2-09 荷馬車30台の護衛(1)
翌日、リーザさんと一緒に武器屋に向かう。野犬の群れが大きいと、後方からの支援が是非とも必要という事らしい。
モモちゃん用の矢はシュタインさんがアビニオンの資金から出して貰えるけど、俺のボルトは対象外らしい。前回作ったのが10本あるからそれで良いと言う事だろう。
あまり撃てるものでもないから、それで十分だろう。元々20本以上持っていたからね。
前と同じ店で、12本ずつ矢を買い込むと、次は雑貨屋に向かう。
また、飴玉を買うのかと思ったら、今度はお茶の葉を買い込んでいる。深夜に飲むから、確かに必要になるんだろうな。
この辺りは夏でもそれ程暑くならないらしいから、服はこのままで十分だそうだ。
薄手の毛布を1枚買い込んでおく。ポンチョに包まるよりも寝心地は良いだろう。支払いは銀貨1枚だったから、散財ということにはならないはずだ。
4つ折りにして丸めると、魔法の袋に詰め込んでおいた。
昼食まで村を3人で散歩を楽しみ、簡単な昼食が終わると、リーザさんはギルドの裏庭でモモちゃんの弓の腕を確かめることにしたようだ。
20m程なら当たると言ってたけど、野犬にはどうなんだろうな?
「あの的の真ん中を狙うのよ。この辺りから矢を5本放ってみて」
「あの黒いところにゃ? だいじょうぶにゃ!」
軽い返事をしてモモちゃんが弓を引き絞る。
トン! というような音を立てて矢が放たれると、真ん中の黒所に突き刺さった。
距離は30mは無いんじゃないかな。20mというところだろう。
次々と矢が放たれるけど、全て的の中心にある直径20cm程の黒い部分に当たったぞ。
リーザさんが目を丸くしている。
的から矢を回収してきたモモちゃんを、少し後ろに下がらせる。今度は30mというところかな?
さすがに30m程の場所からでは、黒い中心を半分以上外しているし、どうにか的に刺さってる感じだな。1本は的の下に落ちてるぞ。
「近距離射撃なら、名人クラスだわ。まだ腕力が無いから仕方ないけど、将来が楽しみね」
そう言ってモモちゃんの頭を撫でてるから、目を細めて嫌がってるぞ。
「だけど威力はあまりないんだろう?」
「80D(24m)なら十分に役立つわ。50D(15m)ならガトルでも倒せそうよ」
確か、1Dは30cmと言う事だから、20m以内と言う事になるんだろうな。それでも、あの曲ったナイフで相手をするよりは遥かにマシだ。
モモちゃんの近くまで、敵が近付かないようにすれば良いだろう。
早めに宿に戻り、皆と一緒に夕食を頂く。
明日は早めに村を出発するらしい。
翌日は朝食をかき込み、シュタインさんに連れられて広場に向かう。
そこには、たくさんの荷馬車が止まっていた。
30台って言ってたけど、さすがにこれは圧巻だ。
「こっちだ!」
俺とモモちゃんがボケ~と、呆れた表情で荷馬車の群れを眺めていると、左の方からシュタインさんの呼ぶ声がする。
片手を上げて了解を示すと、数人が集まっている場所に歩き出した。
たぶん同業者なんだろうな。俺と同じ人間族とネコ族、それに尻尾を振っているのは犬族なのかな?
「だいぶ若いのを仲間にしたな。俺達はレクタス傭兵団だ」
「シュタインさんのところで教えを受けてます。アオイにモモです」
こういう稼業だから、挨拶はキチンとしないとな。モモちゃんも俺と一緒に頭を下げてるぞ。
「若いが腕は確かだ。アオイは片手剣に代わった弓を使う。200D(60m)で狙いを外さん。モモは小さいが魔法と弓を使える」
「中々の拾いものだな。それなら役立つだろう。あのモスデール荒野は野犬の巣だからな」
「どこに乗れば良い?」
「後ろを頼む。20台目と殿だ」
シュタインさんがレクタス傭兵団の男から俺達に体を向けた。
「いつも通りだ。リーザ、モモ達を頼むぞ」
「たっぷり矢があるから大丈夫よ。見掛けたら、笛で合図を送るわ」
リーザさんの言葉に頷いて、モモちゃんの頭を撫でると荷馬車の後方に歩き出した。
俺達は殿だから、一番後ろって事になる。
リーザさんの後に付いて広場をぐるりと一巡りするように最後尾の荷馬車を探す。
「すみません! この荷馬車が殿ですか?」
「そうだ。お前さん達が護衛かね? ちびっ子もいるようだが弓なら頼もしいな。荷台の後ろは水タルと飼葉だ。飼葉の束に腰を下ろしてれば楽だぞ」
俺が片手を上げて了解を示すと、40代前後の商人が笑って片手を上げてくれた。
少し大きめの荷台は、飼葉と水タルらしいから軽い荷だろう。
モモちゃんを荷台に乗せてあげると、直ぐに飼葉の四角い束に腰を下ろして、弓を下している。
その両側に俺とリーザシャさんが腰を下ろした。すでに、ガラガラと荷馬車の進む音がするが、この荷馬車の数だからな。
俺達の乗った荷馬車が動くまではしばらく掛かるに違いない。
だいぶ時間が過ぎたころに、俺達の乗った荷馬車が動き出した。
「きっと一番先に出た馬車は、休んでる頃にゃ」
そんなモモちゃんの言葉に俺とリーザさんが顔を見合わせて微笑む。
確かにそんな感じだな。少なくとも20分以上の時間差がありそうだ。護衛は大変な話だぞ。
「アオイも準備しておくのよ。だいたい、襲うのは真ん中か一番後ろって相場が決まってるわ」
「分かりました。準備だけはしときます」
杖はモモちゃんのと一緒に、干し草の束に差し込んでおく。クロスボウを組み立てて後ろの干し草に乗せておけば落ちることは無さそうだ。ボルトケースも足元に置いておく。荷台の周囲は板で囲ってあるから荷物が落ちる事は無い。
段々と村が遠くになって来た。昼食は荷台の上で取ることになりそうだが、森の手前の広場にこれだけの荷馬車が入るのだろうか?
