第3話・心に沈めて、でも誓う~弱さを認めて立ち上がる~
神殿孤児院の片隅。
決まった時間以外に近づく者も少ないその物置の影で、膝を抱えるようにして蹲るリオンを見つけたクロードは、いつもとは様子が違うのに気づいて首を傾げた。
空はリオンの髪色よりも赤く燃え、どろりと溶けた太陽が西の果てへと沈んでいく。
「……リオン……」
「…………………」
呼びかけてもリオンは動かない。
ぱちりと一度瞬きして、クロードは無言でリオンの隣に座った。
外の大人に怒鳴られても、孤児院の他の子どもたちに嫌がらせをされても、ちゃんと顔を上げて、真っ向から睨むリオンが、こんな風に落ち込んでいるのは珍しい。
無言の二人の間を風がすり抜け、火照った体を冷やしてくれる。
赤ん坊のリオンが、小さな桶に入れられて川を下って来たのを見つけた時、クロードは神殿孤児院で過ごすようになって一年ほども経った頃だったか……
初めは、流石に普通の神官たちも赤い髪の赤ん坊に戸惑いを浮かべていた。
けれど、持ち回りで神殿孤児院の当直にやってくる呪師である神官長たちだけは、何も気にすることなく、普通の赤子を世話するように接して……
この子は間違いなく人間の赤子に過ぎない、と証明されたらしく、以降は呪師ではない、普通の神官たちもきちんと世話を手伝ってくれるようになった。
産まれたばかりで、まだへその緒もついたままの赤子が、恐らく一日か二日もの間、川を流されて……転覆することもなく皇都にたどり着き、生き延びられたのだから、かなりの強運の持ち主ともいえるだろう。
まあ、流石に、クロードが拾った時には衰弱が激しくて、泣き声さえ上げられないありさまだったが……
(……大きくなった……でもまだ赤子……)
ぽん、とリオンの頭に大きな片手を乗せて撫でる。
「………………」
(……赤い子……)
「……………クロード、またなんか、くだらないこと考えてるだろ……」
「……っ!? ……いや……」
ぐしゃぐしゃにはしないように真顔で頭を撫でるクロードに、どこか拗ねたような、呆れたような声でぼそりとリオンが呟く。
一瞬ぎくりと身体を強張らせたクロードは、だがそっと視線を逸らすだけ。
はああっ、とリオンは大きく溜め息を吐くと漸く顔を上げる。
「……なあ、クロード……」
「……ん……?」
「……オレ、恵まれてるんだな……」
「……んん……??」
どこか遠くを見るように、薄く藍になりかけた空を見上げたリオンの言葉に、クロードは首を傾げた。
(……あんな風に、ガチガチに縛り付けられてるなんて、何でなのかは分からないけど……あの子よりずっと、オレは自由で、守られてる……助けれなくて、ごめん……オレ、もっと、強くなるから……もし、次があったら、今度こそ、迷わず助けになれるように……)
誰に向かってでもなく、心の中でそう決めて……
(……でも、今は……)
でも今は、助けられない自分を、封じ込める。
頭にあの、人形のような女の子がちらついたら、今までの自分で居られない気がしたから……
(……ごめん……でも、忘れない……)
自分の弱さからは、目を逸らさない。
だから何だと言われても、意味はないとしか言えないけれど。
「うっし……そろそろ飯の時間か? 晩飯くらいはがっつり食わないとな」
ニッと笑ったリオンに、軽く目を見開いたクロードは……
「ん……いっぱい食って、大きくなれ……」
「……おう……」
もう一度リオンの頭を撫でると、揃って立ち上がった。
それから数年後、下町で喧嘩騒ぎを起こしていたリオンは、この国の皇孫皇女であるジャンヌと知り合うことになる。
魔女の申し子と、影に日向に疎まれるリオンの髪色を、朝焼けの色、女神の空の色、と肯定してくれた彼女のために、その願いを叶える手伝いをした。
まさかその結果、この幼い日に窓越しに目があった子どもに、とんでもない大迷惑をかけることになったことを、リオンは知らない……
この日の出来事は、子どもの存在とともに記憶の奥底に沈めてしまったせいでもあり、また、子どもを女の子だと誤認していたからであり……
けれども、助けになれなかった自分への怒りから、今度こそ、何が何でも助けになる! と半ば暴走した結果だった。
リオンは知らない。
この時の子どもが、リオンを『リオン』と知っていることを。
知っていて、何も言わずに黙っているのだということも。
「姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~」番外編・聖皇国列伝秘聞
群像短話を読み漁れ!②聖皇国列伝秘聞~窓辺の鳥籠に封じた原罪~(完)
これにて、『群像短話を読み漁れ!②聖皇国列伝秘聞~窓辺の鳥籠に封じた原罪~』、完結です!
最終話となる第3話では、一人落ち込むリオンに寄り添う不器用なクロードの温かさと、リオンが胸の内に秘めた切実な決意が描かれました。
過酷な状況にある少女を見捨ててしまった後悔を抱えながらも、「次こそは迷わず助けになれるように強くなる」と涙を拭って前を向くリオンの姿。
そして数年後、彼が本編で皇女ジャンヌの無茶な願いに、あそこまで己を懸けて(半ば暴走気味に)協力した理由。
それは、あの日「助けになれなかった」自分への強い怒りと、拭いきれない贖罪からくるものだった、というお話でした。
不器用で、でも心優しいリオンが強さを渇望した原点の物語、お楽しみいただけたなら幸いです!
【次回予告&更新ペース変更のお知らせ】
さて、二つの過去編(群像短話)をお届けしてまいりましたが、次回からは……
いよいよ本編第3部の連載がスタートいたします!
舞台は再び現在に戻り、極秘討伐隊として旅立つジャンヌたちの物語が始まります。
ここから始まる、西方の果て・バルバ島へ向かう彼らの過酷で騒がしい珍道中を、どうぞお楽しみに!
◆更新ペース変更のお知らせ◆
本編第3部の連載開始に伴い、明日からは【毎日 夜の1枠のみ(1日1回公開)】へと変更になります。
(これまでの1日2回更新からペースダウンとなりますので、お気をつけください!)
それでは明日の夜、いよいよ始まる本編第3部でお会いしましょう!
引き続き、お楽しみいただけますと幸いです!
【ミニコラム掲載中!】
活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
【読者の皆様へのお願い】
「漸く本編か~」「てか、前回どこまで行ったっけ……??」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします!
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




