第三十九話 絶望の始まり
続きをどうぞー。
「あれが竜……まさしくドラゴンだな」
そこに居たのは背に巨大な翼を生やし、人をいとも簡単に噛み切る事が出来るであろう牙。そして頭には小さいながらも存在感を放つ角。しかも後ろにはには常人ならば当たっただけで骨を粉砕されかねない力強い尻尾。それら全てを覆った頑丈そうな鱗。
まさにドラゴン。
「《鑑定》」
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新生火竜
132歳
種族 魔物(竜)
レベル 74
体力 8944786
魔力 8939545
破壊力 6402129
耐久力 4450673
魔耐久 4437850
素早さ 7691219
知能 2427850
運 100
魔法適性 炎
スキル 獄炎魔法 炎系攻撃無効 鋭爪 ブレス強化 威圧Ⅶ
称号 七柱に住まう魔物 新生竜 ステータス1000000越え(以下省略) 仲間殺し フロアを占拠する者
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「無理ゲーじゃね?」
そういうのも仕方がない事だ。アオトのステータスとは桁が一つ違うのだ。竜の力がどのくらいなのかは知らないがまず勝てる気がしない。
「一応…………《吸収》」
新生火竜に存在がバレないように時間をかけてでも詠唱を省略し、吸収しようと試みる。だが……。
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七柱に存在する魔物を今のスキルでは吸収する事が出来ません。
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「なっ!?」
今までどんな事があろうともこの《吸収魔法》にお世話になりながらも強くなる事が出来た。だが、今回はわけが違う。吸収できないのだ。これは致命的な欠点で出来ないのならこの竜に勝つのは不可能にも等しい。そのときだった。アオトの不幸が止まらなくなったのは……。
「ギャ?」
新生火竜の声と共に足音も気にせずに全力で走り出す。
「ヤバい!」
新生火竜がアオトの存在に気づいたのだ。これは鑑定では見る事ができない聴覚の良さと感覚の鋭さによるハプニングだ。
「ギャアアアア!!」
見つけると同時に獲物だと言わんばかりに走って近づいてくる。その巨体を持ってしてもこのダンジョンの天井まではまだ余裕がある。
(やばい、やばい、やばい!)
ステータスの差があり過ぎるせいで最初の距離は最早意味をなしていない。
(《擬態》!)
頭を振る回転させ、走りながらスキルを無詠唱で唱える。そのときに詠唱不可と言うスキルが解放されたが今となっては無視だ。
だが擬態を使った筈なのにも関わらず、竜は真っ直ぐにアオと目掛けてもう突進してくる。
(なら《風域》!)
風域を使ってアオトの近くに追い風を発生させ、新生火竜の方へは風を押し戻すように送り込んでいる。
「ギャアアアア!!」
そんなことは無駄と言うかのように今度は翼を思いっきり開いて飛んだ。
「飛べるのか!」
それでも天井や壁に翼が当たることがないことに多少の苛つきがアオトに生まれるがそれよりも焦りの感情が大きいせいで自分でも気づく事ができない。
そしてその翼は一度羽ばたけば周りの空気を退けるような勢いで《風域》の効果を消し去った。
(あれはいけない! あれだけは触れては駄目な奴だ!)
これは言うならば開けてはならないパンドラボックスであろう。
「ギャアアアアァァァァァアアアア!!」
膨れ上がった声と共に今度は新生火竜の口から炎が吐き出される。それを見た瞬間、アオトは危機感と言うのかとても危険な匂いが漂ったような気がした。
その炎の名は―――
獄炎。普通の新生の竜ならば使える筈のない古代火竜達が使う炎の力。
まるで黒い呪いのような雰囲気を纏いて放射される炎は触れたものなら地だろうともいとも簡単に溶かしながらアオトへと接近した。
(《魔力変換・水》!)
直ぐそこまで迫った炎に最大限の魔力を込めた魔力変換を使用するが獄炎の前には一瞬にして無と化してしまった。最早焼け石に水どころではない。言うなれば象を倒すのに一匹の蟻をむかわしたようなものだ。
だが人生とは何が起こるかが分からない。
「抜け穴!」
目の前に現れたのは小さな人一人が入れるかどうかの小さな穴だ。しかも見るからに奥は広いようで恐らくあの獄炎は届く事はないだろう。
「間に合えええええ!!!」
アオトの必死の声が辺りに木霊する。だが獄炎はもう背中とすれすれの所。死ぬか生きるかは紙一重だ。
「《風域》いいいい!!」
最後の粘りとばかりに足下に突風を発生させ、その爆発の威力で穴へと突っ込む。
………………ドゴン!!
巨大な黒い獄炎が壁に当って壁が数十m以上文字通り溶かされる。その溶かされた中にアオトは居るのか……。
果たしてアオトは《風域》のおかげでなんとか炎を避ける事ができていた。魔力と言う自分の力を使い果たして……。
「…………………………」
竜の大きくて赤い存在感を放つ目が抜け穴に突き刺すような視線を送る。だがアオトの執念の成果で竜は諦めて去っていった。
「…………」
竜が去っていってもアオトは黙り込んでいた。それはなにもまだ傍に居ると思っているからではない。心臓が破裂するかと思ったせいで声を出そうにも出ない。
死を体験するとはこういう事かとアオトは感じた。そしてこのときこれ以外の事を考える事はできなくなってしまった。
汗が噴き出す。疲れによるものではない。恐怖とも言える絶望に近いもの。
「まだ死んでねえ……」
強がりとも言える言葉が抜け穴に響く。抜け穴の全長は200mと長い。だがそこに何も居ないとは言いきれる筈がなかった。
絶望はもう始まっている。
今日から家庭の事情で休みが続くと思います。勝手な話ですが待っていてくだされば幸いです。
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