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偽聖女として断罪されましたが、隣国で魔境の浄化につとめます!【9/27完結予定】  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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44話 マリア・リアは命じる

「あなたのせいで、魔境が……」


 そう。

 この数年、ミ(・)リ(・)オ(・)シ(・)ア(・)王(・)国(・)は(・)聖(・)女(・)不(・)在(・)の状態だった。


 代わりに。

 聖モンテーニュ侯国には、まだ聖女の力を宿したままのアルテイシアがいた。


 魔獣はその気配に、異変を感じ取ったのだろう。怖気てミリオシア王国に移動した。


 だが、ミリオシア王国には、魔獣を倒せる聖騎士もいない。

 結果的に。

 ミリオシア王国の魔境が広がった。


「きっと、おねえさまは聖女の力を独占しているのよ」

 マリア・リアはわずかに目を細め、アルテイシアを見つめた。


「それは歴代聖女から受け継いだもので……。おねえさまはそれを独り占めしているんだわ」

「そんなものは、ありはしない。すべてはあなたの努力不足よ。あなたが手順を踏んで聖女として生活していたら、わたしから……いえ、歴代聖女から、その力は受け継いでいたはず」

「いいえ。おねえさまがわたくしに渡したくないだけ」


 マリア・リアは首を横に振り、嫣然と笑った。


「だから、おねえさまの命が潰えたら、わたくしにその聖女の力が継がれるに違いないわ」


 アルテイシアは絶句する。

 わずかに口を開いたまま、実妹を見つめた。


(まるで違う生き物みたい……)


 幼い頃に別れた妹。

 愛らしく、ほほえましく。両親や周囲から惜しみない愛情を与えられて育ち、王太子にまで欲された娘。


 だが。


「ねぇ、そうでしょう。王太子殿下」

「マリア・リアが言うのならそうだろう」


 微笑みあう二人は、魔獣よりも恐ろしい。


「近衛。そう、あなたよ」

 マリア・リアはバルコニーの隅で待機する近衛のひとりを指さした。


「この逃亡した偽聖女の首を刎ねなさい」

「え」


 さすがの近衛もあっけにとられた顔でマリア・リアを見る。

 彼女は美しい笑みを浮かべたままうなずいた。


「首を刎ねるの。その腰の剣は偽物? 違うでしょう?」

 近衛はおじけたように一歩退く。そして、助けを求めるように王太子を見た。


「なにをしている。マリア・リアの言う通りに」


 だがどこか愉快そうにユーウッド王太子が告げる。

 近衛は周囲の同僚にすがるような眼を向ける。


 意を汲んだのか。

 それとも、王太子の命に背き、罰せられることを気にしたのか。


 別の近衛が進み出て、抜刀した。

 アルテイシアは身体をこわばらせ、近づいてくる近衛を見る。


「知らないぞ」

 ウルバスが唐突に口を開いた。


「ぼくはこのお嬢ちゃんを間近で見てきた。彼女には不思議な力がある。聖女かもしれないのに殺したら、祟られるのはあんただぜ?」

 抜刀したものの、近衛は明らかにひるんだ。


「なにをしている。早くしろ」


 王太子が舌打ちする。

 近衛は大きく息を吸い込み、刀を振り上げた。


 曇天の下、刀身がわずかな光を孕んできらめく。

 アルテイシアは息を止めた。


 同時に、パンっとなにかが破裂するような音がする。目を見開いた瞬間、ウルバスに横から体当たりされ、バルコニーに倒れこんだ。


 悲鳴が上がる。

 顔を起こした。


 刀を振り上げていた近衛の腕から血が噴き出し、痛みにのたうちまわっている。


 パンっ。

 二度目の破裂音。


 地面に横たわるアルテイシアに近づこうとした近衛が吹っ飛んだ。


「狙撃だ!」

 アルテイシアを突き飛ばし、自身も床に倒れたままのウルバスが怒鳴る。


「撃たれるぞ!」


 ウルバスの言葉はまるで予言のようだ。

 倒れた近衛が這う。その数センチ先に火花が散る。


「殿下をお守りしろ!」

「聖女を中に!」


 近衛たちは王太子とマリア・リアに覆いかぶさるように護衛すると、屋内へと誘導する。


「その者たちを逃がさないで!」

 マリア・リアがアルテイシアをにらみつけて叫ぶ。


「連れてくるのよ! 早く!」


 怒鳴られ、近衛がふたり、アルテイシアとウルバスを引き起こす。

 その近衛の頬に血が飛ぶ。

 的確に狙撃されている。


「ひ……!」

 近衛は迸りそうな悲鳴を飲み込み、アルテイシアを盾にした。


「うへぇ……男爵、来たんだぁ……」

 同じように盾にされたウルバスが、うんざりした声を漏らす。


「男爵? レオハルトさま?」

 盾にされながらも、屋内に引きずられるアルテイシアが尋ねる。


「ほかに誰がいるのさ。こんなに的確に狙撃できる人がさ」

 あーあ、とウルバスがため息をもらした。


(レオハルトさまが本当に……?)


 助けに、来てくれたのだろうか。

 とくり、と心臓が高鳴る。


「早く来い!」


 糸杉のほうに視線を向けたが、すぐに近衛たちに囲まれ、修道院の中に連れ込まれた。


「大変です!」

 客室に飛び込んできたのは、修道士たちだ。


「この修道院を王立陸軍が取り囲んでいて……!」

「こ、この書筒を投げ込んでまいりました!」

「王立陸軍⁉」


 王太子ユーウッドが目を怒らせ、筒缶を奪い取る。

 中から丸められた文書を取り出し、確認をした。


「なにが書いてあるのですか?」

 マリア・リアがいぶかし気に問う。


「……父上がお怒りらしい」

 地面に文書を叩きつけ、靴で踏みにじる。


「数年前の体調不良に、わたしがかかわっているのではないかと。すぐに王城に来て説明せよ、とのことだ」


 アルテイシアは目を瞠る。


 そう。

 アルテイシアが偽聖女と断罪されたあたりのことだ。

 急激に王が体調を崩したことがあった。


(あれはまさか……)


 王太子が毒を盛ったのか?

 追及しようとしたとき、廊下からたくさんの足音が響いてきた。


「なにをしている!」


 近衛の一人が扉を開き、廊下に怒鳴る。

 アルテイシアも首を伸ばして廊下の様子を伺い見た。

 修道士たちが一斉に、逃げているのだ。

 近衛兵が修道士を捕まえ、「どうしたのだ」と尋ねる。


「と、投降するようにいま、王立陸軍が呼びかけています! いまなら攻撃はしない、と!」

「大砲が来ております!」

「我々は神に仕える身! あなたがたとはなんの関係もございません!」


 そういって腕を振り払い、僧服をひるがえして1階のほうに駆けていく。


「いかがいたしますか、王太子」

 さすがに大砲と聞き、近衛兵たちも青ざめている。


「……出るぞ」

 ぼそり、とユーウッドが言う。


「いいか。ここには王太子などいなかった。痕跡はひとつも残すな」

「承知しました」


 ホッとした表情で近衛たちはうなずき、部屋を出ようとしたのだが。


「待って」

 マリア・リアが制した。


「このふたりは閉じ込めて」

 細く、しなやかな指でアルテイシアとウルバスを指さす。


「そして火を放って」

 にっこりと微笑んだ。




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