10-05 夢の値段は銀貨2枚
あれから4日経ったけれども、結局何もやって来なかった。
サイクロプスとグラミーだけで王国のトップがどう判断するかは俺達の範ちゅうでは無いようだ。
2日掛けてベルク村に戻り、ギルドに報告したところで俺達の役目が終わった。ガドネンさんがバルテスさんに蒸留酒のビンを渡している。ギルドからの報酬よりも、酒の方が受け取る時の表情が良いというのも問題だな。
俺達はこの村でしばらくガドネンさんの養生をすることになった。
問題は無いとガドネンさんが言ってたけど、シュタインさんは慎重だからね。のんびりと酒を蒸留していた方が良いんじゃないかな。
3日もすると、皆が退屈しだした。
モモちゃんもヒルダさんに編み物を教わっているのだが、やはり向き不向きはあるに違いない。とはいえ、継続は力とも言うから、退屈しのぎに覚えておいても損は無いと思うんだけどね。
「小さなタル2つ分になったぞ。この村のギルドに預けておくが、何かもんだいがあるかな?」
「出来れば、地下室に置いておきたいですね。それと、この村で土地を買う事になればどれ位準備すれば良いでしょうか?」
「酒蔵を作るのか? そうじゃな……、ワシが調べておこう。じゃが、アビニオン傭兵団として購入するならそれ程元手はいらぬはずじゃ。皆で出し合えば良いからの」
そんな話を最初にしていたことを思い出した。
やはり移動しながらでは良い酒を造れないだろうし、そろそろ先を見越した計画を考えねばなるまい。
退屈しのぎにナリスさんやリーザさんを誘って、北東に広がる森へ狩りに出掛ける。
ラビーとラズーを5匹ずつ。名前が似てるけど、ウサギと飛べない鳥だ。荷馬車を預かって貰っている北の門番さんにラビーを2匹分けてあげ、残りは今夜の夕食になる。
「ラズーは久しぶりだ。アオイのクロスボウの腕は、他の追従を許さんな」
「褒めても、明日は狩りには行きませんよ。シュタインさんが今日だけだと念を押してましたからね」
「それは……、交渉だな」
中々ナリスさんは諦めが悪いようだ。
こんこんと理論ずくで説得されるのがオチだと思うけどね。
夕食にだされたラズーは殆ど姿焼きに近いものだったが、リーザさんが取り分けてくれた鶏肉は絶品だった。動物性の肉ばかりだったから、たまに食べる鶏肉が新鮮だったのかも知れない。
「たまには狩りも良いが、傭兵の本業を忘れるわけにはいかぬ。明後日、ビーゼントに向かうぞ。荷馬車20台の警護だ。15台がエバース村で、残り5台が更に東に進むらしい。俺達はビーゼントからエバース村の範囲だけで良い」
「途中で馬車が分れるんですか?」
「いや、15台は空荷で先に進むと言う事だ」
王都から軍に食料を輸送してきたのだろうか? シュバルツボーゲン山脈の南に建国されたいくつかの王国を結ぶ北街道沿いに荷物を運んでいるんだろうな。
分割されないとなれば1つの荷役商人が仕切っているんだろう。王都の大商会と結んで隣国との貿易も行っているのかも知れない。
「私達の幌馬車もエバース村にあるんでしょう? ちゃんと保管してくれてるかな」
「ギルドの依頼に寄るからな。転売でもしたのならギルドの信頼にも係わる。依頼終了から保管料は取られるだろうが微々たるものだ」
大型の幌馬車を置いたままだった。それでも、ギルドの依頼期間中はギルドで保管料を支払ってくれるのは助かるな。全てアビニオンで支払うのかと思ってたぞ。
「ところで話変わるのじゃが、ベルク村の土地を買わんか? チル達が作り方を覚えたらこの地に蒸留所を建てたい。アオイの話だと、倉庫が2つに蒸留建屋が1つ、更に我等が暮らす家と言う事になる」
「俺達が暮らすとなれば住宅も数軒は必要になりそうだな」
シュタインさんが笑いながら呟いた。
「私達が引退したら暮らす土地で良いんじゃないの? 最初に必要な住宅なら1軒あれば十分だわ。それ程頻繁に立ち寄れないでしょうしね」
「いくら出せば良いの? あまり蓄えは無いんだけど……」
リーザさんは心配そうな表情でガドネンさんに聞いている。
「そうじゃな……。家を持つのだったら金貨2枚は必要じゃろう。だが、土地だけなら銀貨50枚と言うところじゃろう。ここで、アオイの計画が役に立つ。すでに作った酒をあちこちで試飲させておる。意外と評判が良い。大びん1つで銀貨10枚にはなるぞ。そろそろ、小ビン単位で売り出してみようと思う。1本銀貨3枚で十分じゃろう。一晩で小瓶なら30本近く生産できる」
「全て酒の売り上げで賄うというのか?」
「そうじゃ。しばらくは皆に分配できぬが、将来への投資と言う事なら問題ないじゃろう。
