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逆さ虹が見ていた。

 間抜まぬけどもめ。


 リスは夜闇よるやみの攻防を目撃もくげきしていました。そうして3匹が諸共もろともに落ちていく様も。


カリカリ


 落下した吊橋つりばしからほど近い木の上で、流れる獣達をながめながらのドングリは、美味い。


 走るアライグマと、それをこっそり追いかけるキツネ。さらにその先に位置する、逃走するクマ。樹上じゅじょうからは全てが見えていました。


 追いかけた甲斐かいがある。


 月はすでに高く夜は深い。リスはドングリを味わいながらも、警戒けいかいおこたっていませんでした。


 今はフクロウの世界。油断しようとしまいと、闇夜やみよのフクロウは無敵むてきです。音を立てずに暗闇くらやみで接近されては、どうしようもありません。


カリカリ


 でもここなら大丈夫。葉っぱの重なり合った樹上迷彩(めいさい)地帯でリスは完全に油断ゆだんしていました。ヘビの接近も一応は警戒していたものの、それより流れ行く間抜けらが面白くて仕方ありません。


ゴン


 だから、というのは可哀想かわいそうでしょうか。


 寝ぼけて巣から落ちたコマドリがリスに直撃ちょくげき


ボチャン


 2匹は仲良く夜の川におぼれに行きました。


トプン


 おっと。もう1匹。今度こそ安眠していたヘビも、落下中のリスにしがみつかれ、一緒に川の中へ。


 こうして合計6匹になった間抜けの群れは仲良く死を迎えるのでしょうか。


 リスは最も近くに居たコマドリにつかまってその場をしのごうとしました。羽毛うもうは基本的には水に浮きます。リス程度の大きさ、重さであれば、コマドリにつかまっていれば、なんとか。


ザアア


 しかし、川の流れはどんどん勢いを増しているようです。なんとか岸にたどり着ければ良いのですが。


 リスはコマドリにつかまったままバタ足で川岸に向かおうとしました。しかし全く動いた気がしません。が、それもそのはず。リスの運動量で前進するわずかな距離きょりは、コマドリ及びリスが流される力を全く打ち消せていません。川幅20メートルに達する水量の前では、リスの努力もむなしく。2匹は水流に一切逆らえず、岩にぶつからない事を祈りながら、いつしか意識を失っていました。コマドリは最初からですが。


 そして、月がうすやかに溶け出し、太陽がやわらかに空を満たし、水に浮かぶ物体をも明るく映し出しました。


 それは合わせて6つの心臓を持っていました。


 プカプカと浮かぶクマ。その腹に乗るキツネとアライグマ。痛みを与えないようにクマの手を噛んでつかまっているヘビ。それに。


ガッラ


 やっと目を覚ましたコマドリとリスも、アライグマに引き上げられクマの腹の上に。


 水をき出しなんとか命をつないだコマドリは、目の前にアライグマのうでやキツネの足があるのを見て再び気絶しかけました。どちらもこの距離ならコマドリの羽ばたきより速く爪を立てられます。


 しかし。コマドリの横に座っていたリスは、さほど驚きもしていません。同じ立場なのに。


 そうこうしているうちに、ヘビもクマのお腹に乗ってきて、流石にそろそろせまくなってきました。誰もが身を寄せ合い、誰もが何もしない。食べられる距離なのに。


 クマは冷たい水に身をひたしながらも朝日と身の上の5匹があたたかくて、なんとなく身動き出来ませんでした。キツネはクマを消すチャンスでしたが、他の4匹まで消すつもりもなく、やはり動けませんでした。アライグマはクマとキツネを相手取って戦いたかったのですが、ここではどちらも全力を出せない。決着は地上に戻ってからにしましょう。リスは誰かに手を出したくてうずうずしていましたが、それをきっかけにしてコマドリが真っ先に食われそうな気がして、動くに動けませんでした。コマドリは飛んで逃げる事も出来ました。けれどこの状態をくずして、キツネかアライグマのどちらかが本気で動くと、コマドリも飛翔ひしょう状態に移行する前に刈り取られます。結果、動けませんでした。ヘビはそもそも、またしても下がった体温を上げるためにクマの体温でぬくぬくしていたので、動く気はありませんでした。


 みな等しく誰かの体温で暖まって、やっと命をつないでいる。それを無意識に感じていたのでしょうか。


 いつかクマが岸に着けば、この均衡きんこう状態は解消され、食い合いが始まります。間違いなく何匹かはこの世界から消える事になります。この平穏へいおんは、つかの間のものでしかありません。


 ですが。今だけは皆、同じものを見ていました。


 森の両岸りょうがんから伸びる、さかにじを。


 クマが見付け、キツネとアライグマも気付き、リスとコマドリとヘビもそれに目をやりました。


 綺麗きれいでした。れる事も食べる事も出来ない、無用むよう長物ちょうぶつでも。


 虹色の角が空をえぐっている間、彼らはぼうっとそれを見ていました。



 そして。


 逆さ虹も知っています。


 6匹が確かにそこに居た事を。

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