6-05 やはりコンロは暖かい
エバース村へと出発する前日の夕食が終わった時に、ワインを飲みながらシュタインさんが詳しい説明をしてくれた。
都合、12台の荷馬車に兵糧を乗せて来るのは変わりはないが、御者が1台に1人と言う事らしい。一応見習い兵士を5人乗せているようだが、どちらかというとカピバラモドキの世話係兼食事当番と言う事だな。
「軍も魔物討伐に全力を入れているから輸送に兵士をあまり割り振れなかったようだな。そこで俺達の警護を必要とすることになるようだ」
それでも10人以上の兵士がいるのはありがたい話だな。商人達の荷馬車ではそれ程の戦力にならないからね。
「というと、実際の兵糧は10台というところじゃな。2台は野営用の資材と飼葉というところじゃろう」
「そんなところだ。雪が消えるまでに何回か輸送が行われると言っていたな」
エバース村から北の洞窟までの輸送も問題だろうな。大型の魔法の袋を使うとしても、ソリを兵士達で引いて行くほかにないだろう。それも何回か行わなければならない。
すでに輸送は始まってるんじゃないか? ここに来る途中でもエバース村に数台の荷馬車の荷を下ろしてきたからね。
「兵士達では食事は俺達で賄わねばならない。ヒルダにそれは頼むとして、足りない食材は今の内に確保しといた方が良いだろう」
「分かったわ。今から、リーザと出掛けてくる。水は明日の朝でも良いわね」
翌日、東の広場に出掛けると、荷を満載にした荷馬車が並んでいる。なるほど御者台に一人ずつだ。前の方の荷馬車には御者台に2人腰を下ろしているは見習い兵士が同乗していると言う事だろうな。一応弓を持ってはいるが、ちゃんと使えるのかな?
俺もずっと使っていないけど、初めて使った時にはほとんど当たらなかったからね。
御者台の横に手槍が立ててあるから、槍兵を御者にしたって感じだな。それ以外の武器は……、片手剣を下げているようだ。
「アビニオンだな。だいぶ若いのもいるようだが?」
「若くてもガトルクラスを持っている。護衛には十分だ」
輸送部隊の指揮官らしい壮年の男がシュタインさんのところにやってきて、打ち合わせを始めたようだ。
その話を後ろで聞いているんだけど、やはりモモちゃんは意外に思うのかもしれないな。
部隊の見習い兵士をネコ族とイヌ族で揃えたらしい。それなら奇襲を受けることは無いだろうな。だが、正攻法で来られたらちゃんと対処できるかが問題ではある。
数分の話し合いを終えるとシュタインさんが俺達の配置を告げる。
シュタインさん達が先頭で、俺達は殿らしい。 見習い兵士を車列の先頭付近に置いているから、後ろが手薄と言う事だな。
モモちゃんの手を引いてリーザさんの後に続くと俺達の荷馬車に乗り込む。
ガドネンさんがわたしてくれた火鉢を、リーザさんが御者台に乗せているのは想定の内だ。
兵士達が暖を取っていた焚き火から、熾火をコンロに数個移して俺も荷台に乗る。
今日は暖かく過ごせそうだな。2重の鉄管だから表面はほんのりと暖かくなるし、上部の鉄管の蓋を閉じれば、コンロがひっくり返っても中の熾火が外に出ることは無い。
膝の間にコンロを入れて、マントで体を包むと……。うん、良い感じだ。これなら十分に使えるぞ。
「私とモモちゃんは御者台に乗るにゃ。弓は御者台に乗せておくにゃ」
「モモちゃんをよろしくお願いします。荷台で後ろを見てますから、何かあれば教えてください」
今回は暖かくしていられるからな。荷台の側板に背中を預けて幌馬車が動き出す時を待った。
今日の天気はあまり良く無いようだ。空はどんよりとした曇り空だが、振りだすことは無いだろう。
やがて幌馬車がゆっくりと滑り始めた。今日はイーデンの森の手前で野営になる。少し距離があるから、普段よりも早く村を出るようだ。
曇天でも雪原は眩しく感じる。サングラスを掛けて後ろの景色を眺める。街道をきちんと進んでいるのか怪しいところがあるが、途中のこの世界の一里塚で方向を修正しているようだ。
後ろに見えるのは、カピバラモドキの脚跡とソリの軌跡だけで変化が無いな。たまに小さな足跡があるけど、ラビーというウサギに似た獣なんだろう。図鑑で見た足跡にそっくりだからね。
御者台からモモちゃん達の話声が聞こえてくる。考えてみるとずっと話声が聞こえてきた気がするな。よくも話題が尽きないものだと感心してしまう。
イーデンの森の手前にある休息所にたどり着くと、荷馬車の手前に2台の幌馬車を停めた。俺達の幌馬車を柵としても使えるようにするんだろうな。
入口の柵をシュタインさん達が移動している間に焚き火を作って鍋を下げる。
焚き木が足りないから、男達3人で一抱えずつ焚き木を運んで来た。
