ワタシ、コンピューターデスカラ!
階段では何人かの人とすれ違ったが、アヤノは構わず俺に話しかけてくる。
側から見たら、スマホのハンズフリーで話をしているように見えるのかもしれない。
まあ、可愛い女の子というのは、怪しい行動をしても不審者にはならない。
「パパがね、井上さんの四十九日が終わるまではオーディションとか控えなさいって言ってたの……。アタシ、もうオーディション受ける気なんてなかったのにね……。でも、アタシは受けるわ! あれ? 井上さんも、ゲンタロウさんだったよね? 名前……。あなたと似てるねっ、ゲンタ」
俺ですもん!
俺、ゲンタロウですもん!
でも、こんなことは絶対に言えないし。
言ったら、分解される?
調べられる?
いや、そもそも信じてなんかもらえないか……。
《オーディション、ガンバッテクダサイ》
「うん、ありがとっ! でも最近オーディション情報集めてないから、また探さなきゃだよ……」
《ダイジョウブ、デス、ワタシガ、ケンサク、シテオキマス》
「えっ? ゲンタ、できるの? そんなこと……」
《アンシンシテクダサイ、ワタシ、コンピューターデスカラ!》
あっ、ヤベッ、調子に乗りすぎたかな?
「えっー! 超オモシロイね! ゲンタぁ〜! 最高だよぉ〜 (爆)」
あら? ウケた?
今時は、「安心してください」って言っておけば、ウケるよね……。
ってか、アヤノとの会話が楽しすぎてヤバい……。
こんなに女子とコミュニケーションしたの、久しぶり……だな……。
いや、初めてか?
あゝ、だとしたら、なんて最悪な人生だったんだぁ〜。
アヤノは俺が井上源太郎だと知ったら、こんなに話をしてくれるかな?
俺、ブサメンだしなぁ〜。
ショックでけぇなぁ〜。
ま、今はスマホだしな……。
この最新型スマホのデザイン、格好いいしな……。
今イケメンってことで……。
《オーディション、ガンバリマショウ! ケンサクガ、オワッタラ、オシラセ、シマス》
「うん、ゲンタ、ありがとっ! じゃ、帰ろっか! あっ、ミスド買って帰ろ!」
《ハイ、オキヲツケテ》
「ほんと……、変ね……(笑)」
俺はまたアヤノのバッグの中に入れられ、自転車のガタガタした揺れを感じている。
行きと違うのは、アヤノの気分だけではない。
俺も、気分がいい……。
なんか……、このガタガタ……、心地いいなぁ〜。
俺はオーディションのことを調べることをすっかり忘れ、その心地よい揺れに身を任せていた。