そんな心配をしていると、リーザさんがモスデール荒野の話をしてくれた。
たぶん退屈なんだろうな。それにリーザさんもモスデール荒野に行くのは初めてらしい。
「モスデール荒野はね。何にもないとこなんだけど……」
どうやら、乾燥した大地らしい。たぶん地下水位の低い土地なんだろう。
棘のある太った木があると言ってたのはサボテンの一種なんだろうか? それともそんな灌木があるのかも知れないな。
荒れ野の入り口と出口手前に、野宿する場所があるらしい。森のような囲いも無く、何本かの灌木が目印ということだ。
たっぷりと水タルが積んである理由はそれなんだろうな。となると、途中で焚き木も積んでおかねばなるまい。
「野犬の群れと、ガトルの群れがいるらしいわ。野犬は精々20匹位らしいけど、ガトルは更に大きな群れを作るらしいわよ」
「それで、矢を買い増ししたんですね」
「モモも頑張るにゃ!」
モモちゃんの声に目を細めて、頭を撫でで上げている。
俺の方は精々2回程ボルトを放てる程度になりそうだ。杖を持って2人の壁になれば上手い事行くんじゃないかな?
革の上着は丈夫そうだから、噛まれた位で簡単に穴が空くとは思えない。
昼近くになって、十数分の少し長めの休憩があった。
水筒の水で、ハムサンドを流し込む。今日のハムは塩味が効いてるな。
昼が過ぎると、荷馬車の揺れで眠くなる。
すでにモモちゃんは夢の中だ。
前に貰った干し肉を、ナイフで削って噛んでいると眠気が少し遠ざかる。顎を動かすと眠気が覚めるのは本当らしい。
夕暮れ前に広場に着いたものの、やはり何台かははみ出してしまう。牛だけを中に入れて、荷馬車で広場を塞ぐようにして俺達は休むことにした。傭兵がたくさんいるから、いつもの2倍は眠ることができるな。
翌日。荷馬車の上で朝食を取る。すでに、先頭の荷馬車は森へと街道を進んでいったようだ。
車列が長いと、この時間差が問題になる。
食事が終わったところで食器を纏めて、モモちゃんが【クリーネ】で綺麗にしてくれた。
お茶を飲んでいる俺達とは関係なしに、荷馬車が急に歩き始めた。
森の中は危険だから、早めにお茶を飲み切って周囲の監視を始める。
「これだけ大勢だと襲ってくる相手も限られるわ。盗賊や魔物はやって来ないはずよ」
「来るとすれば獣と言う事ですか?」
俺の問いにリーザさんが頷いた。
要するに、知恵のある連中はおそってこないということなんだろう。となれば、野犬や狼に似たガトルということになりそうだ。
「矢がたくさんあるにゃ。いっぱい来ても大丈夫にゃ!」
「そうね。私も頑張るわよ!」
モモちゃんと一緒に盛り上がってるけど、動いてる相手にどれだけ当てられるかは、やってみないと分からない。
リーザさんはモモちゃんを同族と思っているようだ。いつも妹のように面倒を見てくれる。
3人で周囲を警戒してるんだけど、何も出てこないようだ。
モモちゃんに飴玉を分けて貰って、のんびりと荷馬車に揺られながら森の街道を進んで行った。
夕暮れ前に森を抜けて街道傍の広場に入る。
俺達が到着する頃には、焚き火がいくつか焚かれていた。
シュタインさん達の座っている焚き火に腰を下ろすと、ヒルダさんがお茶のカップを渡してくれた。
「とりあえず難所の1つは越えたな。明日はアーベルグの村でゆっくりできるぞ」
「やはり大勢だと、盗賊も出んわい。だが、明後日はそうもいかん」
シュタインさん達が、俺達に注意してくれる。やはり最大の難所は明後日以降になるんだろうな。
背中の長剣を使う事になるんだろうか?
モモちゃんも心配そうに俺を見上げている。




