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神を殺す王 ―神武東征ダークファンタジー―  作者: 水前寺鯉太郎
神軍戦争

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第59話

勝利の咆哮が、一瞬で乾いた悲鳴へと変わった。

 砕け散った八咫鏡ヤタノカガミの残骸を縫って、天の頂から降り注いだのは、もはや光ですらなかった。それは、大気を、音を、そして「夜」という概念そのものを焼き剥がす、白銀の烈火だった。

「……、……っ! くるな……、……くるなああああッ!!」

 先鋒で暴れていた神兵たちが、自らの主が放った無慈悲な熱量に焼かれ、一瞬で物言わぬ灰へと還る。人間軍も、神軍も関係ない。アマテラスにとって、地上にあるものはすべて、等しく「焼き払われるべき不純物」に過ぎなかった。

「……、……。……アスクレーピオスッ!! 結界を……!!」

 イワレビコが叫ぶ。

 だが、本陣を守っていた医神アスクレーピオスの顔は、かつてないほど蒼白だった。彼の持つ杖の蛇が、あまりの熱に耐えかねて石のように固まり、砕けていく。

「……無理だ。私の『医術』は生命を繋ぐもの。……だが、あの太陽は……生命の根源を、……『情報』ごと消滅させようとしている……ッ!!」

 アスクレーピオスの医療結界が、ガラスが割れるような音を立てて崩壊した。

 再び襲いかかる四十度超えの酷暑。いや、今度は五十度、六十度へと、体温を瞬時に超えて上昇していく。

 空を覆っていた「影」が、外側からボロボロと燃え落ちていく。

 スイゼイが命を削って作り出した夜が、アマテラスの「直視」によって暴かれ、剥き出しの戦場に再び殺人的な日光が突き刺さる。

「……、……。……あ、が……」

 ニニギが、焼き付く盾を抱えたまま膝をつく。彼の隣では、イワナガヒメが自らの「岩の腕」で日光を遮ろうとするが、神の熱は岩の組成さえも変え、彼女の皮膚を溶岩のように赤く溶かし始めていた。

「……、……。……よくやったわ、泥の王」

 天の裂け目。

 砕けた鏡の向こう側から、ついにアマテラスの「声」ではない、「存在」が滲み出してきた。

 それは、美しい女神の姿ではなかった。数千の光り輝く翼を持ち、中心に漆黒の「虚無」を抱えた、巨大な光の怪物。

「……貴方が夜を望むなら、私は世界を『恒久の昼』にしましょう。……貴方の民が、一人残らず塵になるまで……私は瞬きさえもしない」

 アマテラスが、その無数の翼を一斉に羽ばたかせた。

 

 ――神権・【終焉の夜明け(アポカリプス・ドーン)】。

 空全体が、一瞬で「火の海」と化した。

 逃げ場はない。イワナガの岩壁も、磐井の陣形も、この全方位からの熱線には無力だった。

「……、……。……まだ……だ……」

 火の粉が舞う中、イワレビコが一人、前に出た。

 彼の黒い義手は、既に限界を超えて真っ赤に熱を帯び、内部の歯車が溶け落ちてドロドロと滴り落ちている。

 

「……アマテラス……、……。……お前が……世界を焼くというなら……」

 イワレビコは、折れかけた槍を自らの「義手の熱」で強引に繋ぎ合わせ、天へと構えた。

 彼の右目は、もはや何も見えていない。だが、心の底にある「海の底の冷たさ」だけが、彼を支えていた。

「……俺が……、……この熱を、全部……『飲み込んで』やる……ッ!!」

 王の決死の叫び。

 太陽の猛火が、イワレビコの一点へと収束し始めた。

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