6-04 長剣を打ち直して貰おう
ドックレーの森を抜けて休息所に入る。
まだ、夕暮れには早いのだろうが、だいぶ雪が降ってきている。この季節は積もるとガドネンさんが言ってたから、あまり雪が深いと動けなくなってしまうんじゃないかな?
そんな心配をしていると、ヒルダさんがダリムの脚に雪靴を履かせるからだいじょうぶと教えてくれた。
ガドネンさんが、これじゃよと言って袋から出してくれたのは、ワラで作った雪靴だった。そこが広くなっているからあまり潜り込まないらしい。
吹雪いてきても焚き火の傍で番をするのは普段と変わらない。食事が終わると、モモちゃんをしっかり俺のマントに包んで風に背を向ける。
毛皮が裏打ちされているから、暖かい事は確かだが、顔はマフラーで目だけ出して覆っている。モモちゃんはマントから顔すら出していない。口の中で転がしている飴玉が歯に当たる音が時々聞こえてくるから寝ているわけでは無さそうだ。
まだ熱を持っている右腕が気になって眠気は無いんだけど、あんな治療で大丈夫なんだろうか?
医療技術は余り発達してはいないようだ。一応、回復魔法の【サフロ】があるのだが、今回はあえて使用しなかったようだ。その理由は、【サフロ】を使うと傷口が閉じてしまうかららしい。刃物で斬った傷ならかなり有効らしいが、噛まれた時は傷薬が使われるということだった。
破傷風みたいな感染症を考えているのかもしれないな。傷から流れる血はバイキンが体に入るのを防ぐと何かの本で読んだことがあるぞ。
深夜にリーザさん達と交替し、幌馬車に入る。吹雪いているから後ろから入らずに風下の幌をめくって中に乗り込んだ。マントは雪を落して幌馬車の後ろの方に掛けて置く。
コタツモドキの毛布に足を入れると、暖かさがジーンと伝わってくる。直ぐにモモちゃんは寝てしまったけれど、明日も早起きして雪だるまを作るのかな?
案に反して翌日は快晴だった。
朝方はかなり冷え込んだんだろう。新雪に表面が少し凍っているようにも思える。モモちゃんが商人の子供達と一緒になって、広場に足跡をたくさん作って遊んでいる。今日はイーデンの森の手前で野営だ。
これだけ晴れていれば吹雪にはならないだろう。
食事を終えると、荷馬車の列がゆっくりと西に向かって動き出した。
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サグレムの町を抜けて8日目にビーゼント村に到着した。ここから西はシュバルツボーエン山脈から距離が離れるから、俺達の警備はここで終了となる。
「何とか終わったわね。次の依頼は軍がらみのようだけど」
「俺はのんびりと休めるのが嬉しいですよ」
ビーゼント村に着いて、ガドネンさんが大量のガトルの毛皮を持って雑貨屋に向かったんだけどまだ帰ってこなかった。同じようにリーザさんも宿を探しに出掛けている。
シュタインさんはギルドのカウンターの奥にある事務所に入ったままだから、俺とモモちゃん、それにヒルダさんの3人で暖炉傍のベンチに座りお茶を飲んでいる。
「そう言えば、今まで一緒だった荷馬車もたくさんの荷をエバース村に置いて来ましたね。やはり春までにあの洞窟に駐屯するための荷物でしょうか?」
「たぶんそんなところでしょうね。ベルク村で聞いた話だと、すでに先遣隊を派遣したそうよ。1個小隊以上で臨めば、あの洞窟の危険はかなり軽減できるわ」
あくまで軽減であって、ゼロにはならないってことなんだろうな。
巨大な芋虫とタコだけでは無いだろう。その他にも色々と出てくるかも知れない。だが、魔物の人間世界への侵入を阻止するだけなら、2つの大きな通路を封さすれば良いだけだ。
石を積んでも良いだろうし、近くの森から太い丸太を運んで、柵を作っても良さそうだ。
だけど、指輪をくれた隊長さんは、俺の2個中隊の進言を聞いて頷いていた。俺達が引き返してきた先を探索することは間違いなさそうだ。
「あら? まだみんな戻ってないみたいね」
ヒルダさんの隣にいつの間にかギルドに戻ってきたリーザさんが腰を下ろした。自分でお茶をポットから入れて、俺達のカップにも注いでくれる。
「ガドネンは毛皮の交渉を頑張ってるみたい。シュタインは奥に入ったままよ」
「宿は何時もの宿に泊まれるわ。3泊で申し込んであるから、十分でしょう。少し伸びても、今の季節はあまりお客もいないみたい」
街道を行く荷馬車も少ないんだろうな。それに、泊まるとしても1日限りだ。冬はどの村も貧しい暮らしになるのだろう。
カチャリと小さなtビラが開く音がして、シュタインさんがカウンターの奥からこちらにやって来る。
丁度その時ギルドの扉が開いて、ガドネンさんも帰ってきた。
どうにか皆が揃ったことになる。少し早いけど宿に行って食事になりそうだ。
リーザさんが腰を上げるとシュタインさんとガドネンさんに2、3話をしている。2人が頷いたところで俺達に向かって手を振った。
いつもの食堂に行くと、なるほど客がいない。
夕暮れが終われば酒を飲む客が現れるんだろうけど、まだ夕暮れにはほど遠いからな。
