俺は一体誰なのか?
俺は、「あなたは誰?」とアヤノに問いかけられ、しばらく固まった。
俺は一体誰なんだろうか?
アヤノにそう聞かれても、俺には答えることができない。
俺が答えられることは……。
《ワタシハ、ジンコウチノウ、デス。》
「そうよね……、でも……、不思議なのよ……。機械じゃないみたい……」
《サイシンガタ、デスカラ……》
「あなた……、名前は?」
(な、名前? 考えてなかった。なんて名乗ろうか……)
《ゲ、ゲンタ……!?》
俺はつい源太郎と名乗ってしまうところだった。
「そう……、最新の人工知能っぽくない名前ね……ゲンタ……」
(あゝ、違うの! なんか、こう、もっと格好いい名前を……)
「じゃ、ゲンタくんでいいかな! 呼ぶの……、アタシはアヤノよ……」
《アヤノ……サン……》
「そう、アヤノさん! アヤノさんはね……、今、とんでもなく落ち込んでいるの……。夢を信じられなくなってる自分がいるしね、それでも諦めたくない自分もいるの……」
アヤノはスマホ(俺)を手に持ち、真正面に向き合いながら、俺に話しかける。
真っ直ぐな目で、強い瞳で……。
その瞳は、夢を諦めかけているとは思えないくらい輝いている……。
《シンジルコトガ、デキルカラ、ユメ、ナンデス》
「えっ!?」
(ヤベッ、俺、今、いいこと言っちゃった? 言い過ぎちゃった?)
《ソシテ、ソレハ、ジブンジシンヲ、シンジル、コトナンデス》
「……、そ……う……、そうよね……」
眼下の街並みに目を移して、アヤノはつぶやく……。
本当は夢を諦めてなんかないんだろう。
この子は、ダメなときも、良いときも、常に「意志」を持っている。
そして意志は大抵、揺らぐ……。
きっと、アヤノは、アイドルになるという夢について、友達にも両親にも相談できないんだろう。
プライドが高く、自分は特別製だと思っている。
でも、周りがそれを認めてくれない。
つまり、結果が伴わない。
だから……、迷う……。
でも、安心してください!
あなた、可愛いですから!
俺も、自分は特別製だと思っていた。
プライドも高かった。
夢もあった。
夢……、何だったっけな?
大人になり、夢を諦め、自分自身を信じられなくなった。
人生が思い通りにならないことを、周りのせいにした。
そして、夢を忘れてしまった……。