「我等10人。土地だけとはいえ、金貨5枚と言う事になるんじゃないか?」
「そこは、裏を使う事になるのう。新たに自分達で造成するなら家を作るだけの土地を銀貨1枚で購入できるぞ。家を建てられる土地を切り開いた代金が銀貨50枚になるのじゃ」
要するに、山の土地をそのまま買うと言う事か? 誰かが頑張って造成した土地を買うとなれば確かに値段が張りそうだな。
「どうじゃ? 1人銀貨1枚じゃが、倉庫等も建てねばならん。銀貨2枚が元手じゃ。自分の土地を自分で開くことになるがのう」
「おもしろい。だが良い場所はあったのか?」
「ベルク村の西じゃ。少し下っておるがそれ程急では無い。畑には適さんし、石がごろごろだから村の住人が増えても家を作るような物好きはおるまい」
でも、ガドネンさんがいたってことだから、ガドネンさんは物好きの典型と言う事になるんだろう。
しかし銀貨2枚で夢が買えるんだから、俺とモモちゃんは参加するぞ。
新しく購入した革の上着の内ポケットから、財布代わりの革袋を取り出して、ガドネンさんの前に4枚の銀貨を置いた。
「アオイ達は参加じゃな。ワシも参加じゃ」
「私達兄弟も参加するわよ!」
次々とガドネンさんの前に銀貨が並ぶ。ナリスさんやファンドさんも参加って事らしい。
「これが土地代金になる。明日村長に届けて、きちんと土地の購入書を作って貰う。ギルドの印を合わせれば正式な証文として通用するからのう」
ガドネンさんの言葉に全員が頷いた。モモちゃんはキョトンとしてるけど、俺達の家が手に入るんだと教えたら、嬉しそうにガドネンさんに向かって頷いてたぞ。
「石がごろごろしとるから、それを集めて壁を作っても良いじゃろう。土台にも困らん。依頼をこなしながらたまに長期の休みを取って土地の造成をせねばならんぞ」
まぁ、格安物件だからねぇ。少しは俺達が働くことになりそうだ。
とはいえ、全員の目標が出来たんだから、ここは乾杯せねばなるまい。シュタインさんの音頭で、俺達の将来を祝う。
翌日。ガドネンさんの案内で俺達の土地を見に行ったのだが……。あっちこっちに大きな石がごろごろしている。その上かなりの坂になっている。これでは誰もこの土地を欲しがることは無いだろうな。
「まぁ、すでに行動に移したのだ。3年程度で家を持つ事にはならんだろうから丁度良いのかも知れんな」
シュタインさんの感想に呆れた表情でヒルダさんが呟いた本人を見ているけど、先が長いと思えあ良いんじゃないかな。
近くに他人が土地を購入する戸も考えられないし、出来ればこの倍の土地を手に入れときたいものだ。
翌日。俺達はビーゼント村に向かって幌馬車を進めた。
小型の幌馬車だから、定員が6人ということで、男達は歩いての移動になる。
このところ、移動はいつも幌馬車だったからビーゼント村までの3日間はキツイものになったけど、獣や魔族にも合わなかったのがせめてもの救いだ。
ビーゼント村で荷馬車を待つと、こんどはエバース村までの6日間の警護が始まる。
こんな移動でも、夜は蒸留酒を作ったのでエバース村に着いた時には新たに小ダル1個分以上を作ることができた。
ギルドに行くと、俺達を王都の商会の男が待っていた。例の取り決めを待っていたのかも知れない。
「こちらが、ワイン3タルです」
「これが例の酒じゃ。大ビン3本じゃったな」
「どうでしょう? 大ビン1本を銀貨15枚で買う事はできませんか?」
そんな申し出にしぶしぶとガドネンさんが大ビンを追加している。
いったい王都ではどれ位の値段が付くんだろう? 小ダル2個は言わない方が良いかもしれないぞ。
「どうでしょう。量産化を進めて頂くわけには参りませんか?」
「ベルク村で土地を手に入れたところじゃ。まだまだ我等も現役じゃから、量産までにはしばらく掛かりそうじゃわい」
「量産化は計画の内ということですね。それなら、建設を援助することで大ビン5本ということにできませんか?」
簡単に言ってるけど、あの土地を造成するのはかなり大変だぞ。大ビン5本という量であれば、今使っている蒸留器がもう一組あれば造作もない話なんだけどね。
「我等の中で少し話し合う必要もありそうじゃ。あんたの提案は検討する価値がありそうじゃからな。ところで商会の名とあんたの名前は?」
「そうでした。まだ告げておりませんでいたね。レドガー商会の番頭をしておりますカイセルと言います。覚え置きください」
カイセルとは凄い名だな。手代はかなり上の人間じゃないのか?
カイセル氏がこれほどこだわるんだから、王都の評判は上々と言う事になりそうだ。




