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第百六十八話 ベル充

 さて突然だが、ミーアと同様に、その孫娘、ミーアベル・ルーナ・ティアムーンは充実していた。

 大変、充実していた!

 それはもちろん、推しの王子シオンと一緒にキノコ狩りができるから……ではなく、イケメンの祖父アベルと森の中を散策できるから……でもなく、額に(冷や)汗して働く格好いい(くろうにん)の背中を見せるキースウッドに見惚れていられるから……でもなくって……。

「ほら、あの部分。木の片側にだけ、苔が生えているでしょう? あちらが北から北西にあたります」

 熟練の護衛騎士、コネリーから、実地で冒険に使える知識を聞くことができているからである!

「苔で方角を知ることができるんですか?」

 ベルの問いかけに、コネリーは優しげな笑みを浮かべる。

「ええ、そうです。ほら、全て同じ方向に生えているでしょう?」

「確かに、言われてみればそうですね」

 しかつめらしい顔で頷くベルに、コネリーは言った。

「この苔は日の光を避け、北から北西にかけて生えるのです。もちろん、例外はありますし、確実な方法とは言い難いのですが、なんの手掛かりもなく森の中をさまようよりは遥かにマシです。方位磁針が壊れてしまった時などには参考になさるとよろしいでしょう」

「なるほど。そんな方法があるのですね! 太陽と星の位置でというのは聞いたことがありましたが、確かに森の中ではその方法は使いづらいですしね」

 そっかー、とつぶやきつつ、ベルがキラッキラ目を輝かせる。

「それと、やはり森の中では水の確保が重要です。川があれば川沿いに進めばいいが、他にも、水を溜める植物というのもありますから、覚えておくと良いでしょう。木の切り株をくりぬいておくと、水を吸い上げて、溜めることがあります。それを火にかけて……」

 ランプロン伯について狩猟に出ることも多いコネリーである。いざという時のために、森の中でのサバイバル知識をしっかりと勉強しているのである。

「食べ物も大事ですが、それ以上にやはり水です。そして、体調を崩さないことも重要ですから、安全に水を確保できる方法はしっかりと覚えておくべきです」

「ふむふむ、なるほど」

 ベルは、しっかりと、頭のノートにその情報を書き込んだ。

 冒険しながら、冒険蘊蓄を蓄えられる、ベルにとっては非常に充実した時間であった!

 楽しいなぁ! 楽しいなぁ! っとルンルンしているベルだったが、直後、シュシュっと視線を巡らせ、

「あっ、そこ、足元気を付けてくださいね、リーナちゃん」

 すぐ後ろから、とことこついてくる親友に声をかける。

 楽しい気分に浸っているとはいえ、しっかりと足元には気をつけている冒険姫ベルであった。


「ふふふ、もちろんよ、ベルちゃん」

 声をかけられたシュトリナは、ぴょこんっと軽やかに木の根を越えて……。

「きゃっ!」

 着地点にあった雪で、つるりんっと滑った!

 そうなのだ。一応は、蛇の活動に支障のない程度の体力はつけているし、少々の護身術(本当に少々の……相手から奪った剣で相手を殴り倒したりとかはしないようなやつ)も習得しているシュトリナではあったが、基本的に彼女は、可憐な深窓のご令嬢なのだ。

 冒険(わんぱく)姫のベルや、天馬海月(ウマクラゲ)のミーア、農作業で足腰を鍛えつつ、静海の森にも行き慣れているティオーナなどとは違うのだ。

 そんなわけで、勢いよく後ろに倒れかけたシュトリナだったが、直後っ!

「おっと……」

 その華奢な腕を優しく掴む者がいた。

 倒れる! っと咄嗟に受け身をとろうとしていたシュトリナが、恐る恐る、視線を転じると……。

「気を付けてくださいよ、イエロームーン公爵令嬢」

 帝国最強の騎士、ディオン・アライアの顔が、すぐ近くに見えた。

「でぃ、ディオン・アライア……」

 ぽっかーんっと口を開けた直後、シュトリナは悔しげに視線を逸らして……。

「ど、どうもありがとう……」

「はは、別に、お礼を言われることじゃない。一応は、帝国のご令嬢は全員護衛対象なものでね」

 ディオンはそっと肩をすくめた。

「それに、足を引っかけられたと言って、木の根を蹴ったりすると、森の住民に抗議を受けてしまうかもしれないしね」

 どこか茶化すような言葉に、シュトリナは、思わずムッとした顔をして……。

「人をなんだと思ってるの? リーナは淑女(レディ)なんだから、そんなことやるわけないでしょ?」

 その答えを聞いて、ディオンは苦笑いを浮かべた。ふと、彼が視線を向けた先、淑女の中の淑女であるはずの、某皇女殿下が「ん……?」っと小首を傾げていたりしたが……。

「それなら、いいんですがね……。どうも、帝国のご令嬢たちは、思いも寄らない無茶をやったりするもんだから……」

 っと、シュトリナから離れつつ、ディオンは首を振った。

 その軽口に反論しようとしたシュトリナだったが……直後、ハッとした顔でベルのほうを見た! ベルは……口元に両手を当てて、目をキラッキラさせていた!

 心の中で、悲鳴を上げるシュトリナであった。


 ――ふふふ、冒険にまつわる知識を得られたし、リーナちゃんとディオン将軍のラブラブなところも見られたし……。ああ、なんだか、すっごく充実してるなぁ!

 そんなこんなで、実になんとも……充実してしまうベルなのであった。


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― 新着の感想 ―
木の根っこを蹴り飛ばし、「全軍私の護衛として王都まで付き添いなさい」。 まだアホだったメスガキが唯一自分で狙って引き出した成果。やっぱりディオンとしても印象深いのかな。
コネリーがランプラン伯の信頼厚い家臣ということは、一周目の革命では、ランプラン伯がシオンの弟助けようとしたことで、多分巻き込まれて命落としたんでしょ。 こういう平和光景が、ミーアが生きている間は続くよ…
「あなた、もしかして元の時代に帰る気ゼロですか?」と言いたくなるくらい……いや、いつ戻ることになっても大丈夫なように、なのかな?いずれにせよ、とてもそうは見えないくらい、ベルがこの時代を満喫しておられ…
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