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第百九話 FNY(ふんにょ)りモーニングルーティーン

 さて、翌朝のこと。

 お風呂でポカポカ体を温め、蒸し風呂できゅっきゅと体を絞り上げたミーアは爽快な朝を迎えていた。ぐっすり、たっぷり眠りを取って、アンヌに起こされるまでもなく、しっかり起床。ベッドの上で上半身を起こし……微妙に外の空気が冷たいことを確認! 毛布の温もりを求めて、素早く再度、体を横たえにかかる! しかしっ!

「おはようございます、ミーアさま。朝食の前に運動にいきましょう!」

 タイミングよくコップにお水を汲んできてくれたアンヌに促され、仕方なく、ベルとシュトリナを巻き込んで、中庭へ体操に出る。っと、先に来ていたティオーナとリオラと遭遇。

「少し弓の具合を確認していました」

 などと言うティオーナらと共に軽く汗を流す。

 ぐ、っぐぐっと体を伸ばせば、固く凝り固まっていた体がFNY(ふんにょり)り柔らかくなる。

 それから、汗を流すため朝風呂へ。

 実に優雅なモーニングルーティーンを終える頃には、すっかりお腹もいい具合に空き始めている。

「うふふ、朝、適度に体を動かしてからの朝食は最高ですわね。たっぷり食べられそうですわ」

 ニッコニコ上機嫌に言えば、

「はい。タチアナさんも、朝食“は”しっかりと食べたほうがいいと言っておられました」

 アンヌからもお墨付きをもらえたことで、張り切って朝食に臨むミーアであった。

「ミーア姫殿下、本日なのですが、領都の公立ガラス工房をご見学いただくのはいかがでしょうか?」

 食事の席にて、ナホルシアにそんな提案を受けた。

「まぁ! それは素晴らしいですわね。ぜひとも見学させていただきたいですわ」

 サンクランド式温室の可能性については、ミーアも行きがけに十分見させてもらっていた。その温室に必須のガラス工芸技術の見学は、ミーア的にも望むところであった。

 ――うふふ、ルードヴィッヒに来てもらっていて正解でしたわね。自前で温室を作ることができれば、いざという時、小麦栽培の保険ともなりますわ。

 ミーアは二十歳より先の未来を知らない。この寒冷期がいつまで続くのかはわからないし、この先、何度訪れるかもしれない。

 寒さに強い小麦は、今後も品種改良を続け、数を増やしていくだろう。けれど、従来の小麦がそれでなくなってしまうのは、あまり好ましくないとミーアは考えていた。

 昔ながらの美味しいパンはずっと食べ続けたいし、なにより、種類が一つに絞られるのは危険だからだ。

 ――寒さに強い小麦が、暑さに強いとも限りませんし。雨が多い年というのがあれば、雨に強いかどうかも問われるかもしれませんわ。従来の小麦というのは、これまで生き残ってきた小麦であるとも言えるわけですし……。寒さに弱いだけで、他の害には強い可能性だってございますわ。

 もしもの時の飢饉対策のためにも、なんとか、小麦の多様性を確保しておきたいミーアである。

 ――それになにより、キノコを栽培して、いつでもほしいキノコが手に入るという状況は素敵ですわ。ぜひとも、自前の温室を作りたいものですわ。

 ミーアの脳内には、国内に大量に並べられた温室の光景が浮かんでいた。

 キラッキラ輝くガラスの建物。その中に大量に繁殖する未知なるキノコたち。

 キースウッドであれば、その温室を前に崩れ落ちる、サフィアスを幻視してしまいそうな、光景であった。はたして、温室で育てられているのが、全て安心安全な物か、そうでないのも少しは交じっているのか……。それが大きな問題であった。

 それはさておき……。

 ――今日は、ガラス工房の見学。そして、明日以降の予定は……。

 頭の中、大まかに計画を立てていく。

 まずは、表向きの目的であったパライナ祭準備の査察。これに関しては、温室を見学した際に軽くロタリアから聞いているので大丈夫だろう。今日、領都のガラス工房を見学できれば、完璧である。

 ――あとは、真の目的である親善大キノコ狩りツアーと弓術披露会の二つのイベントを通して、シオンとティオーナさんの縁談話を進めつつ、ロタリアさんを教師にスカウトする……っと。ふぅむ……。

 ミーアはここで、思わず考える。

 おもむろに、目の前に置かれたパンに手を伸ばし、むし、むしっとちぎってから、口の中にぽーんっと入れる。

 ――ほほう、このパン、レーズンが入っておりますわね……。ちょっぴり甘くて非常に美味……むっ! このお味、ひょっとして!

