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第百六十九話 ラフィーナが蒔いた種、ひっそりと実っちゃってた

 さて、森で思う存分キノコを採ってから、ミーアたちは領都サリーデルに帰還を果たした。

 帰りはアベルと同じ馬車に乗り、観劇後のお茶会のようにたのしーくキノコ狩り感想会をして……、心も体も満ち足りたミーアは、すっかりテンションが上がっていた。

 上がりまくっていた!

「採ってきたキノコは今夜の晩餐会に使うのでしたわね……。ここはやはり、わたくしも少し手伝ったほうがよろしいのではないかしら。キノコの中にもアブナイものもありますし……ふむっ!」

 っと、気合十分! 颯爽とオリエンス邸の調理場に向かうべく、腕まくりをしていたミーアだったが……。廊下をずんずんずんっと歩いて行こうとしたところで、キースウッドに呼び止められる。

「ミーア姫殿下……どちらへ?」

 壁に寄りかかり、腕組みしたまま目を閉じていたキースウッド。スッとその目が開き、鋭い視線がミーアを捉えた。

「ああ、キースウッドさん、今日はお疲れさまでしたわね。キノコ狩り会、とても楽しめましたわ。準備、大変だったでしょう?」

 ミーアの素直な労いの言葉に、キースウッドは朗らかな笑みを浮かべる。

「いえ、みなさまにお楽しみいただけたのならば、心からの喜びです。が……それはさておき、どちらへ?」

 逃がさない、とばかりに追撃をかける。対してミーアは、特に隠し立てすることでもない、とばかりに堂々たる態度で……。

「ええ。わたくし、今回は何もせずに、ただキノコ狩りを楽しんでしまいましたし……。なにも手伝わないというのも申しわけないなと思いまして、お料理の手伝いを……」

 ね、アンヌ? と問えば、背後に控える忠義のメイドは神妙な顔で頷く。

「……いえいえ、そのような……。お心遣いだけで十分です。帝国のお客人にそのようなことは、とてもさせられません。ええ、絶対に……」

「あら、お邪魔はしませんわ。それに、わたくしが手ずから料理しないにしても、監督役が必要なのではないかしら? ナホルシアさまにお聞きしましたけど、オリエンス家の方たちはあまりキノコへの造詣が深くはないご様子……。適切な助言を与えられる熟練者が必要ではないかと思いますの」

 ナホルシアにしろ、ルスティラにしろ、イスカーシャ、ロタリアにしろ……あまりキノコに詳しくはなかった。

 一方で、かつては料理長から「キノコは慣れるまで手を出すな!」と釘を刺されたミーアであるが。あれから早数年。幾度かのキノコ狩りによってすっかり知識と経験を兼ね備えたという自負があるのだ。自負だけが! あるのだ!

 けれど、そんな自称キノコ熟練者に対し、鉄壁のキースウッドが揺らぐことはない。

 二頭の狼と戦いながら、主を守り抜いた男である。心構えが違うのだ。

 キースウッドは涼しい顔で首を振り、

「そちらについてもご心配には及びません。ああ、ちょうど来ましたね」

 キースウッドの声に視線を転じる。っと、そこに立っていたのは……。

「あら、モニカさんではありませんの。それに、周りの方々は……」

 ラフィーナのメイド、モニカが立っていた。さらに、その周りには、ヴェールガの神官の服に身を包んだ青年たちの姿があった。

「ご無沙汰しております。ミーア姫殿下」

 深々と頭を下げるモニカ。まるで、隠していた策がはまったかのような、会心の笑みを浮かべつつ、キースウッドが言った。

「実は、モニカ嬢がキノコに詳しいとお聞きしていたので、ラフィーナさまにお願いして、ヴェールガから来ていただきました。それに、神聖図書館勤務の、同じくキノコに詳しい方々にも……」

「まぁ! ということは、ラフィーナさまご自身もいらっしゃっておりますの?」

「いえ、ラフィーナさまはパライナ祭の準備で手が離せないとのことで」

 モニカの声に、ミーアはちょっぴり残念そうに頷いた。

「ああ、それもそうですわね。卒業しているとはいえ、今回のパライナ祭の声掛け役はセントノエルが担ったわけですし。ラフィーナさまがなにもしないというわけにはいきませんわね」

 なにより、パライナ祭は中央正教会の祭りだ。聖女ラフィーナが遊んでいられるはずもなし。

「ここに来られずに、とても残念がられておいででした」

「まぁ、そうなのですわね。でしたら、なにかお土産でも……キノコぐらいしかありませんけれど……」

 ミーアは思わず悩んでしまう。ラフィーナのお土産には、いつも気を使うのだ。

「ううむ。綺麗なガラス細工なんかもございますけど、ラフィーナさまはあまりアクセサリーとかきらびやかなものを好まれない清貧な方ですし……なにか見たことも無い珍味のようなものがあればよろしいのですけど……」

 基本的にラフィーナは、可愛らしい女の子っぽいお土産を好む人である。確かに、宝石などの過度に高いものは好まない……というか、値段によって評価を左右させることはないのだが、それでも、ゲテモノ類などに比べれば全然、アクセサリーとか可愛らしいお土産とかが好きな人なのだが……。

 前時間軸において、ミーアからのプレゼントを色々とお断りしてしまったことが、ちょっぴり響いているラフィーナである。人は……自らが蒔いた種を自分で刈り取らねばならぬもの。ラフィーナの蒔いた種からは得体の知れない……深海にいそうな……形容しがたいナニカが実ってしまっているのかもしれない。極めて、不幸な話である。

「しかし、キノコに詳しいとはいえ、わざわざモニカさんもお呼びになりましたの?」

 怪訝そうな顔をするミーアに、キースウッドはしたり顔で頷き……。

「ええ。無論キノコのことはございますが……彼女に証言してもらうのがよろしいのではないか、と思いまして……」

「証言……?」

「彼女が実際に見たレムノ王国のこと、蛇や白鴉、風鴉のことを……。それが、クラリッサ姫殿下の助けになるのではないか、と思いまして……」

 その言葉に、思わず納得してしまうミーアであった。

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― 新着の感想 ―
きょ、今日のごはん…これニャ?とチラチラ皿を見てはこっち向く猫の顔が浮かぶ。タコで目を回してる深層令嬢がよくまあかつては火吹きシーサーなんぞになったもんで。
キースウッドの配置は完璧ですね。 モニカ嬢まで用意していたとは。 一切の隙もない構築流石でした。 ラフィーナはまあ、ドンマイ
蛇の知恵者すら把握できないミーア皇女殿下の行動ルーチンを見破り、先回りできる唯一の男、キースウッド その登場ポーズは一体……?
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