一緒に
「はぁ……緊張したぁ……」
初冬の昼、冷え始めた空気と、やわらかな陽光を感じながら、屋敷から門までの道を歩いた。
「大丈夫だって信じてたけどね。お父様のことも、あなたのことも」
隣にいる愛歌が、笑いながらそう言った。
「でも、心臓に悪いよ」
「ごめんごめん。もう二度とこんなことがないように、サラたちには言い聞かせておくわ」
門を出て駅までの道に差しかかっても、愛歌はまだ隣にいた。
「あれ? どこまでくるんだ?」
「どこって、あなたの家までに決まっているじゃない?」
「は?」
驚いて声が出てしまった。
「あなたもしたんだもの。私もあなたのご家族に挨拶くらいしておかなくちゃ。昨日はお話ししそびれてしまったし」
「え、マジかよ……。なんかまた変な感じに緊張してきたんだけど」
愛歌がまたクスクスと笑った。
「大丈夫よ。だって……、生き抜いていくんでしょ? 一緒に」
そう言って、手を差し出してきた。
俺はその手を取る。
「そういえば、真夏が打ち上げしたいって言ってたよ」
愛歌が言う。
「打ち上げ? どこで? どうやって?」
そういうのあんまり、参加したことがなかったな。
「さあ。……あ! また旅行とか行く? 私一度、南極に行ってみたかったの」
「勘弁してくれよ」
冷たい風が頬を撫で、白い息が空に溶けていく。
今自分は、この地の上で息をしている。
指先に残る温もりは、まるで春の陽だまりのようだった。
言語って万能なコミュニケーションツールじゃないな、などと思い始めたのは大学に入ってすぐくらいだったと思います。言語化が苦手なだけでしょ、と言われてしまうとその通りなのかもしれませんが、自分の中にある何かを、言葉というカプセルに詰め込んでしまうと、どうしても嘘が入り込んでしまうように感じるのです。
それでも、その「言葉にできない何か」は物語や音楽としてなら、より高次の所で形にできる気がする。だから僕にとって創作とは、ただの趣味やエンタメ活動じゃなくて、感情の発露であり、コミュニケーションの一環なんだと思います。そこから何かを汲み取ってくれる人がどれくらいいるのかはわからないけど、誰かに僕の言語を理解して欲しくて書いている。それしか僕を表現する方法がないから。
だから、この物語はバンドものでもなければ、音楽が中心の話でもない。ひどい言い方をしてしまえば、舞台装置に近いものです。でも主人公である青鏡白はそれでしかコミュニケーションを取れないし、感情を発露できない。音楽の物語ではないけれど、音楽が重要な物語なのです。
むしろ数ヶ月バンドやった程度で、「音楽で救われた」なんて話にしたら、それはそれで音楽に誠実ではないと思うので、それで良かったのかな。
とにかく、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
作者が言うのもなんですが、この物語はいわゆる「泣ける」物語ではないと思います。ヒロインが病気で亡くなったりとか、主人公の周りの環境が大きく変化したりとか、親の仇を倒したとか、そんな大きくドラマチックな話ではないですから。
それでも、読んだ方の心に陽光のように暖かな何かが残るような、そんなお話しになっていたら、それこそがこの作品を書いた意義であると、勝手に思っています。
実はあとちょっとだけ、白たち4人の物語について構想があるのですが……それはまた、機会があったら形にしたいと思います。




