、俺達は早めに横になった。

 昼間あれだけ働いたからだろう。毛布に包まると直ぐに眠りについたようだ。

 

「お兄ちゃん、起きて! やって来たにゃ」

「何だと!」


 急いで飛び起きると、装備を整え、隣で寝ていたファンドを起こした。

 ファンドは寝ぼけたような目で俺を見ていたけど、直ぐに目が覚めたようだ。


「皆を起こしてくれ。モモちゃんが何か感じたようだ」

「分かった。それで相手は?

「会った事があるにゃ。でもよくわからないにゃ」


 それだけでも重要な情報だ。少なくともサイクロプスでは無さそうだ。怖いのがと言う言葉も無いからオーガでもないだろう。

クロスボウを持って外に出ると、知らせを受けた連中が続々と焚き火に集まってきた。


「今度は何だ?」

「あっちからにゃ。よく分からないけど、たくさんくるにゃ」

 いつもの事だから、皆がモモちゃんの指差した方向に顔を向ける。

「あっちは、湖だぞ! いよいよか」

 レクタス傭兵団のリーダスさんが叫んだ。イヌ族の横顔はガトルに似ているな。精悍さはトラ族並みだ。片手剣を腰に吊り、短槍を持って真っ暗な湖の方向を眺めている。


「確かに近付いてる。数も多そうよ」

「焚き木に火を点けましょうか?」

「そうだな。頼めるか? それと、ヒルダ、湖に光球を放ってくれ。距離があるから可能な限り遠くに頼む」


 光球が頭上を飛んでいく。魔法で作った弊害なのかもしれないが、光球を作った魔道士と光球の距離には制約があるようだ。最大でも100D(30m)と言うところだろう。

 だが月も無い暗がりでは、それなりに周囲を見通すことができる。


「まだ距離があるな。やはり湖の仲と言う事になるだろう。グレミーが濃厚だ。グレミーをモモは一度見ているが、直ぐに引き返している。危険の度合いがまだ分からんのだろう」

「俺だってどれぐらい危険か分からんぞ。だが、やるしかなさそうだな」

「とりあえずクロスボウで良いでしょう? 効かなければ槍を使うわ」

「そうだな。サイクロプスと同じで良いだろう。アオイもクロスボウを頼む。強力だからな。弓が効かなくともクロスボウならだいじょうぶだろう」


 クロスボウが有効なら槍も使えるって事だろう。長剣はどうなんだろう?

 初めて見たグレミーは俺の背丈ほどの半魚人だ。うろこで全身が覆われてたから、全身を鎖帷子で覆った感じに思えたんだが……。


 つんつんとモモちゃんが俺の袖を引くと、あれ! と湖の方向を指差した。

 ん? じっと目を凝らすと、奥の方で何かが動いている。


「来た! グレミーよ」

 リーザさんが大声で告げた時、その人影に向かってボルトを放った。

 リーザさんがモモちゃんを連れて後ろに下がる。前面にシュタインさん達が立つと、そのすぐ後ろにキニアスさんと槍兵が並んだ。

 俺は弓兵の位置で、クロスボウの弦を引くとボルトをセットする。

 

 再び湖を向いた時には、はっきりとグレミーの姿が見える。弓兵が一斉に放った矢の何本かは当たったようだが、あまり深く刺さったようには見えないな。グレミーが胸の前で腕を一振りすると直ぐに矢が落ちてしまった。


「矢が少しは効くぞ! 援護してくれ」

 シュタインさんの吠えるような声に弓兵達が盛んに矢を放ち始める。

 次の目標は、一番左側の奴だ。トリガーを引くと、のけぞる様にしてその場に倒れた。

 次々とボルトを放つ。シュタインさん達は槍を手にグレミーと戦っている。グレミーは素手では無い。自分の身長程の銛のような槍を持っている。


 数本目のボルトを放った時には俺の直ぐ目の前まで迫っていた。クロスボウを置いて長剣を引き抜く。

 右手のサバイバルナイフで相手の銛をかわしながら左手で長剣をグレミーの腹に突き差した。

 最初の斬撃がうろこで滑ってしまった。少しは斬り込めたようだが、突き刺せばそれで致命傷だ。

 グレミーの振り回す銛でこっちも傷だらけだが、上手い事に深手にはなっていない。だけど、これで2着目の革の上着もボロボロになってしまいそうだ。

 

「ハアァ!」

 直ぐ後ろで叫んだのはキニアスさんだった。俺の横で銛を持つグレミーの横腹に深々と槍を突き差している。

 ドサリと音を立てるように倒れたグレミーを放心したようにキニアスさんが見ていた。いくらなんでも……、と周囲を見渡したが、すでに立っているグレミーの姿は無い。どうやら凌いだのかな?


「集まれ! 傷の手当てをして重傷者を確認しろ」

 シュタインさんの言葉に、皆が互いを確認している。急いでモモちゃんの所に行くと、俺を見るなり【サフロ】を使ってきたから、血だらけだったんだろうな。その後で掛けてくれた【クリーネ】で上着の血が消えたけど、あちこち上着が破れている。


「ガドネンが少し深い傷を受けたが、ドワーフの身体は頑丈だ。直ぐに良くなるだろう」

「俺のところは2人だ。3日も休めば再び戦えるだろう」

「私の所は1人でした。少し傷が深そうです。直すにはしばらく時が必要ですね」


 やって来たグレミーは12体だったらしい。ガドネンさんの作ったクロスボウが放ったボルトもヤジリ部分まで体に刺さっていたそうだから、結構使えそうだ。連射ができないのが問題なんだけどね。

 

「特別じゃぞ」そんな事を言いながら、皆に蒸留酒をガドネンさんが配っている。疲れた体に染み入るな。それに口から火炎弾を出せそうなぐらいに強いんだよな。


「これで、奴らも少しは懲りてくれるだろう」

「いや、次は更に数を増やしてくるんじゃないか? だが、もう一つ確認したい事がある。奴らの世界と繋がるのは湖の中だろうか。それとも」

「それは次の連中の調査で良い。俺達の役目はこの場所を見張る事。残り4日だ。それが終われば早めに報告する事を優先すべきだろう」


 負傷者がいなければ……、と言う感じにみえるな。

 相手の2倍の人数だったが、4人も怪我人を出している。次のグレミーが同じ数とは限らないし、シュタインさんは他の魔族を危惧しているようにも思える。

 慎重派のシュタインさんだから、ここは湖と川の監視に徹するに違いない。もちろん襲ってくる魔族がいれば全力で迎撃するのは確かなんだけどね。



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