兵士達も荷馬車近くに2つの焚き火を作って食事の準備を始めている。
夜の見張りはロウソク1区切り分を兵士達が担当してくれるそうだから、食後のお茶を少しゆっくり飲む事が出来そうだ。
「あまり意味があるとは思えん見張りじゃな?」
「見習いの訓練を兼ねているんじゃないか? おかげで1杯の酒を楽しめる」
シュタインさん達がやけにゆっくりとお茶を飲んでると思ったら、お酒だったようだ。
呆れた顔でヒルダさんが横目で見ている。
「でも、この季節の仕事は寒さが堪えるわね。毛布に包まっても身体がしびれて来るのよ」
「かといって、火鉢は御者台に乗せているからのう……。休憩ごとに交替するか」
「私達の幌馬車ではアオイがずっと荷台に乗ってるのよね。寒くないの?」
俺のところに話が回ってきた。
「俺ですか? こっちに来た時に寒くて震えてましたから、小さな金属のコンロを作って貰ったんです」
「ほう、見せてくれんか?」
興味があるのかな? 幌馬車の荷台からコンロを下げて持ってくると、ガドネンさんが手を伸ばした。
受け取ったコンロをゆっくりと観察している。
「どうなの?」
「中々に凝った作りじゃな。金属の筒の中に熾火を入れて置くんじゃが、筒が二十位なっているから外側はそれほど熱くならんようじゃな。蓋もついとるから、転がっても火事にはならん。火鉢よりも優れものじゃ」
「作れるか?」
「ハン! ドワーフに作れるかと聞くのか? 出来ぬ筈なかろうが。この警護が終わればエバース村で作ってやろう。3つあれば良いだろう。火鉢はこの後に使うとは思えんからな」
シュタインさんに誘導されたんだろうな。ドワーフの誇りもあるんだろうけど、どうやらアビニオンの寒さ対策はこのストーブを使う事になりそうだ。
しばらく雑談をしたところで、火鉢に焚き火の熾火を入れてシュタインさん達とヒルダさん達が幌馬車に入って行く。
俺とモモちゃんは、もうしばらくここで焚き火の番をすることになる。
交替時刻が近づいたころに雪が降り出した。
俺のマントを広げて毛布の上に掛けておけば薄手の毛布も余り濡れないだろう。幌馬車の中で広げれば乾くだろう。
本降りになったころに、リーザさんを起こして幌馬車の中で眠りにつく。
翌日は更に雪深くなった街道を東に進んで森の中に入る。
森の中は街道に雪が重く積もった枝が垂れ下がっているから、まるでトンネルの中を進んでいるように見える。
クロスボウを近くに置いて後ろを眺めているんだけど、森は静かなままだ。時折バサリ! と雪が落ちて枝が跳ね上がる音がするけど、そのたびにドキリとするんだよな。
ビーゼント村を出て3日目の夜。夕食を終えた俺達のところに輸送部隊の隊長が訪ねてきた。
やはり、ドックレーの森の噂を聞いているんだろうな。副官を交えて俺達が囲んでいる焚き火の輪に加わり、森での注意点をシュタインさんに確認している。
「すると、この季節の脅威はガトルと野犬になると?」
「その通り。かなり獰猛だが、上手く行けば毛皮が手に入る。ガトルの毛皮は水を弾くから野営には都合が良いぞ」
シュタインさんの言葉に隊長と副官が頷いている。
「もし襲って来たら、我等に毛皮を頂けまいか? ガトルの毛皮の話は聞いている。北に向かう連中に持たせてやりたいものだ」
「通常の2割増しで毛皮を買い取ります。野犬もそれなりだと聞いていますから、野犬の毛皮も同じ割増しで」
副官の言葉にガドネンさんが腕を伸ばして握手しているから交渉成立と言う事になるんだろう。だけど、やってこなければどうしようもないぞ。正しく、取らぬ狸の皮算用ってやつだ。
「アオイの傷は癒えているのか?」
「噛み跡は残ってますが、痛みはありません。あの塗り薬は効きますね」
俺の言葉を聞いてシュタインさんが満足そうに頷いているけど、副官の顔が緊張している。
「噛まれたんですか?」
「リーダーとやりあったようだ。腕を噛ませて長剣で首を斬るとは蛮勇になるのだろうが、若者ならそれ位が丁度良い。噛まれた痛さが次に繋がるからな」
今度は隊長が頷いてるぞ。今の言葉に教訓が入ってるんだろうか? 後でヒルダさんに聞いてみよう。
そんな話をカップ1杯のワインを飲みながら続けているんだけど、最後に俺達の幌馬車に、見習い兵士を1人ずつ乗せて欲しいと言う事になった。
軍としては早めに獣や魔物との戦いの経験をさせたいんだろうが俺達にとっては足手まといになりかねない。
一応弓を使えると言っていたから、幌馬車の下で援護をして貰えば良いだろうと言う事でシュタインさんが同意している。
幌馬車の中は俺一人で退屈だから話し相手に丁度良いかな。
まだ若者と言う事だから俺とそれほど歳も離れていないだろうしね。




