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神を殺す王 ―神武東征ダークファンタジー―  作者: 水前寺鯉太郎
神軍戦争

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第57話

世界から色彩が消え、ただ「重さ」と「音」だけが支配する時間が訪れた。

 イワレビコが砕いた八咫鏡の破片が地に沈み、スイゼイの呪術が作り出した「偽りの夜」が深まる中、高天原の神兵たちは、かつてないパニックに陥っていた。

「……見えない。何も……何も映らぬ! 軍師殿、指示をッ!!」

 神軍の陣地では、光の加護を失った神兵たちが、暗闇の中で互いの剣を突き立て合う同士討ちが始まっていた。オモイカネの計算機システムは、視覚情報の消失により完全にフリーズし、天の軍勢はただの「動く肉塊」へと成り下がっていた。

「……、……。……機は熟した。……一匹も、逃すな」

 闇の底から、イワレビコの冷徹な号令が響く。

 ――先鋒:蹂躙の三柱。

 先陣を切ったのは、闇を苗床とする「隼人はやと」の長、ツチグモだった。

 彼の黒曜石の斧が、闇の中で音もなく閃く。

「……、……。……神様よ。……足元がお留守だぜ」

 視覚に頼らぬ「土の感覚」で神の喉笛を正確に断つ。

 その隣では、クマソタケルが野獣のような咆哮を上げ、折れた棍棒の破片で神の鎧を文字通り「粉砕」していた。

「……はははッ! 眩しくねえ神様なんて、ただのデカい豚だぜッ!!」

 そして、その背後にはイワナガヒメ。

 彼女が大地を踏みしめるたび、隆起した岩盤が神兵たちの退路を物理的に遮断し、暗闇の中に「死の袋小路」を作り出していく。彼女の「不変」の力は、混乱する神軍の動揺を一切受け付けない。

 ――本陣:裁きのことわり

 本陣では、**磐井造いわいのまつりごと**が、アポロンの僅かな残光を利用して、全軍の配置をチェス盤のように操作していた。

「……ニニギ殿、左翼の崩れた隙間へ。……王よ、中央の『核』が露出しました。……これより、全滅の円環を閉じます」

「……、……。……応よッ! 磐井、最高の采配だぜ!!」

 ニニギが、サクヤとイワナガ、二人の幼馴染から受けた「不滅の意志」を盾に宿し、闇を切り裂いて突撃する。彼の盾から放たれる熱量は、今や神を焼くための「黒い炎」へと変質していた。

 その中心、イワレビコ。

 彼は義手の左腕を地面に突き立て、周囲の重圧を吸い込み続けていた。

 

「……オモイカネ。……お前が計算できないのは、……死を恐れぬ者の『歩幅』だ」

 イワレビコが跳躍する。

 闇そのものが王の槍【天の沼矛】を包み込み、巨大な影の楔となって神軍の本陣へと突き刺さる。

 

 神軍第二次討伐軍、崩壊。

 光を失った絶対者たちが、泥まみれの人間たちに狩り取られていく。

 

 だが、その殺戮の喧騒を切り裂くように、天の頂から「冷たい白熱」が再び漏れ出した。

「……小賢しい。……影を深めれば、……光に勝てると思ったか」

 声と共に、闇の幕が端から「燃え」始めた。

 アマテラスが、ついにその「指」ではなく、「存在」の半分を地上へ降ろそうとしていた。

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