ショッピングモール
「そろそろ十時になるから、行こうよ」
知子は、美貴の手を引き、入ってきたエレベータに向かう。
「わざわざ出なくても、フードコート通って行けるよ」
階を降りると、モールのフードコートだ。
知子はざっと見回した。都市部のそれに比べると店舗数は少ないものの、それでも地域随一の規模だ。やはり、いろいろな味を楽しめるつくりになっている。
更に階を降りれば専門店街で、イタリアンに天ぷら、ラーメン、寿司店、カレー……。そこだけでなく、菓子屋やファストフード店もあるし、各階の吹き抜け付近には惣菜パンが美味しそうな店もある。
未だ昼食には早いが、少し迷う。
「とりあえず、お土産物を選ぼうよ。
買うのは帰りがけだけど、先に選んどかないと」
美貴はクラスメイトにお土産を買う気満々で、和菓子や洋菓子を見て歩く。
「知子は、どんなのがいいと思う?」
「判んないよ。相手のことも知らないし。
でも、この辺のお土産って言うなら、洋菓子じゃなくて和菓子だと思う」
「やっぱ、そうかぁ。
でも、和菓子はイマイチ地味なんだよねー」
二人はショーケースの間をぐるぐると回るが、決まらない。和菓子は、見栄えと比べて割高だ。
知子も土産物を探す。昌から言われていたお茶だ。
銘柄が分かっている一つは簡単に見つかった。淡い緑色のパック入りで、茎の部分を焙じたお茶なのに、葉のお茶より高い。
しかし、もう一つが見つからない。
緑茶で、白か淡い空色の缶入りらしいが……。
「知子は何探してるの?」
「お茶。でも銘柄も製造元も分からないんだって。
比売神子様に淹れてもらった中でも、特に美味しかったらしいよ。
この辺のお茶らしいから、探してるんだけど……」
「その比売神子様に訊いたら、分かるんじゃない?」
「そうなんだけどさ。
昌さんでも比売神子様には気を遣うんだって。お茶の銘柄ごときのために電話するのは気兼ねだとかなんとか」
「へー。昌さんって、そういうの気にしなさそうに見えるのに」
「何かのついでに訊ければよかったんだけど、今は自分も産休中だから連絡するのは憚られるってさ。
探してまでは買わなくていいよって言ってくれてるけど、いつもお世話になってるから」
「じゃぁ、後でお母さんに訊いてみたら?」
「うーん。それが確実かなぁ」
美貴もおおよそのアタリは付いたようだ。二人は、階を上って服を見ることに。
知子は未だ服選びの初心者だ。専ら着心地が優先で、自身を飾る、あるいは演出する服選びはまだまだだ。春を過ぎて、身体の線が出る服も選択肢に入れられるようになったのが、進歩といえば進歩だろう。
美貴はそんな知子に服を選ぶ。
ハンガーから外しては、知子に当てる。
「買っても荷物になるからいいよぉ」
「そんなこと言わないでさぁ」
「でも、今買ったら荷物になるよ」
「選んどくだけだよ。買うのは帰り今買って、コインロッカーでもいいけど」
今買わないならと、一応は合わせてみる。が、試着まではしない。しようものなら、丸め込まれて散財しそうだ。
「あ……」
知子はスマホを取り出した。
「何? 知子」
「お母さんもランチ行くって」
「お昼はテキトーに?」
「うん」
時刻はそろそろ昼上がりだ。二人は本格的に空腹というほどではないが、混み始める前に昼食に向かう。
「知子は何食べる?」
「うーん、落ち着いて食べたいから、フードコートよりレストランの方がいいかなぁ」
未だ、人混みでの視線が気になる知子だ。
「どんな店があったっけ?」
二人はレストラン街へ歩いた。
「むー」
知子は悩む。
知治だったなら肉かラーメンだが、女子二人で入る店ではなさそうだ。かといってカレーやオムライスなど、大盛りご飯という気分でもない。定食屋さんは美味しそうだが、通路から店内が見通せてしまう。実際に見る人はいないだろうが、それでも知子の髪は目立つ。
結局、消去法でパスタ屋さんとなった。もしかして、女子はイタリアンが好きなのではなく、仕方なく選んでいるのかも知れない。
本格的に混み始める時間ではない。待つこともなく席に通された。
メニューを眺めるが、好みの品はどれもニンニクがキツそうだ。午後も店を巡るとなると、ニンニク臭を散らしながらというわけにも行かないだろう。
そして、パン食べ放題も避けるべきだ。食べ放題を選ぶと、ついつい貧乏性を発揮してしまい、一時間後には間違いなく後悔することになる。
「美貴はどうする?」
「私はコレ」
トマトソースだ。メニューにはニンニクマークが付いている。実際のところ、カルボナーラやクリームソース系以外は、ほぼニンニクマークが付いている。
「臭わないかな?」
「気にしない、気にしない。
パスタを食べる時点で確定だし、知子が思うほど周囲りは気にしてないって。
まぁ、さすがにオイルソースは避けけど」
知子の好みはオイルソースだった。
散々迷った結果、知子は以前なら敬遠していたクリームソース系を選択した。
「へー、らしくないの選んだね」
「以前に比べると、こういう味も美味しく食べられるようになったから。さすがにカルボナーラやチーズ系は未だに苦手」
「チーズ系も美味しいと思うよー。でも、お腹に溜まりすぎるのが困るところだよね」
食後は別行動とした。正直なところ、アクセサリーや雑貨の店を連れ回されても困る。
知子の足は書店へと向かった。
田舎の例に漏れず、この辺でも町の書店は絶滅しつつある。
かつては駅の近くや、高校へ向かう道中にも書店があったようだが、今はシャッターが降りたままで、看板も朽ちつつある。
大きい店舗を除けば、教科書の扱いがある店以外、ほとんどが閉店している。希少な――売れ筋以外の――本も置けるような店以外は、通信販売に押されてしまうのだ。
店内を歩く。特に目を惹かれるタイトルは無いが、本屋の雰囲気自体は好きだ。ほとんどのお客さんは、立ち止まって思い思いの本を開いている。他のお店だったら走り回るような歳の子ども達も、ここではじっとしている。
知子はコミックの売り場を歩きながら、背表紙を順に見る。
かつて読んでいたものに手を伸ばしたくなるが、『知治』にとっても手に取るにはちょっと気恥ずかしい表紙だった。
今の姿ではどうだろう。あるいはこの姿なら、絵ではなく純粋にストーリーを求めているように見えるだろうか。
そういった葛藤を表に出すことなく、平積みの表紙や棚に並んだ背表紙を見るに留め、売り場を歩く。途中で何度か立ち止まり、三十分余りかけて書店を歩いたが、結局何も買わずに店を後にした。