「とりあえずワインだ。それとホットミルクが1つ」
モモちゃんに視線が合ったようで、急いで注文を1つ追加している。
それがおもしろかったんだろう。シュタインさんとヒルダさんは苦笑いをこらえている。
「忘れたわけじゃないぞ。どうしてもなじみの宿に来ると、こんな言葉が出るんじゃ」
丸い目ををしてガドネンさんを見ていたモモちゃんに、言い訳をしているところが笑えるんだよな。
俺まで笑いを堪える羽目になってしまった。
まもなく運ばれてきたカップを掲げて乾杯をすると、一口グイッとワインを飲む。少しずつこの世界に慣らされてくるのが自分でもわかるようだ。
こんなに酒は飲めなかったんだが、ワイン1カップなら飲めるようになってしまった。
残りんワインをちびちびのみながら、シュタインさんの話を聞く。
やはり、軍の食料移動の護衛をすることになったようだ。通常なら軍で護衛部隊を編制するのだが、今回は間に合わなかったらしい。
「それでも御者2人は兵士だ。荷馬車12両でやって来るらしいから2個分隊の兵力になる。俺達が入れば3個分隊になるはずだから護衛としてはそれ程苦にはならないだろう」
「それにしては長いことギルド長と話をしていたわね?」
「北の洞穴の怪物の話をしてきた。一応急所を教えて貰ったぞ。陸生クラウケンのきゅ所はアオイの考えた通り、目の奥らしい。巨大な芋虫は頭を狙えば良いそうだ」
「一目見てアオイは急所を見極めてるんだからたいしたものね」
「それもある。それに人間族で魔法を5回しか使えぬとはギルド長も不思議そうな顔をしていた。やはり人間族のようであっても種族が異なるのかも知れんな」
「良いんじゃない。別にこだわる必要はないでしょう? 今まで通りで良いのよ。見た目では分らないんだから人間族と思わせておけば良いわ」
「魔族でなければ問題ないぞ。傭兵にはいろんな種族が参加しておるからな」
「俺もそれで良いと思ってる。アオイは俺達アビニオンの仲間だからな。そうそう、早めに渡しておくぞ。依頼の分配だ」
俺とモモちゃんで240Lになった。ワシも渡しておくぞとガドネンさんが配ってくれたのはガトルの毛皮の代金だろう。2人で80Lは意外と多いぞ。
「幌馬車の床に敷く毛皮が2枚と、アオイに渡す大きな毛皮だ。あれに包まるだけでも温かなはずじゃ」
敷物は1枚持っているんだけど、毛布代わりになるんだったらさらに暖かく過ごせそうだ。
「軍の荷馬車の到着は4日後だ。りーざ、宿泊日数を変更しといてくれ。丸々3日は体を休めれば良い」
「ガドネンさん。俺の長剣を鍛冶屋に打ち直してもらうには日数が足りませんか?」
「すでに形が出来ているから、2日もあれば十分じゃ。研ぎをしても3日は掛からんぞ。打ち直すのか?」
俺の持っている長剣は魔族の落とし物だ。シュタインさんの長剣より20cm程短くて、少し反りのある片刃なのだが……。
「剣の幅を三分の二にしてソリはそのまま、全体としてはこんな形にしたいんですけど……」
日本刀の形を説明するのは難しかったが、ヒルダさんが貸してくれた筆記用具を使って形を描き説明してみた。
「変わった形だが、突きに特化しているようにも思えるな。断面はこんな形で、溝があるのか……。ドワーフの腕の見せどころではありそうじゃ。酒を1ビンで良いぞ」
ガドネンさん自らが打ち直してくれるってことか?
ありがたく礼を言って背中の長剣をガドネンさんに手渡した。
そんな事が初日にあったけど、この村でもう一つの作れるかどうかを確認したのが携帯用のコンロだ。
友人にワカサギ釣りに使うと言う者を見せて貰ったけど、今思えばもっと良く見ておくべきだった。
それでも、直径20cm程の金属管を2重にして作って貰う事ができた。
銀貨1枚になってしまったけど、長い目で見ればこれも役立つはずだ。二重の金属管の内側で炭を燃やすから、外側の金属管はそれ程熱くならない。たくさんの通気口を空けてるのが良いみたいだ。
次の依頼に向けて色々と準備をした最終日に、ガドネンさんが打ち直した長剣を渡してくれた。お礼に約束通り酒を1ビン進呈する。
問題は、長剣のケースが革製だと言う事だ。何とか木製にしたいところだが、直ぐには無理だろう。
しばらくはこのまま使う事になるが、打ち直す前に比べて握りこぶし1つ分程刀身が伸びていた。重さは変わりないが柄は少し伸びた感じだな。柄に巻かれた紐は前と同じく砂蛇の皮だ。
「気に入らなければもう一度打ち直してやるぞ。やはりリーデルの持ち物だ。鍛えるほど粘りが出るぞ」
「ありがとうございます。これなら使い易そうです」
俺の言葉に笑顔で頷きながらワインを飲んでいる。
まだ夕食前なんだけどね。
「そうなると私の片手剣もリーデルから奪いたくなるわね」
「昨年はやって来たが、次が来るのはしばらく先になるじゃろう。何といっても軍があの洞窟に進駐するのじゃからな」
ある意味、運が良かったのかも知れない。
欲しい時にリーデルの襲撃に出くわせたと言う事になる。その上、リーデルが必ずしも魔族の鍛えた長剣を持つとは限らないらしい。人を襲って手に入れた武器もかなり多いと言う事だ。




