2-08 ビーゼントからエバースへ(2)
朝方まで世間話をしながら時を過ごす。結局、何も出てこなかった。
ちょっと、肩透かしを食らった感じもしないではないが、来ないに越したことはない。
「先日、あれだけ倒したのだ。やはり再編成に引き上げたのだろう。ゴブリン達は散ってしまったに違いない。小規模の集団ならば、それほど脅威にはならんだろう」
シュタインさんの言葉に納得してる俺達だが、襲ってくる者がいなくとも、依頼金に変更は無いらしい。
襲ってくる相手によっては、この間のリーデルのように武器等を売った余禄があると言うのも傭兵団のおもしろいところだ。
野犬だと、牙を取ることになるんだろうが、そうなると、ゴブリンが一番余禄の無い相手と言う事になりそうだ。
商隊の作ってくれた朝食を頂き、早めに広場を出発する。昼過ぎには森を抜けられるだろう。それまでは緊張が続くことになる。
荷馬車の荷台で俺達を見ているモモちゃんが、たまに森の奥を眺めると、ドキっとする。それでも直ぐに視線を戻すから、周囲の監視をモモちゃんなりにしてるんだろうけど、けっこう心臓に良くないぞ。
昼を過ぎて森を抜けた時は、ほっと胸をなで下ろしたい気分になった。
1時間程歩いて今夜宿泊する広場に入る。
森を抜ければ、夕食後の焚き火の番は商隊がやってくれる。俺とモモちゃんの順番は2番手だから数時間以上睡眠が取れるのが嬉しくなる。
翌日。街道を西に向かった俺達は、昼前に街道の三差路を南へと進路を変える。
この道は初めてだな。最初の休憩を取った場所から、遠くにぽつんと村が見えた。
簡単な昼食を取って先を急ぐ。
今日は、日のある間に村に到着できるだろう。
村のギルドで受け取った分け前はモモちゃんと一緒で140L。ちょっと少ないのは、護衛の距離が短いせいもあるんだろう。
雑貨屋で財布代わりの小さな革袋を手に入れ、モモちゃん用に駄菓子も買い込んでおく。
宿の夕食時に俺達の次の仕事がシュタインさんから告げられる。
今度は、この村からドーガントへの商隊を護衛するらしい。アビニオンは元々ビーゼントとアーベルグの間を主に護衛していたと言っていたから、ある意味ホームグラウンドと言う事になるんだろうな。
「荷は、綿花だそうだ。かさばる荷物だが、重さはそれ程でも無い。今度はのんびりと荷馬車に乗っていけるぞ」
「綿花ならクッションの上にいるようなものよ。腰も痛くならないから、疲れも少ないわ」
シュタインさんの話にヒルダさんが補足してくれる。
綿花というからには綿って事だろうから、確かに袋に腰掛けたら沈む位のクッションになりそうだな。
「気を付ける事が何かあるんでしょうか?」
「火に気を付けねばならないが、アオイはパイプを使わないからあまり心配はない。敵が出て来ても、直ぐ近くで火炎弾を使うのは厳禁だ。少なくとも20S(6m)以上は離れた敵を狙う事だ」
燃えやすいから、火に気を付けろということだろう。モモちゃんに理解出来るかな?
後で距離を実際に教えなければならないだろうな。これ位でないと使っちゃだめだよと教えれば分かってくれるだろう。
翌日、村の広場に向かうと、10台の荷馬車が止まっていた。9台が綿花を満載にして、1台は牛の飼料や水、商人達の家財道具が積んであるようだ。
「アオイ達は殿だ。モモ、何かあれば笛を頼むぞ!」
シュタインさんの指示に俺とモモちゃんが頷いて後ろの荷馬車に向かった。
なるほど、3m程の高さに積み込んであるな。落ちないように、帆布のようなシートを被せ、ロープで固縛してある。後ろの方が少し低くなっているのを見付けたモモちゃんがぴょんと荷台の枠に飛び乗り、低くなった積荷の場所によじ登っていく。
あれなら隣に俺も座れそうだな。
よいしょっと言いながら、モモちゃんの隣に腰を下ろす。
一応、クロスボウと弓を用意しておけば、十分だろう。杖は荷台の隙間に突き差して置いた。
「出発するぞ!」
商隊の隊長には会わなかったけど、野太い声だ。筋肉質なんだろうか?
ガラガラと敷石を木製の車輪が音を立て、荷馬車の一団が村の門を出ていく。
殿の俺達の乗る荷馬車も動き出した。
門を出る時に、モモちゃんが門番さんに手を振ると、向こうも手を振ってくれる。そんなちょっとした行為が嬉しくなるな。
ちょっと日差しが強くなってきたから、モモちゃんは深めに麦わら帽子を被っている。顎紐もしっかりと結んであるから、風が出て来ても飛ばさせることは無いだろう。俺も帽子を目深に被る。ついでにバッグからサングラスを出して掛けた。
スポーツサングラスだから色は濃くないが、紫外線の吸収率はかなりのものらしい。
夏が近づいているんだろう。これから暑くなると、どんな服装になるんだろう?