 シュシュッと机の上に視線を巡らせたミーアは、バターを発見! バターナイフですくい、パンにたっぷり塗りたくる。

 ――おお! やはり、バターと実にマッチしますわ! 無限に食べられそうなのが恐ろしいところですわね。

 するするとパンを口の中に吸い込みつつ、ミーアは考える。

 ――これからの課題は、主に二つですわね。一つは、ロタリアさんの人格的なこと。本当にレムノ王国の教師に向いているか……。それと、彼女自身の意志も大事ですわね。エメラルダさんを疑うわけではないですけど、念のために確認しておきたいですわ。まぁ、最終的な確認はレムノ王国の姫たるクラリッサお義姉さまにしていただくとして……。

 責任の所在ははっきりさせておきたいミーアである。

 紹介したのはエメラルダ。そして、最終的なチェックはクラリッサ。責任はあくまでその二人にある。ミーア自身はあくまでもサポート役なのだ。

 ――そして、課題の二つ目は言わずと知れた女大公ナホルシアさまの件ですわ。シオンから縁談を断る件は告げられているみたいですけど、はたして納得しているのか? それに、ロタリアさんを教師にというのも、なかなかに難しいものがございますわね。ふぅむ……。

「本日は領都の見学、一日置いて明後日にミーア姫殿下がご所望のキノコ狩りに行くのはいかがかしら? その後に弓術披露の会を催すということにして……」

「まぁ、それは素晴らしいですわ!」

 ナホルシアの提案に、パンッと手を叩き、ニッコリ笑みを浮かべるミーアであったが、そこに声を上げる者がいた!

「恐れながら、オリエンス女大公、発言をご許可いただけるでしょうか?」

 毅然とした態度で一歩進み出たのは、キースウッドだった! その顔は、さながら、絶対的な王者に諫言を呈する家臣のような……極めて厳格なものだった。

「あら……シオン殿下の……なにか?」

 通常であれば、女大公と皇女殿下の会話に割り込むなどもってのほか。王子の従者たるキースウッドでも許されることではない。

 されど、キースウッドはシオンの唯一無二の腹心にして、国王の信頼厚き忠義者あることは、広く知られている。その切れ者ぶりも、貴族の間で知らぬ者はいない。

 そんな切れ者が、あえてこの場で発言を求める重さに気付かぬナホルシアではなかった。

 許可を得られたキースウッドは、わずかながら安堵の表情を浮かべつつも……。

「森の事前調査をしたほうがよろしいのではないでしょうか? 危険生物などについては、すでに把握されていることと存じ上げますが、その……どんなキノコが生えているかわかりませんし、毒の有無も確認が必要です。それにもしキノコが生えていないなどということになれば大変です。ミーア姫殿下に無駄足を踏ませるようなことになっては一大事ではありませんか」

 わかりやすく心配そうな顔をするキースウッド。それに同調するように、ランプロン伯の護衛、コネリーも、うんうん、頷いている。某冒険好きな姫君が興味本位で毒キノコを採ってくることを警戒しているのかもしれない。

「あら? わたくしは別に構いませんわ。まだ見ぬキノコとの思わぬ出会いは楽しいものですし、仮に見つけられなかったとしても……」

 フォローするようなミーアの言葉をキースウッドが遮った。

「そういうわけにはいきません。ええ、帝国の叡智たる方に退屈させるなど、もってのほか。そうは思いませんか!?」

 グッと拳を握りしめ、力説するキースウッド。その言葉を吟味するように考え込むナホルシアだったが……。

「なるほど、確かに、それもそうですね。では、こうしましょう。弓術披露の会を先に行い、その後、準備ができ次第、森にキノコ狩りに行きましょう」

 ナホルシアの言葉に、ミーアは、ちょっぴりガッカリするも……。

 ――楽しみは体力が残っている内に済ませてしまいたかったですけど、まぁ、仕方ないかしら……。それに、弓術披露会でナホルシアさまのご不興を買うかもしれないことを思えば、その後、フォローできるようなイベントを後に残しておくのは必要なことですわね。

 ということで、キースウッドの進言を受け、そして、もろもろの準備を考え合わせたうえで、弓術披露会は三日後、キノコ狩りツアーはそのさらに先とし、本日は領都サリーデルの見学をすることになったのであった。

今年もあと一か月か……ど、どうなってるんだ!?

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― 新着の感想 ―
う〜ん⋯時間稼ぎしてる間に見える範囲の森のキノコを取り尽くす算段ですか?それくらいしかできること無いよね。 安全なキノコだけを栽培できる温室に力を注ぎたいだろうけど、キノコで先陣取られるのが怖いのなら…
あーごめんなさい。また間違えてますね。1月6日はイエスかま洗礼を受けた日です。モミの木はユダヤからエジプトにマリアが脱出する時に。王が生まれるって予言でユダヤ王が赤ん坊殺しまくり事件ですね。モミの木が…
がんばれ! キースウッド!! がんばれ!!!!
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