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ひめみこ 第二幕  作者: 転々
『帰省』
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里帰り

 七月末のことだった。


「お盆に一度、墓参りに行くが、知も来るだろ?」


 夕食時、父親からそれを告げられた。


「日帰り?」


「いや、三泊の予定だ」


 両親ともに以前の職場にも挨拶に行く予定だ。役所にも用があるらしく、そのためには盆前に行く必要がある。

 知子自身にも行きたいという想いはあるが、気が進まないという気持ちもある。たとえ旧友と会っても、言葉を交わすことは出来ないのだ。


「それを受けとめるのも、神子としての成長だよ」


 昌の言葉を思い出す。

 神子となって別の人間として暮らさなくてはならないのは皆同じだ。その中にあって、両親とともに暮らせるのはまだしも『幸せ』と言えるかも知れない。しかしそれは、別の大変さと表裏一体だ。


 ここまで変わった神子は、自分以外にいないだろう。知子はそう考えた。




 郷里までは母の車だった。

 夕食後にチェックイン。郷里では数日のホテル住まいになる。ツインの部屋を、両親と姉妹がそれぞれ一部屋ずつ使う。以前は男部屋・女部屋だったが。

 宿はインターチェンジ近くのビジネスホテルだ。駅前という選択肢もあったが、そこだと意図せず旧友と遭遇する可能性もある。

 郊外型店舗の台頭で商圏が移動している現在、まして自動車での移動が前提なら、あえて駅前を選ぶ利点は少ない。




 入浴前、知子と美貴は散歩がてら買い物に出る。

 八月上旬は年間でも最も暑い時期だ。日が落ちてもうだるような暑さだ。


「知子ぉ、どっち行く?」


「ドラッグストア」


 高速のインター近くはコンビニ激戦区であると同時に、なぜかドラッグストアもある。


「えー、コンビニの方がいろいろあるよー。PBのデザートとか」


「高いよ」


「知子、お金持ってるのに、貧乏性」


「じゃぁ、コンビニ寄って、欲しいもの見てからドラッグストア。で、最後にどうしてもってなったらコンビニで」




 まずはコンビニに入る。今は買わないが、とりあえず欲しいものにアタリをつけておくためだ。

 田舎のコンビニだからだろう、知子の純粋日本人に見えない髪色に、年かさの店員が驚き混じりの視線を向ける。知子たちはそれを無視して店内を歩く。目的は冷たいコンビニスイーツだ。

 とは言え、コンビニに地域性はほとんど無い。地域限定商品も、冷たいスイーツには無い。この地域は全国的に見てもアイスクリームの消費量が多いはずだが、地域限定の甘みは無さそうだ。


 店内を一通り巡り、今度はドラッグストアへ向かう。店から店へのほんの数十メートルだが、エアコンに慣れた身に蒸し暑さが(こた)える。


 ドラッグストアでのお目当ても、やはりお菓子と飲料だ。しかし、そこには冷えた飲み物が無い。常温のそれらはコンビニの半額強で買えるが、冷えたものはコンビニに行く必要がありそうだ。

 一種の棲み分けだろうか?


 知子たちは、ペットボトルのお茶を選ぶ。


「美貴、コンビニで買うもの、決まってる?」


「冷たいチーズケーキかな」


「じゃぁ、美貴だけ、コンビニ寄ってってよ。

 私はここでアイス買うけど、ここで買ったもの持って入るわけにもいかないし、外で待ってたらアイス溶けちゃうし」


「んー、だったら私もアイスにしよーっと。

 チーズケーキは今度にする」


「いいの?」


「別にいい。もともとアイスかケーキかで迷ってたし、ケーキならどこでも買えるし。って()うか、ケーキはケーキ屋さんの方が美味しいし」


 結局、ドラッグストアで買ったのは、麦茶とほうじ茶、そしてアイスだ。重い荷物を持って宿に戻ることに。


 部屋に戻り、冷蔵庫にペットボトルを入れる。

 本当はシャワーを浴びてからアイスを食べたいところだったが、備え付けの冷蔵庫ではアイスが融けてしまうだろう。

 二人はベッドに腰掛けて食べ始めた。




 翌朝は両親とともに車で出る。母親はどうか分からないが、父親は前職の同僚と昼食会が決まっている。その間、二人は大型ショッピングモールで暇をつぶすことになる。


 車で送ってもらうが、モール自体は開店前だ。にもかかわらず、気温は既に三十度を超えているし、アスファルトからの熱気はそれを超えるだろう。二人は、既に開いているシネコンで開店までの十数分を過ごすことにした。


 映画を観るつもりはないが、二人は映画のポスターを順に見て歩いた。夏休みとあって、上映会場(スクリーン)のかなり数を、子ども向けのアニメに()いている。


 保育園児か小学校低学年か、ペンライトのようなものを持った女の子が、知子の方をチラチラと見ている。


「知子、アレだよ」


 知子は美貴が指差した方を見た。女児向けアニメ映画のポスターには魔法少女が。


「別に、似てないけど」


「変身前と似ているんだよ」


 知子が話を聞くと、どうやらそのうち一人の変身前と、髪の色が同じらしい。


「日本人なのにこの色?

 って言うか、なんで美貴、そんなこと知ってるの」


「いや、まぁ、何気なしに見ることが多いのよ。スポーツニュースは退屈なことが多いし」


 スポーツ女子らしからぬ美貴のもの言いに、知子は眉根を寄せた。中学生にもなって魔法少女は無いだろう。

 そう思いながら周囲りを見ると、女児からの視線が強い。


「似てるってだけなら、昌さんの方が似てると思うけど」


 知子は改めてポスターを一瞥する。水色の髪を銀色の直毛にすれば、昌と似ているだろう。


「確かにねー。

 胸は魔法()()じゃないけど」


 改めて二人はポスターを見上げた。 

 知子が言葉として出せないことを、美貴はあっさりと言う。

 美貴がそうなのか、それとも女性全般がそうなのか、判然としない知子だった。

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