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神を殺す王 ―神武東征ダークファンタジー―  作者: 水前寺鯉太郎
神軍戦争

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第48話

海水が、肺を満たしていく。

 ニニギの視界は、自らの血とワタツミの放つ不浄な海水が混ざり合い、どす黒い赤に染まっていた。脇腹を貫いた水刃は、傷口から絶え間なく「呪いの塩水」を注ぎ込み、彼の内臓を内側から腐食させていた。

「……、……。……あ、が……」

「ニニギ! 意識を離すな! 磐井、奴を岩陰へ! 早くしろッ!!」

 ヘルメスが、音速を超える速度で戦場を駆け、ワタツミの追撃を「真空の壁」で逸らした。

 神軍の情報源であった彼には分かる。今、ニニギの肉体維持確率は三パーセントを切っている。

「……無駄だ。我が『溺死の呪い』は、対象が塵となるまで止まらぬ。……ヘルメスよ、貴様もその小賢しい足を止めて、海の底で眠るがいい」

 ワタツミが四つの腕を広げ、北の関門全体を巨大な「水の球体」に閉じ込めようとする。

 脱出不能の広域処刑。

「……、……。……私の前で、光を遮る権利が誰にあるというのだ」

 副将アポロンが、黄金の竪琴を真っ赤に熱く燃え上がらせた。

 彼が奏でたのは、鎮魂歌レクイエムではない。万物を強制的に活性化させる**「太陽の讃歌」**。

 ――神権・【コロナの抱擁】!!

 アポロンの背後から噴出した超高温の熱波が、ニニギの傷口に巣食う塩水を蒸発させ、強引に止血を施す。肉が焼ける凄まじい異臭。だが、その激痛こそが、ニニギを現世に繋ぎ止める唯一の楔だった。

「……、……。……がはっ……、……おっさん……熱い……熱すぎるぜ……」

「生きているなら文句を言うな、小僧」

 ヘパイストスが、ニニギの盾を自身の胸に押し当て、自らの神格コアを削りながら「不滅の熱」を注ぎ込み続けていた。

 

「磐井造! お前の『理』で、この熱を指向性を持たせて放て! ……ワタツミの『核』は、あの四つの腕が重なる中心にある!」

「……承知した! ……筑紫の全兵士、盾をニニギ殿に捧げよ! 反射角を計算しろ、一点に……一点に全ての光を集めるのだッ!!」

 磐井造の指揮のもと、生き残った人間たちがボロボロの盾を並べ、鏡の壁を作った。

 アポロンの光、ヘパイストスの炎、そしてニニギが命を賭けて保持した「神壊の盾」。

 

 それは、神と人間が初めて一つの「牙」となった瞬間だった。

「……、……。……ニニギ、まだ動けるか」

 ヘルメスがニニギの背中を支え、立ち上がらせる。

 ニニギは折れた右腕を盾に縛り付け、左手で磐井の剣を握った。

「……あたりまえ……だろ……。……殿が来るまで、……ここを……渡して……たまるかよォッ!!」

 ――総力反撃・【神滅の残光しんめつのざんこう】!!

 北の山々が、太陽が地上に降りたかのような白銀の閃光に包まれた。

 ワタツミの巨大な水壁が蒸発し、神の叫びが蒸気の中に消えていく。

 だが、その一撃の代償として。

 ニニギの身体からは、最後に残った生命の輝きが、静かに零れ落ちようとしていた。

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