こんな仕事だから短パンという訳にはいかないだろうが、夏用の服装もあるんだろうな。
その後にやって来るのが秋、更に冬となる。
秋前には毛布を買えと言っていたようだから、この辺りはこれ以上暑くならないのかも知れない。その分、冬は厳しいものになるはずだ。
モモちゃんはだいじょうぶかな? 冬生まれだけど、冬は母猫と一緒に暖かく暮らしていたはずだ。
1時間程の間隔で休憩を取り、もうすぐ東西に延びる街道へ到着する手前の広場で昼食を取る。
ハムサンドにスープはお決まりの昼食のようだ。1時間程休憩して、三差路を西に曲がる。しばらく進むとアドネン村に至る三差路を過ぎる。後2つ林を過ぎれば今夜の宿になる広場に着くぞ。
広場に着くと、直ぐに林から焚き木を取って、焚き火を作る。
森の手前での野宿だから、俺達の焚き火の番は深夜からだ。こんな護衛なら楽なんだけどね。
月明かりの中、俺達は焚き火の周りでガドネンさんの昔話を聞いている。
モモちゃんがその話に表情豊かな反応を示すから、ガドネンさんの身振り手振りが見ていても楽しくなってしまう。
シュタインさん達が苦笑交じりにパイプを楽しんでいるのも、ガドネンさんは気にならないらしい。
ただ、少し気になる話もあった。ドラゴンクラスの傭兵は、本当にドラゴンを倒せるらしい。この世界にはそんな存在がいるのだろうか?
確かに、モモちゃんみたいな存在もいるし、魔法もある。それに俺達を襲ったリーデルはリザードマンそのものだ。出来ればお目にかかりたくないし、そこまで傭兵レベルを上げる必要も無いだろう。
俺達の所属するアビニオン傭兵団はガトルクラスということだ。ガトルとは灰色狼の事らしいから、狼の群れなら相手に出来るって事なんだろうな。
「ドーガントとアーベルグ間の仕事がほとんどだったのだが、最初の仕事はアオイには酷だったかも知れないな」
「でも、リーガンをリーザより早く見付けたのよ。私は良い仲間を得たと思ってるけど?」
「前にいてくれると安心して弓が引けるわ」
「粗削りではあるがの。だが、ワシ等もだいぶ助かっておる」
ガドネンさんの言葉に、シュタインさんが頷いている。
「やはり、前衛3人は安心できる。後衛が弓2人というのも心強い限りだ。森を2つ越えられるだけの戦力になったということになるな」
シュタインさん達は俺達の参加を喜んでくれているようだ。
あのリザードマン達は少しヤバかったけどね。それでもモモちゃんの能力をちゃんと評価して、1人の傭兵として受け入れてくれることが俺には嬉しい限りだ。
俺に万が一の事があっても、この人達ならモモちゃんを託せそうな気がする。
翌日、朝食を早めに済ませて街道を森に向かう。殿は俺だけど、モモちゃんが荷馬車で周囲を見張ってるし、俺の前を歩くミーナさん達2人も左右に気を配っているようだ。
俺は、勘も働かないからのんびりと荷馬車の後を付いて歩く。
クロスボウは荷馬車に乗せているが、太い杖を持っているから何か出ればこれで叩けば良い。
「今のところは何も無さそうね?」
「鳥の声もするわ。獣も近くにはいないようね」
殺気を持った者が近くに入れば、鳥は逃げてしまうって事か。夜の虫の音もそんな感じなんだろう。
珍しいさえずりに思わず声の主を探してしまうんだけど、巧妙に隠れてるのか、まるで姿が見えないんだよな。
そんな感じだから、森に入って2時間もするとモモちゃんは荷台の上で横になってしまった。荷物の間に挟まっているから落ちることは無いと思うけど……。
前を歩く2人に会話が無くなった。
やはり緊張しているんだろうな。俺も後方を振り帰りながら荷馬車の歩みに付いて行く。
昼食も食べずにひたすら歩いて日の高い内に森の出口が見えた。
ホッと胸を撫でる。
どうやら今日の森は平穏のようだ。
広場に到着すると、昼食を兼ねた夕食の準備が始まった。
出来上がるまでの間は俺達が仮眠を取れる時間だ。
翌日は、少し遅めに広場を出る。
ここからなら夕暮れ前に村に着くことができるからな。
途中で昼食を頂き、予定通り夕暮れ前に村の広場に到着することができた。
ギルドのテーブルで、シュタインさんが手続きを終了するのを待つ間に、リーザさんが宿を探してくるのもいつもの通りだ。
シュタインさんがテーブルに着いてしばらくすると、リーザさんがギルドに入って来た。どうやら今夜の宿が決まったらしい。
今度の報酬は、2人分で120L。距離が短いからこんな物なんだろう。
6人で今夜の宿に向かう。
「次の依頼は、明日の夜に着く商隊の護衛だ。行先はアーベルグ村の南のテレス村までになる」
「となると……、モスデール荒野を越えるのか?」
「野犬の棲みかだと聞いたわ」
「商隊の規模はどれ位なの?」
食事をしながらのシュタインさんの話では、商隊の荷馬車は30台を超えるらしい。そんな商隊だから、常時1つの傭兵団が付いているのだが、要衝を越える時には臨時に他の傭兵団を雇うらしい。
ある意味、臨時雇いになるんだろうな。




