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ひめみこ 第二幕  作者: 転々
『帰省』
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ショッピングモール

「そろそろ十時になるから、行こうよ」


 知子は、美貴の手を引き、入ってきたエレベータに向かう。


「わざわざ出なくても、フードコート通って行けるよ」


 階を降りると、モールのフードコートだ。

 知子はざっと見回した。都市部のそれに比べると店舗数は少ないものの、それでも地域随一の規模だ。やはり、いろいろな味を楽しめるつくりになっている。

 更に階を降りれば専門店街で、イタリアンに天ぷら、ラーメン、寿司店、カレー……。そこだけでなく、菓子屋やファストフード店もあるし、各階の吹き抜け付近には惣菜パンが美味しそうな店もある。

 未だ昼食には早いが、少し迷う。




「とりあえず、お土産物を選ぼうよ。

 買うのは帰りがけだけど、先に選んどかないと」


 美貴はクラスメイトにお土産を買う気満々で、和菓子や洋菓子を見て歩く。


「知子は、どんなのがいいと思う?」


「判んないよ。相手のことも知らないし。

 でも、この辺のお土産って言うなら、洋菓子じゃなくて和菓子だと思う」


「やっぱ、そうかぁ。

 でも、和菓子はイマイチ地味なんだよねー」


 二人はショーケースの間をぐるぐると回るが、決まらない。和菓子は、見栄えと比べて割高だ。


 知子も土産物を探す。昌から言われていたお茶だ。

 銘柄が分かっている一つは簡単に見つかった。淡い緑色のパック入りで、茎の部分を焙じたお茶なのに、葉のお茶より高い。

 しかし、もう一つが見つからない。

 緑茶で、白か淡い空色の缶入りらしいが……。


「知子は何探してるの?」


「お茶。でも銘柄も製造元も分からないんだって。

 比売神子様に淹れてもらった中でも、特に美味しかったらしいよ。

 この辺のお茶らしいから、探してるんだけど……」


「その比売神子様に訊いたら、分かるんじゃない?」


「そうなんだけどさ。

 昌さんでも比売神子様には気を遣うんだって。お茶の銘柄ごときのために電話するのは気兼ねだとかなんとか」


「へー。昌さんって、そういうの気にしなさそうに見えるのに」


「何かのついでに訊ければよかったんだけど、今は自分も産休中だから連絡するのは憚られるってさ。

 探してまでは買わなくていいよって言ってくれてるけど、いつもお世話になってるから」


「じゃぁ、後でお母さんに訊いてみたら?」


「うーん。それが確実かなぁ」




 美貴もおおよそのアタリは付いたようだ。二人は、階を上って服を見ることに。

 知子は未だ服選びの初心者だ。専ら着心地が優先で、自身を飾る、あるいは演出する服選びはまだまだだ。春を過ぎて、身体の線が出る服も選択肢に入れられるようになったのが、進歩といえば進歩だろう。

 美貴はそんな知子に服を選ぶ。

 ハンガーから外しては、知子に当てる。


「買っても荷物になるからいいよぉ」


「そんなこと言わないでさぁ」


「でも、今買ったら荷物になるよ」


「選んどくだけだよ。買うのは帰り今買って、コインロッカーでもいいけど」


 今買わないならと、一応は合わせてみる。が、試着まではしない。しようものなら、丸め込まれて散財しそうだ。




「あ……」


 知子はスマホを取り出した。


「何? 知子」


「お母さんもランチ行くって」


「お昼はテキトーに?」


「うん」


 時刻はそろそろ昼上がりだ。二人は本格的に空腹というほどではないが、混み始める前に昼食に向かう。


「知子は何食べる?」


「うーん、落ち着いて食べたいから、フードコートよりレストランの方がいいかなぁ」


 未だ、人混みでの視線が気になる知子だ。


「どんな店があったっけ?」


 二人はレストラン街へ歩いた。




「むー」


 知子は悩む。

 知治だったなら肉かラーメンだが、女子二人で入る店ではなさそうだ。かといってカレーやオムライスなど、大盛りご飯という気分でもない。定食屋さんは美味しそうだが、通路から店内が見通せてしまう。実際に見る人はいないだろうが、それでも知子の髪は目立つ。

 結局、消去法でパスタ屋さんとなった。もしかして、女子はイタリアンが好きなのではなく、仕方なく選んでいるのかも知れない。




 本格的に混み始める時間ではない。待つこともなく席に通された。

 メニューを眺めるが、好みの品はどれもニンニクがキツそうだ。午後も店を巡るとなると、ニンニク臭を散らしながらというわけにも行かないだろう。

 そして、パン食べ放題も避けるべきだ。食べ放題を選ぶと、ついつい貧乏性を発揮してしまい、一時間後には間違いなく後悔することになる。


「美貴はどうする?」


「私はコレ」


 トマトソースだ。メニューにはニンニクマークが付いている。実際のところ、カルボナーラやクリームソース系以外は、ほぼニンニクマークが付いている。


「臭わないかな?」


「気にしない、気にしない。

 パスタを食べる時点で確定だし、知子が思うほど周囲りは気にしてないって。

 まぁ、さすがにオイルソースは避けけど」


 知子の好みはオイルソースだった。


 散々迷った結果、知子は以前なら敬遠していたクリームソース系を選択した。


「へー、らしくないの選んだね」


「以前に比べると、こういう味も美味しく食べられるようになったから。さすがにカルボナーラやチーズ系は未だに苦手」


「チーズ系も美味しいと思うよー。でも、お腹に溜まりすぎるのが困るところだよね」




 食後は別行動とした。正直なところ、アクセサリーや雑貨の店を連れ回されても困る。

 知子の足は書店へと向かった。


 田舎の例に漏れず、この辺でも町の書店は絶滅しつつある。

 かつては駅の近くや、高校へ向かう道中にも書店があったようだが、今はシャッターが降りたままで、看板も朽ちつつある。

 大きい店舗を除けば、教科書の扱いがある店以外、ほとんどが閉店している。希少な――売れ筋以外の――本も置けるような店以外は、通信販売に押されてしまうのだ。


 店内を歩く。特に目を惹かれるタイトルは無いが、本屋の雰囲気自体は好きだ。ほとんどのお客さんは、立ち止まって思い思いの本を開いている。他のお店だったら走り回るような歳の子ども達も、ここではじっとしている。




 知子はコミックの売り場を歩きながら、背表紙を順に見る。

 かつて読んでいたものに手を伸ばしたくなるが、『知治』にとっても手に取るにはちょっと気恥ずかしい表紙だった。

 今の姿ではどうだろう。あるいはこの姿なら、絵ではなく純粋にストーリーを求めているように見えるだろうか。


 そういった葛藤を表に出すことなく、平積みの表紙や棚に並んだ背表紙を見るに留め、売り場を歩く。途中で何度か立ち止まり、三十分余りかけて書店を歩いたが、結局何も買わずに店を後にした。

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